寝子
ケマモト村のおばあちゃんの家で縁側に目を移すと、そこには丸くなっいるフユニャンの姿があった。
「フユニャン?寝てるの?」
後ろから声をかけても、動く様子はない。隣に腰かけて顔を覗きこんでみる。いつも勇ましい三角の目は閉じられていて、猫らしく気持ち良さそうに眠っていた。
珍しい。こんな風に無防備な姿を見せるフユニャンは始めて見た。
フユニャンといえばジバニャンとは違い、「やる気」のある猫妖怪である。ジバニャンはよく私の部屋でも寝てるし、だいたいそのお昼寝前はチョコボーを食べているしで、自由奔放だが、フユニャンがそんなだらけた姿を見せることはなかった。いつもキリリとしていて、猫ながらにかっこいいのだけど。
「フユニャンもやっぱり猫なんだねえ」
猫が寝ている姿が好きな私にとってはたまらない。可愛い。フユニャン可愛いよーー!
私は手を伸ばして、フユニャンのトレードマークである額の傷にそっと触れてみた。ピクリと耳が動いたけれど、起きる様子はない。そのまま、額をゆっくり撫でる。フユニャンの寝顔、気持ち良さそう。
そこで調子に乗った私は、フユニャンの耳の下にある咀嚼筋に手を伸ばしてみた。ぐりぐり撫でてみる。起きない。でも気持ち良さそう。
次は背中。やっぱり猫背なんだなあ。丸いもんね。さわさわ、と撫で続けていると「そろそろいいか?」。あれ、起きちゃった?
「ごめんね、起こした?」
「ああ…あんなに撫で回されたら起きるさ」
「わ、ごめん!つい、フユニャンがかわいいから」
申し訳ない、と手で表すと、フユニャンがニコッと笑ってからくあーっと欠伸をした。その姿もまさに猫だ。いや、もともと猫なのだけど。
「でもフユニャンがこんなところで寝てるなんて珍しいね?」
「ああ…今日は暖かくて気持ち良かったからな。ついうたた寝してしまった」
「熟睡だったと思うけど」
「七海が隣に腰かけたところから起きてたさ。寝たふりをしてたんだ」
それってほとんど最初からじゃない?
「何で寝たふりをしてたの?」と聞けば、「何でだと思う?」と質問で返される。ニヤリ、とフユニャンが笑った。
「わからないよ。私エスパーじゃないもの」
「そうか…それならこれでどうだ?」
えっという暇もなかった。フユニャンが一瞬で浮かび上がると、その手で私の頬を挟む。
「な、なに?!」
「こういうことだ」
鼻先に、フユニャンからのキスが落ちてきた。いや、キスというよりも、ちゅーである。突然のことに私は、固まってしまう。だって、今までの流れでどこにそんな雰囲気がありましたか?!
「ふふふフユニャン?!」
「七海に手を出したと知ったら、ケイゾウは怒るだろうか」
「え?!知らないよ…!」
「…まだ眠い。寝る。おやすみ、七海」
もう一度ちゅっと鼻先にちゅーをすると、フユニャンは私の膝の上で丸くなった。それからすぐに聞こえてくる、安らかな寝息。あれ、フユニャンもしかして、寝ぼけてた?あんなに意識はっきりしてた感じだったのに?!
「むにゃ…七海…饅頭…」
何その寝言ー!
食べたかったのか?食べたかったのか、饅頭を!
愕然としながら、私は、眠るフユニャンを見下ろす。そこには変わらず丸くなった猫がいて、何だかどっと疲労感を覚えたのだった。
その後目を覚ましたフユニャンに、先ほどのことを聞いてみたところ、全く覚えていなかったらしい。「あまり寝起きが良くなくてな」と照れくさそうに頬を染めていたけれど、あれ良くないレベルじゃないよ!
フユニャンは寝ぼけると「たらし」のキス魔になる。肝に命じておこうと思った。