終わる夏
あまりにも長く感じた今年の夏も、ようやく幕を閉じようとしていた。あと一週間もすれば、学校が始まる。終わりが見えてしまえば、名残惜しくなってしまうのも仕方がないだろう。でも、だからといって、これはないと思うのは私だけでしょうか。
「俺、キンとギン探しだして時間戻してもらおうかな…!」
「ケータ…あんた何をバカなことを…」
「だって!夏休みが終わっちゃう…!!」
目をうるうるさせて、景太が私に飛び付いてくる。まだ姉ちゃんとの夏を満喫してない!という彼だが、私は知ってるぞ。なぜそんな駄々をこねているのかと言えば。
「ケータ…宿題残ってるんでしょう?」
「ギクッ!」
「しかも全く手をつけてないね?」
「ギクギクッ!」
「…あと一週間しかないよ」
「助けて!姉ちゃん!!」
ご丁寧にも私に対するリアクションを擬音で現して、景太はぐりぐりと頭を押し付けてくる。痛い!と言えば、いつもよりも大人しく引き下がった。なるほど、ここで私の機嫌を損ねないためか。そして、「姉ちゃん、宿題一緒にやろ…?」とあざとく宣う。最近、景太にはキュン太郎でも憑いているのではないかと疑っている。
でもね、景太くん。いくら可愛くお願いしたって叶えてあげられるものと、あげられないものがあるのをご存知?
「悪いけど、私宿題終わってるから」
「え!もう!?だって姉ちゃん、毎年ギリギリにやってるじゃん!」
「ふふふ。今年はバイト詰めでしたからね。できるときにまとめてやったのよ!」
「ええー!」
ずるいずるい!と景太は騒ぐ。いくら仲良し姉弟と言えども、宿題を一緒にやる義理はない。しかしさすがと言ったところか、景太はめげなかった。
「じゃあ手伝って!」
「はあ?」
「お願いー!姉ちゃんしかいないんだ!」
「自分でやらなきゃ宿題の意味ないでしょ?」
「だって、今年は妖怪と友達になったり、助けたりして忙しかったんだ!だからさー!」
お願い!パンっと両手を合わせて、景太が上目遣いで見上げてくる。やつは私がこれに弱いのを知っているのだ。
やっぱり、キュン太郎が憑いてるんだ。絶対。
「ウィスパーに手伝ってもらいなよ…」
「ダメダメ、ウィスパーは知ったかぶりするんだもん。役に立たない」
あまりにもバッサリな物言いに、私はこの場にいないウィスパーへ合掌した。
「俺、姉ちゃんと一緒なら頑張れる気がするんだ!だからお願い!」
ね?ね?と景太がまとわりつく。無理に作っていた眉間の皺の効果はもうなかった。
「仕方ないな…」
「やったー!さすが俺の姉ちゃん!」
結局いつものパターンに、私はトホホと呟く。あれ、私にはトホホギスが憑いてるのだろうか。
「姉ちゃん!リビングでやろ!」
「はいはい…」
何でこうなっちゃうかなあと思いつつも、私は景太と共にリビングへ向かうのだった。
「え、なにこれ難しいんだけど…!」
「でも小学生の問題だよ?」
「この割合求めろとか…?!どうやるんだっけ?!」
「…姉ちゃん、算数苦手なんだね…」
「ちょ、ケータ。高校生の意地でも解いてあげるから待ってて!ね、このジュースでも飲んでさ!」
「うん、わかったー(ラッキー!自分でやらなくてすむやー!)」