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「ただいまあ〜うう、寒かった…」
「七海ちゃん、お帰りニャーン!」
バイトで疲れた体を引きずるように玄関の扉を開ければ、すぐに飛び込んできたのはジバニャンだった。すりすり頭を胸元にすり付けて来るので、ぎゅーっと抱き締める。「にゃははくすぐったいニャーン」ってジバニャン可愛すぎ。癒される。もっとぎゅっとしたい。ぎゅー!
「ジバニャン!何で俺より先に出てるの!」
ところがそんな至福の時間はあっという間に終わった。我が弟の登場である。もちろん後ろにはウィスパーもいる。
バタバタ走ってきた景太が、鬼の形相でジバニャンを睨み付けていた。でも「あ、姉ちゃんお帰り!」と付け足したときだけはいつもの顔だったから、この子は役者にでもなれるかもしれない。
玄関のなかで漂う不穏な雰囲気。
これは面倒なことになりそうだ。疲れたし、早く部屋に行かなくては。
「ジバニャン!離れてー!」
「やーだよー!いつもケータが一番ニャンだから、たまにはオレっちに譲れニャン」
「何でだよ?!俺が、姉ちゃんに一番にお帰りのハグするんだって決めてるのー!」
「きっこえませーん!」
「この化け猫ぉぉぉー!」
しかし、突然始まった喧嘩に、私はジバニャンを抱えたままそこに立ち往生することとなった。早く部屋に行きたいんだけど…そんな雰囲気を感じ取ってくれたのはウィスパーだ。
「まあまあ、ケータくんもジバニャンも。早く部屋に行きましょうよ。七海さんが困ってるじゃないですか」と、なんとも執事らしいことをしてくれる。私今初めて思った。ウィスパーって結構デキる妖怪なんじゃないかな?!空気読んでくれるし!
そして景太たちも、それを感じ取ってくれたらしい。「あ、ごめん姉ちゃん…」「ごめんニャン、七海ちゃん」と素直に謝ってくる。ちょっと笑えてしまった。息がぴったりなところを見ると、何だかんだ、仲いいよね、この二人。
「いいよ、とりあえず私部屋に戻りたいから。景太、早くお風呂入りなよ」
「じゃあ髪の毛乾かしてくれる?!」
「はいはい。わかった」
「オレっち七海ちゃんの膝の上でチョコボー食べたいニャン!」
「うん、いいよ」
二人揃って、やったー!と両手をあげた。可愛いなあ。そんな姿を見ていたら、何だかバイトの疲れとか全部忘れちゃったな。すごく疲れてたんだけど、不思議。ちょっと元気でた。
「七海さんも手が掛かるのがいっぱいいて、大変でうぃすね〜」
「あはは、でも楽しいよ。もちろん、ウィスパーといてもね」
「…!ありがとうでうぃす〜!」
うっすら頬を染めたウィスパーに、私は笑った。それは自然と浮かんだものだった。
妖怪と関わるなんて面倒くさそうと思ってたんだけどな。
今ではもう、彼らのいない日常が考えられなかった。
部屋に帰ったら、今度は大やもりがクローゼットの中から私を出迎えてくれるのだろう。そのあとはジバニャンと一緒にチョコボー食べて、ウィスパーとお話しして。お風呂からあがった景太が、髪を乾かしてほしいとドライヤーを持ってくるんだ。
楽しい、な。
妖怪と関わる前の私は、毎日をそう思えていただろうか。
ただ学校へ行って、バイトへ行って、帰ってきて…朝起きたらまた学校へ行って。その繰り返しだった。もちろん学校へ行けば友達にあえるし楽しいのだけど、それとはまた違う、ちょっとしたこの特別感。妖怪と日常を過ごせるという、人生のおまけみたいなもの。私は、それが、今では結構気に入っている。
「姉ちゃん!早く部屋いこーよ!」
「チョコボー!チョコボー!」
「うん、今行くよ」
明日も、こうやって楽しくなるかな。いや、なるに違いない。
日常に食い込む妖怪たちや、彼らに関わる景太が、とても愛しいものに思える。思わずにやけてしまう口元を手で隠すと、私は彼等の背中を追ったのだった。
※タイトルはcollectさんからお借りしました