語られないおとぎ話
※軽い悲恋注意
それはいつだったか。七海から聞いた話だ。
人間の世界には、魔法の鏡が出てくるおとぎ話があるらしい。「この世で一番美しいのはだあれ?」と聞く女王に、「シンデレラです」と魔法の鏡が答えるんだ。
ストーリーは、男であるボクには正直、ふうん、という内容だったのだけど、鏡が出てくる部分には興味がわいたのだった。
ボクは、そいつは魔法の鏡ではなくて妖怪だと思う。そう話したら、七海は楽しそうに笑っていたっけ。
「ね、うんがい三面鏡。また60年前に連れてってくれる?」
「あけっぴろ〜ん!お安いご用だよ、今日もまた、アイツのところ?」
「うん…遊びに来いって言われたから」
嬉しそうに頬を染める七海は、どこからみても恋する乙女。そんな表情を独り占めできるアイツは、きっと他の妖怪たちからも羨ましがられていることだろう。もちろん、ボクも例外ではないのだけど。
「気を付けて行ってきなよ〜。もう暗くなるから」
「うん、ありがとう。でも妖怪はやっぱり夜のほうが好きでしょ?」
七海と会えるなら、アイツは時間なんて気にしないと思うけどね。でも悔しいから、そんなことは言ってやらない。「そうかもね〜」と返して、ボクは合わせ鏡を開いた。
「ご開帳〜!いってらっしゃい、七海」
「うん、いつもありがとう!」
七海の手を引っ張って、鏡の中へと誘う。その手は柔らかくて、こうして一瞬でもアイツよりも先に触ることができるのは、きっとボクの特権なんだ。別にこれくらいは譲ってもらってもいいよね?ボクだって七海のこと好きだもん。
「それじゃ、帰るとき、またお願いね」
「了解〜」
七海の体が吸い込まれて、ボクは鏡を閉じた。きっと今頃、向こうではアイツが彼女を待ってるに違いない。あーあ。やっぱり羨ましいなあ。
「早く帰ってこないかな」
今行ったばかりだけど。ボクは彼女の顔が見たい。恋する乙女の顔でもいい。その目がボクに向いていなくても。
やっぱり、あのおとぎ話の鏡はボクと同じ妖怪なんじゃないかなあ。
鏡よ 鏡よ 鏡さん。
世界で一番美しいのはだあれ?
そんなの、七海に決まってるもん。
恋する乙女は皆美しいんだ。そして、その乙女に、鏡だって恋をするんだから。