欲しい欲しいと願って
※短い
「誕生日?」
「はい。妖怪にも誕生日ってあるんですか?」
あまりに唐突な質問だったので、一瞬何を聞かれているのかわからなかった。
誕生日。それはすなわちこの世に生を受けた日のことである。
彼女曰く、先日弟の景太が誕生日だったようで、その日はお祝いとしてたくさんのワガママを聞かされたのだとか。そのときジバニャンやウィスパーがとても誕生日を羨ましがっていたことを思い出したらしく、それが冒頭の台詞となったのだった。
誕生日。正直なところ、考えたこともなかった。
人間は死して妖怪になる。妖怪は生を受けて人間になる。
ならば妖怪の誕生日は。
「ま、普通に考えれば妖怪になった日が誕生日だろうな」
「あ、やっぱりそうなるんですかね?」
「それしか思い付かねぇ。そもそも誕生日だなんて概念、俺たち妖怪にはないからな」
ふむふむ、と彼女は頷くと「誕生日がわかれば、大王さまにもお祝いしようと思ったんですけど」と笑った。
「俺の?」
「はい。いつもお世話になってますから」
「でもどちらかといえば私がお世話してますね」今度はいたずらっぽく笑う彼女を見て、エンマ大王は口を閉じる。「欲しいと願えば貰えるのか?」出かけた台詞を飲み込むためだった。しかし彼女はさらに追い打ちをかけてくる。
「参考までに聞きますが、大王さまは何か欲しいものがあるんですか?」そんな質問、しないで欲しい。
「欲しいもの、ねえ」
「妖怪の王であるエンマ大王さまが欲しいもの、気になります!」
ならば、と手を引いて、その体を抱き込むことができたらどんなにいいだろう。「アンタが欲しい」と言ったら、彼女は何て言うだろうか。けれどもエンマにそんな勇気はないから。
「まっ、俺なら何でも手に入るからな。特にねーな」
「うわあ、さすが大王さま!」
ケラケラ笑う彼女を見て思う。
欲しいと願って貰えるのなら、もうとっくに手に入ってる。だってこんなにも焦がれているのだから。
恋とは時に、残酷だ。