眠らない二人の話

「少しお話ししませんか?」

そんな誘いを受けたのは、時計の針がもうすぐ日付を越えるという時間だった。

「どうした」
「ん〜何だか眠れなくて。お昼寝沢山しちゃったからかも、です」

あはは、と恥ずかしそうにナマエが笑う。その表情に込み上げる何かを感じたが、ぐっと押さえ込んだ。「ダメですかね…?」聞き方がズルい。そんな風に聞かれたら、断れるわけないだろう。

「少しだけだ。明日に響く」
「わかってます!大丈夫です、これでも朝は結構強いですから!」

確かに彼女が寝坊したところなど、ほとんど見たことがなかった。
長女だからしっかりしているのか、それとももともとの体質なのか。いずれにせよ、もう少し起きていても、「彼女の明日」に支障はないのだろう。
ぬらりひょんはそう判断すると、ベッドに腰掛けているナマエの隣に座った。
ぎしりとスプリングが音立てて、沈みこむ。背の高い彼の二の腕辺りに、ナマエが頭を寄せた。

「それで、何を話す」
「そうですねえ…何か面白い話をしてください」
「何?」
「わ、ちょっと睨むのやめてください!怖いから!」

さっと離れて両手を振るナマエに、自然と眉間のシワが寄っていた。失礼な。「冗談ですよ!ぬらりひょんさんは優しいですって」ナマエは誤魔化すように笑うと、再びぬらりひょんの二の腕に頭を寄せた。

「話題がないなら帰るぞ」
「わ!待って待って。えーっと、」
「…何が話したいんだ」

ぬらりひょんの言葉に、ナマエはふと顔をあげた。黒い瞳が、こちらを見上げてくる。

「本当にね、何でもいいんです。ぬらりひょんさんの好きなものとか、嫌いなものとか。普段のおしごとのこととか、エンマ大王さまのこととか」
「…そんなもの、聞いてもつまらないだろう」
「そんなことないですよ!普段は別々の世界にいるから…どんな話でも面白いです。…それに、」
「…何だ?」
「いろいろ教えてください。ぬらりひょんさんのこと。好きな人のことなら、何でも知りたいのが女子ってもんです」

耳まで真っ赤にして、好きな人からそうお願いされては仕方がない。

「…いいだろう。だが代わりに」
「はい」
「お前のことも教えてもらうぞ」

頭のてっぺんから足の先まで、隅から隅までな。

隣に座るナマエの肩を抱き、ぬらりひょんは耳元でそう囁いた。

『眠らない二人のはなし』