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焼き鳥屋に虫が




焼鳥屋さんのタレと炭の匂いが食欲をさそってきて
家で食べるつもりが、ふらふらとその店に入って一杯、二杯と酒まで進んでいた。

昨夜シノ先輩に誘いを断られたショックを紛らわすために飲んでいるのかもしれない。

お酒と美味しい焼き鳥で気が紛れるのなら、リップしか塗っていない侘しい今の姿なんて、どうでもよくなっていた。

こんな実のない休日を送るんなら、仕事に行ってるほうがましなんじゃないかと。
シノ先輩と一緒の空間に居られるし。
まあ、休み明けは違う部隊だから会えるのは帰ってくる夜だけだろうが…




「お姉さん、ここいいかな?」




3人組の柄の悪い男たちが私を囲うように、勝手に席についた。

しまった、完全に油断していた。

1人の女が飲み屋でボケーッと飯を食っていれば、格好の餌食だ。
席を立とうにも完全に道をふさがれていて、出れそうにない…。
困ったことになった。


「お姉さん、肌きれいだね。すっぴん?」

「1人寂しかったでしょ、俺たちが相手してあげるよ〜」


寂しかったの言葉にはっとした。
そうだ、寂しかったんだ。


シノ先輩とご飯が出来ていれば、今頃は楽しかった時間を思い出しながらご飯を食べてたかもしれないし
はたまた、良い展開になって2人で過ごしていたかもしれないし…!?
こんな輩と飯をともにすることなんて絶対になかったはずだ。

タラレバを考えていたらもうヤケクソになっていて、目の前に運び込まれる酒を次から次へと流し込んだ。










「シカマル、この店にしよう。」


久々にシノと呑みに。焼き鳥屋についた。
来週からの任務で一緒の隊を組むことになって、景気づけにってわけでもないけど、流れで。
寡黙なやつだが、しゃべると理屈っぽくて少しめんどくせーところはあるが
意外に感心させられる考えと出会えたりして、俺はシノとの呑みは嫌いじゃなかった。


「あそこにいるのって、お前の後輩の…」


焼き鳥屋に入って目に入ってきたのは、柄の悪そうな男どもと一緒にいる歌舞伎揚げの姿だった。

テーブルには空のグラスが散乱していて
壁にもたれ掛かり、だいぶ酔いが回っているようだった。



「ここに来てたんだな、どおりで部屋にいないはずだわ。
にしても、あれはあいつの友達なのか?」



交友関係なんて人それぞれだし、そこまで彼女に詳しいわけではないが、それでも普段の彼女からは想像しにくい輩だった。

なにより、今隣にいるシノの眉間にしわがよっていること
機嫌が悪くなるのがじりじりと伝わってきて、異変が起こっているとわかった。

とりあえず空いている席についたが、ゴーグル越しのシノの視線は彼女のテーブルからそれることはなかったように思う。










「歌舞伎揚げチャン、大丈夫?ぐったりしてるけど」

「眠たくなっちゃったのかな?お兄さん達とベッド行こうか?ぎゃはは」


少し飲みすぎたかもしれない。いやだいぶ飲んだかも。
身体が熱くて、頭の中がふわふわで、瞼が重くなってきたように思う。
流れに身を任せて、目の前のニヤニヤ笑う男たちのしょうもない話に合わせていたが
そろそろ限界だ。

気にせず立ち上がろうとした時、ちょっと待ってよと、強い力で腰を引かれ
ガタン!と少し大きな音を立てて椅子に押し付けられる。
同時に男の手が太ももに滑り込んできた。


「俺らの目的わかってるっしょ?」

「俺らが歌舞伎揚げチャンと、これからしたいこと」


調子に乗った男の手が内ももを撫で、腰に回していた手は胸へと伸びかけていた。

気持ち悪。


「やだ、やめてください。」


本気を出せば、目の前の男3人くらい、忍術で一発だ。
だけどできなかった。
こうなることはわかってた、別にこうなっても良いと思っていた部分があったから。
寂しさを紛らわすため、好きでもない男と一晩過ごすくらい、私にだって…
全力で拒否することはできなかった。


「なんだよ*、いいじゃん」

「歌舞伎揚げチャン、胸元まで真っ赤だよ、暑いんじゃない?」

「脱いじゃう?脱いじゃう?」


わざわざ私の後ろに周って、羽織モノを脱がそうとしきた。
こいつらはここでする気なのか?さすがにそれは嫌だな。
変に冷静になってきて、チャクラを少し込めた手で振り払おうと思った

その時だった。


「ん?虫?」


男の前を1匹、2匹と虫が飛んできた。
男が片手で払うと、3匹、4匹…と異様に増えているようだった。
私に触れていた男の手を見ると、虫が密集した真っ黒の塊がたかっていた。
それを見た男たちがうわあ!と情けない声を上げながら立ち上がると
男たちの後ろに、見覚えのある姿があった。


「離れろ、彼女は嫌がっている。」


フードを深々とかぶった、ゴーグルの、口元は襟で見えなくて
目の前の男たちより、見るからに怪しい雰囲気の、私の先輩。


私が、恋いしたう人。


「なんだこれ!振り払っても取れねえ!」

「やめろ、こっちくんな!」

「なんだよお、取ってくれよ*」


男たちは引っ付いた黒い塊(虫)を振り回しながら、ドタバタと外へ出ていった。


残ったのは、立ちすくむシノ先輩と、目の前の出来事に呆気にとられて、開いた口が塞がらない私。

でもこれって、困った私をシノ先輩は助けにきてくれたってこと、だよね?

はっと我に返って、まずはお礼を言わないと、言葉を発しようとして改めてシノ先輩を見つめると
周りの雑音がゆっくりと消えていくような感覚になって、先輩も何か言いたげなように見えた。
口元は隠れてるから定かではないけど、でもそう観えた。
二人して言葉に詰まっていて、妙な空気が流れる。


「あのー、お二人さん、見つめ合ってるとこ悪いけど」


そんな空気に入ってきたのはシカマル先輩だった。
意外な人物に少し驚いたが、シカマル先輩は店主の方に目線をくばると、首をすくめた。


「シノ、あー…言いづらいんだが、お前の今の術で他の客からクレームが出たらしい。
店主も悪気があってやったわけじゃないとわかってるから咎めはしなかったが…。
今日のところはもう出たほうが良さそうかも…」

「なん、だど」


その場に固まるシノ先輩。
予想外な展開に、私は思わず吹き出してしまった。
それを見たシノ先輩が更にショックを受けているのもわかった。
いや、助けてもらっておきながら笑うのは失礼なのはわかってる。
でも冷静に考えて、飲食店で虫はアウトだよなとか
颯爽と現れたシノ先輩はかっこよかったけど
今ショックで固まっている姿とのギャップがとか、
さっきまで自暴自棄になってた自分はどこにいったんだろうとか
なんだか色々なものがほどけてく感じで、笑うのが抑えられなくなっていた。


とりあえず先輩たちと3人、そそくさと店を出た。




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