● 紫と緑の共通点


「紫子、あいつまた、あんたのこと睨んでるよ」

ホラ、と赤子の指差す方に顔を向ける。青子と緑子が賑やかに談話していた。しばらくじっと見つめていると、青子がこちらに気付き手を振った。私よりも大きな動作で隣の赤子が「青子〜〜!!」と名前を叫ぶ。
苦笑いを浮かべる青子の隣に佇む緑子は手を振るわけでもなく、顔だけこちらを向いていた。
ふと、目があった。しかしそう認識する前に彼女が背を向けたので、気のせいだったかもしれない。

「睨んでたよ、さっき。嘘じゃないって」
「別に疑ってないよ。ていうか睨んでたからってなんだって話じゃん」

あんた楽しんでるだけでしょ。赤子の茶色い頭を軽く叩いてやると、舌を出して悪戯っぽく戯けた。美容院に行ってきたばかりのツヤのある髪が指に絡む。肌触りが良くてベタベタと触っていると、「しつこい」と手を払われた。

緑子に睨まれるのは今日に限ったことではない。五年前にオーディションで出会ったときからずっと彼女の態度はそうなのだ。
ダンスの練習が終われば会話もアイコンタクトもしないし、ルームメイトだとしても「おはようおやすみ」の挨拶もない。けれど、それはカメラが回っていない状態の話だ。
腹が立たないわけではないが、みんな仲良しのアイドルグループ、と言う仕事を彼女は全うしている。だから裏がどうであれ、わざわざ彼女に文句をつける必要性は今のところそこまで感じない。
私以外のメンバーには愛想が良くても、仲が良くても……事務所がわざわざ何十万人規模のオーディションで獲得した彼女を逃さないために、私一人が我慢すればすべて解決するのだ。

「あ、いま! いま睨んでる! ほら、後ろ見て」
「痛い痛い、もういいから」

服が伸びるのも遠慮なしに裾をぐいぐいと引っ張る赤子の頭を引っ叩こうとしたが、トイレから戻った黄色子に呼ばれた。食事の時間らしい。

「やっとご飯〜〜! ここのホテル、ステーキが超美味しいらしいよ。楽しみ〜肉肉肉〜〜」

うわ、私、ダイエット中だから肉食べれないじゃん。
悪態を吐こうとしたが、鼻歌交じりにスキップしだす赤子に水を差すのも憚れて、口を慎む。
ステーキと聞いて、なんとなく華奢な緑子の身体を思い出した。彼女はガリガリのくせに年中ダイエットをしているので、どうせステーキなんかが出て来ても手を付けず私以外の誰かに譲るんだろう。だからおっぱいも小さくて、男性ファンがなかなか増えないんだ。
無神経にそんなことを考えながら、赤子の後に続いて食堂へと向かった。

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