▼2024/02/02:こんな話思い付いた
沖矢昴の格好のまま、赤井さんは何気なく米花町のとあるカフェに立ち寄る。ホットコーヒーを頼んだだけだったのだが、くしゃりと笑った店員さんの笑顔に不覚にもやられた。純粋で、真っ直ぐな彼女の瞳が煌めいて見えたのだ。何故だろう、どこか懐かしさに似た温かい気持ちに満たされてしばらく動けない。レジを打ち終わった彼女は首を傾げて赤井さんを見ている。そうだ、金だと。赤井さんはマネークリップから千円札を一枚を出して、釣りは要らないと手で伝えた。しかし、その仕草に慌てる店員さん。ああ、つい癖でやってしまった。此処は日本なのにと、赤井さんは店員さんがあたふたしながら小銭を突き返してくるの、仕方なく受け取る。レジ横にあった募金箱に全額入れるものの、「お前は何をしているんだ」感が拭えない。足早に受け取り口へと向かおうとすれば、店員の彼女が大きく「ありがとうございます!」と声を上げていた。出会いはそんな些細な出来事だった。
気づけばそのカフェによく運ぶようになり、彼女の言う「いらっしゃいませ」に親しみが込められ始める。「おはようございます」が付け加えられた時もあった。天気の話も、一言二言やり取りした。そんな頃、例の捜査が大詰めを迎える。しばらくあの店にはいけなくなるなと、それだけ考えて、残りは全て遠くの方へ押しやった。彼女と今後どうしたいのか、最後に会っておくべきかなど考えることを避けた。また逢えたらいいと、どこかで思いながら。
無事に決着がついて、あのカフェへ行ける時間が出来た。今度は本来の姿で。生身の自分のまま、彼女と他愛もない話がしてみたい。話せずとも、彼女の変わりない笑顔が見たかった。それだけだったのだが、「いらっしゃいませ」と聞こえた彼女の声はまるで他人に向けられているようで……。
当然だ。沖矢ではないのだから。
単なる客として接客されていることに、赤井さんは思いのほかショックを受ける。少し考えれば分かることなのに、寂しさを感じてならない。心なしか、目もあまり合わないような気がして焦った。彼女のあの態度は、沖矢だったからなのかもしれない。あの、優し気に見える男に気を許していたにすぎないのかもしれない。「ありがとう」も言えないまま、彼女は仕事に取り掛かっている。このままではいけないと、思い立った赤井さんはまた沖矢さんの姿でカフェへ行くことを思い立つ。
そんなお話。