BBQグリル

 今日は休日だというのに、FBIが主催する関係者向けのBBQにスタッフとして駆り出されている。特別捜査員がこういったことに参加させられるのは珍しいけれど、各組織との連携を円滑にするためにも、こういう場に参加するのは大事なのだそう。

「赤井さん!私にもバーガーひとつ下さーい!」

 仮設テントの裏から中を覗くと、赤井さんはBBQグリルの前に立ったまま視線だけ私に向けた。珍しくTシャツにキャップ帽とカジュアルな装いをしているけれど、それもまた似合っている。

「まだ休憩の時間ではないだろう?」
「でも私は朝から設営していたので、先に行ってきていいよって、リーダーの人が」
「ホォー。甘やかされているな」
「そんなっ、朝から人一倍動き回っていましたよ、ちゃんと」

 テント内は食材や細かな備品が乱雑に置かれてあって、かなり狭い。この乱れようはいかに此処が繁盛しているかを物語っていた。流石の赤井さんも、昼前からひたすらパティを焼き続けていれば額に汗も滲む。手を使わずにシャツの袖で汗を拭おうとしている姿を見て、ちょっとラッキー!と思ったのは内緒だ。

「わ、美味しそう……」

 ジュージューと焼かれていく音とお肉の匂いに誘われて、グリルの前までお邪魔する。赤井さんは手慣れた様子パティを裏返していた。

「すごい、上手ですね焼くの!」
「これに上手いも下手もあるか?」
「ありますよ、私ひっくり返す時崩れちゃいますもん」

 そもそも、今日みたいな日に赤井さんが参加しているのは驚きでしかなかった。しかもバーガーを黙々と作っては提供するなんて、本来なら私もような若手が担当するものなのに。

「にしてもよくやるな君は、」
「え?……ああ、これですか?だってほら、こういうのってボランティアという名の仕事って言うじゃないですかー」
「如何にも日本的な考え方だ」

 理解に苦しむよ、と言いたげに赤井さんは首を左右に振る。

「でもそういう赤井さんだって、ちゃんと此処に来ているじゃないですか」
「ああ、そうか、君は知らないんだったな」
「……え?」

 ああ、これは。きっとBBQの裏で何か動いているのだろう。蚊帳の外にされているのは悔しいけれど、上がそう判断したのなら仕方がない。踏み込まない方が良いのだろうと、私はそれ以上触れなかった。

 赤井さんはモクモクと煙が立ち上る中からパティを取り、バンズの上に乗せる。あー、これこれ。朝からずっと空腹な上に、こんな良い匂いを嗅ぎ続けていたからもう空腹で仕方はない。

「ほら、後は、適当にやってくれ」
「はい!では、遠慮なく!」

 赤井さんから手渡されたお皿を持って、私は具材が置いてある机へと向かう。こういう時はスタッフの特権だ。好きなだけレタスや、トマト、アボカドを挟んで、豪快にケチャップを上からかける。ポテトも好きなだけ盛っていい。

「っ、ん!……おいし、」

 すぐ脇に置いてあったクーラーボックスに座り、束の間も休憩を目一杯楽しもうと決めた。この後はアイスも貰ってこよう。時間は限られているのでなるべく大きな口を開けて頬張っていたら、急に赤井さんこっちへやってきた。トングを片手に持ったまま、何やら手で退いてくれと言っている。

「ん?」

 なんだろう、と首を傾げながらすぐに理解する。クーラーボックスだ。中のものを取りたいんだと思って慌てて腰を浮かせると、赤井さんが中を漁っている。程なくして瓶ビールが出てきた。

「あっ……」
「内密にな」

 そう言って赤井さんは私に瓶を差し出す。どこか少年っぽさを感じらる笑みを向けられて、不意にドキリとした。

 ちょっぴり浮かれた気持ちもあって、赤井さんの悪戯に加担するように私もこっそりと瓶ビールを頂く。まるでイケナイものを受け取るかのように、腕を下げたまま瓶を受け取ると赤井さんの腕と僅かに重なった。それだけで顔が赤くなったような気がしたのは、きっとこのテントの熱さのせい。