深夜のカルデア。
みんなが寝静まった頃、私は空腹に襲われ、ひとり食堂に向かった。
ひっそりと静まり返った空間の、厨房にだけ電気をつけて、冷蔵庫を開ける。
エミヤさんにこっそり相談した時、あらかじめとり分けてもらったお味噌と、ありあわせのいくつかの食材を拝借した。
このカルデアでも、エミヤさんやブーディカさんが来てからというもの、とてつもなく美味しいご飯が食べられるようになった。
とはいえ、私の作るみそ汁はいわゆる、"お袋の味"というやつだ。
とり立てて美味しいという訳ではないものの、懐かしくて、たまに無性に食べたくなる。
「…ん……なまえさん、」
「ひゃっ!!?」
ぽん、と肩に手を置かれたことで、びっくりして飛び上がる。
実家の事を思い出しながら、のんびり作っていたので、背後に誰か立っていたのも気づかなかった。
「驚かせてしまったようで、すみません」
「いえ!こちらこそ、気づかなくて……」
そこにいたのは、円卓の騎士の一人、べディヴィエールさんだった。
申し訳なさそうな顔で謝られ、過剰反応してしまった事が少し、気恥ずかしい。
「そ、それで、あの、べディヴィエールさんは何故ここに?」
「近くを通りかかったら、うっすら明かりが点いていたものですから、どなたかいらっしゃるのかと」
─そうしたら、貴女でした。
美しいお顔でニッコリ微笑まれて、グッと来ない女性がいるだろうか?(いいや、いない)
どきどきする胸を抑えて、平静に努めていると、真横にきたべディヴィエールさんが、お鍋を覗き込んだ。
「失礼。先ほどから良い香りがしていましたが……なるほど。おみそ汁を作っておいでだったのですね」
ああああ、お夕飯のとき、ご一緒してたのに!
わざわざ夜食を作って食べるほど、腹ぺこだって思われたら恥ずかしいいい!
しかも鍋一つ分(とはいえ、20cm程度の雪平鍋だが)、今から食べようとしてたなんて……、言えない。
そんな私の心中を知ってか、知らずか。
べディヴィエールさんは、ほんの少しはにかんだ様子で、
「……もしも貴女のご迷惑でなければ、ご相伴にあずかってもよろしいでしょうか?」
と、実に控えめに申し出てくださった。
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「お口に合えば、良いのですが……」
お椀によそったみそ汁を、よくある決まり文句と共に、テーブルに置く。
食堂の隅できちっと姿勢良く、座って待っていたべディヴィエールさんは、お椀が目の前に置かれると、嬉しそうに顔を綻ばせ、
「とても美味しそうです」
と、実に良い笑顔で言ってくださった。
二人でいただきますをして箸を持つ。
べディヴィエールさんは、相変わらず綺麗な箸使いでゆっくりと食べ始めた。
「……おみそ汁は、カルデアに来てから初めていただきましたが、なまえさんの作るものは、また少し違うのですね……」
「え゙っ」
「あ、いえ!違います、不味いという意味ではないのです。むしろ、私は普段口にするものより、なまえさんの作ったものの方が好みだな、と」
「ふ…ふふ、ははっ」
普段、落ち着いているべディヴィエールさんが、焦った様子で話すのを見て、失礼ながら笑ってしまった。
そんな私の様子を見て、べディヴィエールさんも徐々に落ち着きを取り戻して、柔らかな笑みを浮かべた。
「これ、使っている味噌が違うんです。
……私の家で使っていたものと同じもので。エミヤさんがレイシフト先で手に入れてくださったんです」
「……なまえさんの、ご家庭の味、なのですね」
「そうですね……って言っても、これくらいしか作れませんが」
そう。ここに務める事が決まった時、あんまり帰れないだろうからと、母に教わったのだ。
今はその母も、存在していないのだが。
しばらく、無言で食べ進めていると、先に食べ終わったべディヴィエールさんが、お椀を置いた。
「ごちそうさまです。なまえさん、とても美味しいおみそ汁でした」
「それは、お粗末さまです」
「…こんな美味しいおみそ汁なら、毎日でも食べたいですね」
「そんなに…!ありがとうございます!ええっ……と、毎日……、は難しいかもしれませんが、作れる日は必ずお声掛けしますね」
こんな美青年に、そんなに褒めていただけるなんて……。
すごく嬉しくなって、おかわりを進めてみると、べディヴィエールさんはほんの少し、顔を赤くして「是非とも」と言ってくださった。
あれ、赤く?
とりあえず、おかわりをよそう為にその場を離れた。
その頃、食堂の隅では、べディヴィエールが首を傾げていた。
「……おかしいですね……。なまえさんの国では、これが愛の告白だと聞いたのですが…」
なにか間違えたのでしょうか?
そんな呟きがあった事は、誰も知らない。