あなたと私のAtoZ



(轟)



腕の中に感じる温もりがどうしようもなく愛おしくて、出来ることなら彼女の姿をずっと視界に入れておきたい。瞬きをする事すら惜しいと感じる。なまえが眠りに就いた後も、俺はずっと彼女の寝顔を眺めていた。


首筋に散らばった痕に重ねるように唇を寄せる。髪から香る自分と同じシャンプーの匂いにほっと息を吐き出して、彼女のさらさらと触り心地の良い髪をそっとすいた。

胸にぽっかりと空いていた穴は、今は隙間なく埋まっていた。確かめ合った言葉と、ぴたりと寄せ合った体。肌と肌から体温が混ざって、離れていた期間に積もった悲しみや寂しさが溶けていくのが分かる。腕の中になまえが居る。手を伸ばせばこうして触れることが出来る。当たり前のようで、当たり前ではない幸せだ。


なまえが微かに身動いで、俺の胸に鼻先を擦り付けてくる。寒いのか?毛布を肩まで掛け直して、彼女の身体を更に引き寄せた。


−−−気が付けばカーテン越しの空は白んでいる。雨は止んだのだろうか。……カーテンの隙間から見えた空に、ああ、そう言えば……とひとり納得する。思わず笑ってしまった。

笑った事で振動が伝わってしまったのか、なまえの睫毛が震え−−−そして、目が合った。まだ半分夢の中にいるなまえが「しょーとくん、おきてたの?」と舌ったらずな口調で問い掛けて来る。そんな事ひとつひとつが堪らなく愛おしい。


「起こしちまったか?」
「ん……」
「ごめんな」
「ううん……なんか、焦凍くんが笑ってる夢見た……」
「夢じゃねえよ。……なァなまえ、カーテンの隙間から外が見えるだろ?」
「……それがどうしたの?」
「見てみろ」


顔だけ反対側に向けたなまえは、じっと目を凝らしているらしい。少しの間を置いて、俺の方へと振り返ったなまえの口元は嬉しそうに綻んでいた。


「……雪、降ってる」
「みたいだな」
「本当にホワイトクリスマスになったね、」
「ああ」
「……積もるかな?」
「ふ、どうだろうな」
「積もったら、雪だるま作ろうよ」


子どもみたいなことを言って、あどけない笑みを浮かべる。けれどその身には今何ひとつ纏っていなくて、彼女の白い肌には俺が付けた赤い痕が沢山残されているのだ。彼女の頬に唇をくっつけて、俺はくすりと笑った。


「積もったら、な」
「うん。……あ」
「どうした?」
「後で貰ったケーキ食べなきゃと思って……落としたからぐしゃぐしゃになってるかな」
「崩れてても味は変わんねえよ」
「ふふ、確かに。でもね、凄く可愛いケーキなんだよ。クリスマスイブとクリスマス限定商品なの」
「へえ、」


にこにこと嬉しそうに話すなまえを見ているだけで、俺まで嬉しくなる。なまえにはやっぱり涙より笑顔が似合う。もう二度と泣かせないようにしよう、と改めて心に誓って、言葉を紡ぐ唇にキスをした。


「ん、……しょーと、くん?」
「なまえの事見てたら、したくなった」
「き、急にするからびっくりした……」


頬をまた赤色に染めて、それでもなまえは俺を受け入れてくれる。許されるままにキスを繰り返して、その合間に何度も名前を呼んだ。


「……なまえ、今日は休みか?」
「うん、お休みだよ」
「じゃあ昼くらいになったら出掛けるか」
「!いいの?」
「いいに決まってんだろ」
「……嬉しい」
「夜はチキンとケーキだな」
「わ、クリスマスっぽいねえ」


俺の胸に顔を埋めて、笑みを漏らすなまえにつられるように俺も笑った。今日はきっと、昨日よりもっと良い一日になる。今日だけじゃない。なまえが隣に居るこれからの日々は、再び彩りを取り戻してうつくしく輝くだろう。


「なまえ、」
「なあに、焦凍くん」


悲しみも、喜びも、この胸に溢れる愛しさも、全てを共有したい。そして彼女に教えてもらった様々な感情に、俺はこれからも生かされていくのだ。


「 ……好きだ 」


繋がった手を持ち上げて、彼女の細い薬指にひとつ、口付けを落とす。


この先もずっと、俺と生きてくれ。


−−−そんな願いを込めて。




end