幼馴染の上鳴くんに嫉妬する(前編・R)




電気くんとわたしは小さい頃からずっと一緒の幼馴染だ。いつも明るくて太陽みたいな電気くんは、わたしの憧れで、大切な存在。好きになったのがいつかなんて、ちゃんとは覚えていないけれど……。気が付いた時には''男の子''として電気くんの事が大好きだった。わたしは幼馴染に初めての恋をしたのだ。

……そして電気くんが、わたしの事をひとりの''女の子''として見てくれていたんだと知ったのが、つい最近の話。

告白された時は、夢かと思った。びっくりして、嬉しくて……思わず泣いてしまって。『も〜、泣くなよなまえ!俺まで泣きそうになるじゃん!』なんて言いながら、電気くんはわたしを痛いくらい抱き締めてくれた。その温もりと痛みで''ああ、これ夢じゃないんだなあ''って感じて、更に涙が溢れた。


抱き締める腕を緩めた電気くんが、わたしの顔を覗き込むようにして薄っすらと頬を赤色に染める。きっと、わたしも同じ色。『……なまえ、キスしたい……』近付く顔。自然と目を瞑っていた。電気くんの熱を持った唇。きっと、ずっと忘れられない。


−恋人になったら、今まで以上に特別な毎日が待っているんだと思ってた。自然と甘い雰囲気になったり、目が合ってドキドキしたり。……でも、実際はそんなことなくて。寧ろ電気くんは、学校であまり話し掛けて来なくなった。皆で居る時とかも、そう。前は当たり前みたいに隣に来てくれたのに、距離を開けられることが増えた。

……男の子と楽しそうに話してるのを見るのは平気だった。でも電気くんが耳郎ちゃんと楽しそうに話してるのを見るのは、本当に辛くて。二人が笑い合ってるのを見ると、勝手に胸がじくじくと痛んだ。前から仲が良くって、話の趣味も合う二人。……わたしなんかより、よっぽどお似合いだなあって思ってしまう。

そんな事を思う自分も嫌だった。電気くんが折角わたしのことを好きだって言ってくれたのに、こんなわたしを知られたらきっと嫌われてしまう。恋をして知った、決して綺麗とは言えない自分。電気くんとお付き合いしてから、触れて欲しいとか、独占欲とか、そんな感情にばかり支配されて苦しい。恋はもっと綺麗なものだと思ってたのに。キラキラして、ドキドキして。

……苦しい、な。


***


「なぁなまえ、この後家に来ねえ?」


授業が終わって、近付いて来た電気くんにそう声を掛けられた。その一言でわたしの気持ちは簡単に浮上する。断る理由なんてない。ぶんぶんと首を縦に振れば「すげー勢いだな!」とわたしの大好きな笑顔で電気くんが言った。わたしだけに向けられたその表情に、胸は甘くときめく。

「なまえと上鳴ってホント仲良いよね」
「ま、幼馴染だからな」
「ウチもなまえみたいな可愛い幼馴染が欲しかったわ。あっ、てか上鳴、貸して欲しいって言ってたCD持って来たよ」
「マジ!!?貸して貸して!」


その笑顔がパッと耳郎ちゃんに向けられて、甘いときめきは一瞬で痛みに変わった。……やだ。話さないで。わたしの目の前で、仲良くしないで。……だめ。こんな事思っちゃ、だめだよ。ぎゅうとスカートを握り締めて押し寄せる感情に耐える。「なまえ、ちょっと上鳴借りるね!」と言いながら電気くんの腕を引っ張る耳郎ちゃんに「うん、」と笑顔をつくって返事をする。……ちゃんと、笑えてたかな。


帰り道も、電気くんは楽しそうに耳郎ちゃんのことを話す。今度またCDを借りるとか、あのバンドの新譜が最高なんだとか、わたしとは普段話さないようなことばかり。一生懸命聞くんだけど、わたしには相槌を打つことしか出来ない。これが耳郎ちゃんだったら話が膨らんで、盛り上がって、電気くんももっと話していて楽しいんだろうなあ。幼馴染なのに、恋人なのに、わたしは電気くんの好きなことに笑って返事をすることしか出来ない。そう思うと泣きたくなるくらい惨めで、電気くんが誘ってくれた時のドキドキした気持ちがどんどん萎れていった。


***


久々に入る電気くんの家は、なんだかホッとする。昔から通い慣れた、ふたりの思い出がどこよりも詰まったこの場所。小さい頃から遊ぶのはいつも電気くんのお家だった。雄英に入学してから全然来れてなかったから、電気くんママに会うのもかなり久しぶりだ。……って思ったんだけど、どうやら今日は夜までお仕事らしい。残念。

「なまえは俺の部屋で待っててな!なんか飲み物持って来るから」
「うん、分かった」

……電気くんのお部屋、変わらないなあ。このゴテッとしてる感じ。電気くんらしくて、思わず笑みが浮かんでしまう。

「なーに人の部屋見てニヤニヤしてんだよ」
「わっ、で、電気くん……戻ってたなら声掛けてよ……!」
「なまえが楽しそうだったから、ついな!何か面白いモンでもあったか?」
「ううん、変わらないなって思って……」
「何だそりゃ」


歯を見せて笑った電気くんが、隣に腰掛けてわたしの髪をくしゃくしゃと撫でる。電気くんの手が触れたの、すごく久しぶりな気がする。お部屋に漂う甘い雰囲気にとくんと胸が鳴る。……恋人になったあの日から、ちゃんと二人きりになったのは初めてかもしれない。ただの幼馴染だった頃は、肩と肩が触れ合う距離も当たり前だったのに……今は触れ合った肩から鼓動が伝わるんじゃないかってくらい、緊張しているわたしがいる。

でも、すごく嬉しい。いっぱい触れて欲しいし、触れたいって思う。今はわたしだけの電気くん。だって、この空間には誰も入って来れない。


−……そう、思ったのに。


「あっ、そうだ!なまえも耳郎が貸してくれたCD聞くか?すげーカッケーの!アイツ、本当に色んなバンド知ってんだよなあ!」


……また、耳郎ちゃんの話。近付いた距離はすぐに離れて、電気くんはガサゴソと鞄を漁り始めた。その間も明るい声色で話続ける電気くんに、なにかがぷつりと切れる音がした。


「それでなー、この間も……ッ、なまえ……?な、なんで泣いてんだよ……!?」
「…………っ、」
「……なまえ」
「で、でんき、くん……わたし、も、むりだよ……っ」
「……無理、って?」
「……こんな、苦しいなら……っ、幼馴染の、ままで良かった……っ」


溜まってしまったドロドロとした感情が溢れ出てしまう。泣きたくない。何も発したくない。嫌われちゃう。嫌われたくない。電気くんに、好きでいて欲しい。こんな汚いわたしを見せたら、一緒に居たくないと思われるに決まってる。そう思うのに抑え切れない。


「……なんで急にそんなこと言うんだよ」
「っ……だ、って、」
「……もしかして俺が、耳郎の話したから?」
「っ、」
「なまえ、こっち向いて」
「や、やだ……!」


やだって言ってるのに電気くんはわたしの肩を掴んで、無理やり顔を向けさせる。涙でぐしゃぐしゃな汚い顔。見られたくないのに、覗き込むようにしてじっと見つめられる。


「……なあ、ヤキモチ妬いたの?」
「っ……」
「……俺が耳郎と話してるの嫌だった?耳郎の話するの、聞きたくなかった?」
「わ、かってるなら……っなんで、聞くの……!?」
「……ごめん、なまえ」


電気くんの手が両頬を包み込む。ぐっ、と顔が持ち上げられて、間近でわたしを見つめている電気くんと目が合った。


「……今、すげえ嬉しいわ」


何故か電気くんは、見たこともない顔をでうっそりと笑っていた−……。



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