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フェイロンとのセックスで、気絶するまで抱かれた綺羅の意識はない。
いつも抱き潰して、意識がない綺羅を悠斗と住む花屋の二階まで送るのが日課になっていた。
「綺羅…」
フェイロンは悠斗の元へ帰すのを毎回惜しんでおり、このまま拐ってしまおうかと何度思った事か。
疲れ果てた顔で眠る綺羅に触れるだけのキスを落とす。
一度だけでは満足出来ず、火がついたように何度も口付けた。
「知らない方が良い事もあるのに、何故お前はこちらの世界に足を踏み入れるんだ…」
あのまま花屋の店主と客のままでいられたら、どんなに良かっただろうか。
フェイロンの不注意で綺羅をこの世界に引きずり込んでしまった事を、今更ながら後悔していた。
きっと泣かせてしまうだろう。
真実を知ったら、憎まれる事はわかっていた。
本当は伝えたくない。
たが、仕事を引き受けた以上、どんな事があってもやり遂げる。
それがフェイロンのルールなのだった。
「俺の綺羅は良かった?」
突然の声に、フェイロンが勢い良く声の主にナイフを突き付けた。
シュッと相手の首に鋭利な刃が擦れ、傷口からは赤い鮮血が流れる。
いつ侵入したかかわからないが、フェイロンは気配に全く気づけ無かったのだった。
「そこじゃ、俺は殺せないよ。
頸動脈はもう少し上、腕が鈍ったんじゃないの?」
クスクスと声を出して笑う度に、ナイフが首に食い込んで血がタラリと零れ落ちた。
「綺羅の初めてを斗真と同じ顔したお前が奪ったと思うと、腸が煮え繰り返るよ」
先程から感じていた痛みがジクジクとフェイロンを支配する。
琉聖により、太股をナイフで切りつけられていたのだ。
フェイロンが首にナイフを当てた瞬間、琉聖もまた太股にナイフを突き付けていたのだった。
「……何の用だ」
フェイロンの目が細まり、琉聖を睨み付ける。
「ん?俺の愛する綺羅を迎えに来たのと、久世斗真を殺害した人間を教えに、ね」
感情の読めない笑みを浮かべ、琉聖はUSBをフェイロンの顔の前に持って行く。
それを無言で受け取り、ナイフを突き付けたままパソコンに挿入した。
中身を確認すると琉聖の言う通り、斗真の殺害シーンを捕らえた映像が映し出されたのだ。
「ね、ちゃんと映ってるでしょ。だから、ナイフをしまってよ」
その言葉に、フェイロンは警戒しつつもナイフを琉聖の首から外した。
その瞬間、傷口からは血がタラタラと零れたのだ。
それを琉聖は素早く止血すると、何事も無かったかのように壁にもたれ掛かった。
「後で報酬は振り込んでおく」
そう伝えて、フェイロンは続きを見始めた。
どこかで見た事ある顔に、自然と眉間に皺が寄る。
「ああ、言い忘れてた。斗真を殺したの、弟の久世悠斗だよ」
それを聞いて、フェイロンが微かに目を見開く。
「兄を殺す気分って、どんななんだろうね。また綺羅の大切な人間が居なくなっちゃうのか」
クスクスと笑って、琉聖は振り返る事なく部屋を出て行ったのだった。
静まり返る室内、何度も繰り返される殺害シーン。
一度見ただけでわかる。
素人の成せる技でない事を。
そして悠斗はかなりの手馴れた動きをしており、フェイロンはベッドに眠る綺羅へと視線を向けた。
「……同業者か」
花屋で何度か会った事があるも、全く気づけなかった。
悠斗がフェイロン同様の殺し屋だなんて。
そして、中国一恐れられているマフィアのボス、ショーンの手先である事も映像が物語っていた。
ショーンを守るように護衛し、辺りを見回し、それだけで側近である事がわかったのだ。
主人公の幼馴染みは、マフィアで殺し屋。
2024.08.03
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