*幽遊白書「初恋ハンター」の続き

「友達の趣味変わった?」

私の言葉に秀一はぎろっと睨んできた。
肩をすくめて口を閉じる。怒らせると酷い目に合うのは自分だ。

今朝急に一週間分の荷造りをしろと言われて秀一が言うのだから何かあるのだろうと言われるがままに準備をした。そして連れてかれるがままに此処まで来たは良いが状況は理解できていない。
春休みなのに一週間の予定を急に決められた事にはなるが出不精の私は春休みは引きこもる予定しかなったので私生活に支障は無い。秀一もそれは分かっているから急に言ってきたのだろう。

因みに今は船を待っている時間らしい。その船でどこへ行くかは知らない。

「おい蔵馬そいつ誰だよ」

「俺の使い魔みたいなものだから気にしなくて良いよ」

使い魔ぁ?
実の妹に対して酷い言い草だなおい。
と顔に出して訴えたが秀一は一切気にしない。

秀一は人間としては素晴らしい出来だし兄としてもまあそれなりだ。
しかし妖怪が絡むと一変して私には有無を言わさず強引な行動を取ることがしばしばあった。
それは何百年も生きている妖狐だった秀一からしたら私に説明している時間が無駄だと思っての行動だと分かっているし従って後悔した事が無いので今回も黙って従ったのだ。
にしても使い魔か。
良い意味なのか悪い意味なのか。多分悪い意味だけど。

数日前に告白した血のつながった双子の兄はあれから何事も無かったように振舞っている。
いや別に良いけどさ。付き合いたいとかあった訳ではないし。自分でもどうすればいいか分からなくて相談したかっただけだし。ただ相談相手と悩みの種が同一人物だというだけだし。

秀一の友達らしき人は見た目から明らかな不良だと分かる立派なリーゼントを頭に付けている。多分中学生だろう。
地区内でもトップの進学校に奨学金を受け取りながら通っている南野秀一という人間には似合わない友達だ。

「使い魔だと?どう見ても人間だろうが」

舌打ちをつきそうな悪態で睨んできた黒い人はどう見ても人間じゃなかった。妖気がバシバシ飛んできてるし。

「向こうに着いたらコエンマに預けるから、心配しなくていいよ」

「誰がお前の女の心配なんかするかよ」

コエンマという聞きなれない名前に首を傾げながら秀一の女扱いをされている事に違和感を覚える。まだ使い魔扱いの方が違和感は無い。

なんか嫌な予感しかしない。
気にしないようにしていたけれど周りにも妖気を発している輩がうようよしているのだ。この状況が良いわけがない。

「秀一」

裾を引っ張ると秀一は無言でこちらを向いた。

「これからどこに行くの?」

「……暗黒武術会」

あんこくぶじゅつかい。脳内で秀一の言葉を反芻する。

あんこくぶじゅつかいって何だ。ぶじゅつかいってのはつまり武術で何かを競う大会なのだろうか。あんこく?あんこくって漢字で書くなら暗黒?まさか?そんな子供が着けるようなネーミングの大会ある?

秀一の言葉が飲み込み切れなくてもう一度秀一の裾を引っ張った。

「それ何の漫画の話?」

ちっと黒い人が聞こえるように舌打ちをした。