Calm4


「ホントだったんだな。リースが戻ってきたってのは」

「久しぶり、フランクリン」

「生きてたんだ。死んでれば良かったのに」

「酷いなシズク。この通りぴんぴんしてるよ」

ヨークシンで蜘蛛のアジトになってる廃墟に着いて、懐かしい顔ぶれにへらへらと笑って返すが、なかなかにアウェイな雰囲気だった。
クロロが攫われたという連絡と同時に私が現れた事は明らかに不自然だった。
まあ、実際自然じゃないし。分かっててこのタイミングで出てきたんだし。

「今回の事はお前が仕組んだのか、リース」

「違うよ。私は関わってない」

即答で否定する。関わっていない。関わっていないからこうなった。
横に居るフィンクスやフェイタンは納得していないようで殺気が止まらない。

「じゃあリースなんでこのタイミングで戻ってきたの?」

比較的冷静で、でもやっぱり怒ってるシャルナークの質問に頭をかく。

「だからさ、さっきも言ったじゃん。そこの二人を殺されるのはちょっと都合が悪いんだよ。出来れば殺さないで欲しい」

「この二人を張ってたら俺達に捕まって殺されそうだったから出てきたってわけ?」

「そうそう」

「……鎖野郎と知り合いなのか?」

「うん。知り合いっていうか、何年か一緒に過ごしてたけど。一応今年の春からお互い別行動だよ。私はクラピカがどんな念能力者なのかも知らない」

「一緒に過ごしてた?じゃあお前は鎖野郎が俺達に復讐しようとしてることを知ってたって事か?」

「知ってたよ」

「知ってて止めなかったのかよ」

「どうして止める必要があるの?」

間髪を入れず返した私にフィンクスの目が細まる。

「どうしたもこうしたもねぇよ。お前は鎖野郎が俺達を殺そうとしてるって分かっててそんな奴と暮らしてたのかよ」

「そうだよ」

びきっと音を立てそうな程にフィンクスの額に青筋が浮かび上がる。

「一応誤解が無いように言わせてもらうけど、別に私は貴方達と率先して敵対したい訳じゃないよ」

「じゃあどういうつもりね」

フェイタンは納得のいかない答えだったらコロス、とばかりに殺気を飛ばしてくる。
なんか殺気浴びてばかりで肩が凝りそうだ。

「そんなことこっちが聞きたいよ。私は元々クルタ族に用があってクルタ族の集落を探しててようやく見つけたと思ったら貴方達が一族皆殺しにした直後だったんだもん。皆殺しにされてるクルタ族を見つけた時私がどれだけ頭抱えたか分かる?」

「―――知らねぇよ」

私の答えがお気に召さなかったフィンクスとフェイタンが一瞬にして近付いてきてそれぞれの手と剣が私の首に向かってくるのを避ける。

「てめぇ!降りて来いよ!」

「いやだよ。降りるわけ無いじゃん。2人とも短気なのは相変わらずだねぇ」

はーっとあからさまにため息をつく。
2人は天井に立っている・・・・・・・・私の首を飛び上がってまで取る気は無いらしい。
フェイタンの盛大な舌打ちが私の頭上で鳴った。

ゴンくんとキルアは初めて見る私の念能力に驚いている。

"無重力少年フリーランス"
引力の方向や強さを好きに出来る私の念だ。
この念を使えば私にとって壁や天井は床になり、重さは軽さになる。
地球上のありとあらゆるものにのしかかっている重力を思うがままに操れる。
勿論、念の有効範囲は限定されているが。

この念を使ってゴンくんとキルアを助け出すことは可能だ。でも私が知っている未来ならゴンくんとキルアは殺される事はないから、別に私がわざわざ何かしなくてはいけない訳ではない。
しかし不安は残る。
本来なら私はここに居るはずがない人間で、その居るはずがない人間が深く関わっている人達が今回渦中にいるのだから。
私が知らない未来が訪れてもおかしくはない。

「まあとりあえず、パクノダの帰りを待とうよ」

へらりと笑うと「テメェが仕切んじゃねえ!」とフィンクスに怒られた。



リース・ルシルフル それがこの世界の私の名前
西園寺 瑞樹 それは私がリースになる前の名前。それでいて、故郷を出てからの私の名前でもある。

どちらも私であることに変わりはない。






***






「のめると思ってるのか。そんな条件をよ。場所を言えパクノダ」

「……どうしても?」

帰ってきたパクノダは私が知ってる物語通り、クラピカの条件に従おうとしている。
あと、私もゴンくんキルアの二人と一緒にクラピカの下に行く事になってるらしい。
そして私もクロロとの意思疎通は禁じられてる。目を合わせないように気をつけなくちゃねぇ。

パクノダに真っ向から反対するフィンクスフェイタンと、その二人に向き合うマチと。
口論に発展しそうなそれにゴンくんが割り込んで話している。

「リースはどうするの?鎖野郎の指示に従って鎖野郎のとこに行くの?」

入口近くの壁を背もたれに座り込んで、成り行きをぼーっと見ていた私にシャルが問いかける。
一斉に皆の視線が向いた。
そんなに注目されると照れちゃうな、なんて言える雰囲気ではなく。

「……んーと、クラピカにもさっき電話で言ったんだけどね」

ぐるっと皆と視線を合わせてから話し出す。
私の声が廃墟にやけに響いてる様な気がした。

「私は今回の件に関与する気は無いの。積極的にはね。だけどそこの二人を殺されるのは困る。だから考えたんだけどね、私の結論は貴方達蜘蛛に委ねるよ」

「俺達に委ねる?どういうことだ」

フランクリンに向かって頷く。
フィンクスとフェイタンからは相変わらず殺気がびしびし飛んでくる。殺気が痛いよ。
その痛い殺気に負けないように皆を見返す。

「貴方達蜘蛛がクラピカの条件に従うと決めたなら、それに私も従う。貴方達蜘蛛がクラピカの条件に従わないと決めたなら、それに私も従う。その場合のこの二人は、まぁ、出来れば殺さない程度にはして欲しいけど」

殺さない程度にされた二人を想像して、それから二人の家族を思い出して。もし、そうなったら申し訳ないなと思う。
まあ、そんな事にはきっとならないのだけれど。

「だけど、蜘蛛の中で意見が半分に割れたのなら、蜘蛛の手足が半分になるのなら・・・・・・・・・・・・・・、私は今すぐにでもこの二人を連れて逃げる」

「「「「「「「!!!」」」」」」」

蜘蛛のメンバーが一斉に息をのむ。

「それでも蜘蛛は止まらない。遺る手足が半分になろうとも、だっけ?」

それは蜘蛛に告げられた詩。

「てめぇ!なんでその占いを……!」

「く、ははは、ははははっ。そういうことか!」

フランクリンが納得いったとばかりに膝を打つ。
他の蜘蛛の面々も私の言葉に動揺していた。

「フィンクス。パクノダを行かせてやれ」

「ああ!?」

「リースの言葉を聞いてお前も分かっただろ。俺達はあの占いを聞いて鎖野郎が俺達の半分を殺しちまうのかと思ってた。だが違う。もっと確実な方法がある。それは俺達が仲間割れすることだ。仲間割れして殺し合ったらそりゃ半分にもなる。鎖野郎が直接手を下すまでもなくな。占い通りだ。そしてそれこそ団長に対する裏切りだろうが。頭冷やせ。いいじゃねェか。好きにさせて」

「……」

フランクリンの言葉を受け入れたのか、フィンクスが黙る。
じっとフィンクスの返答を待っていると、ぎろっと睨まれた。

「テメェ、関与してないってのは嘘だろ。占いもお前の仕組んだ事じゃねえだろうな」

「まさか。何度も言うけど関与してないってば。占いも私は関係ない。私はただずっと見てただけ」

「見てた……?」

「そう。この左眼で」

左眼に意識を集中する。
じんわりと熱くなっていくのが分かる。
近くにいたキルアが目を見開いた。

「瑞樹!その左眼……!」

真っ赤な緋色に染まった私の左眼。
クルダ族の緋の目。

「この眼はね、色々見えるの。見えないはずのものがね」






「リース!」

あの後、選択を急かす様にクラピカの電話が来て、結局クラピカの条件に従う事になった。
緊張感が解けて、ちょっとだけ息をついて私とゴンくんとキルアとパクノダの四人で廃墟を出ようとした時、シャルに呼び止められた。

「また会える?」

予想外の言葉に少し驚く。
また会いたいと思ってくれているのか。
こんな状況で現れた私を。

じっとシャルを見返していると、その後ろからマチまで顔を出してきた。少し後ろに不機嫌そうに腕を組んだフィンクスも見える。

「うん。またね」

軽く笑って、手をひらひらと振る。
しとしとと降る雨が、妙に暖かく感じた。

2020.09.25