Calmの小話(過去拍手)
*狩人「Calm」の夢主、ハンター試験受験する数年前 「だからごめんって、クラピカ」 ぶすっとした表情で本を読んでいるクラピカに何度目か分からない謝罪をする。 因みにその本は先程から1ページも捲られていない。っていうか、それ前に読み終わってる本だよね。一度読んだ本の内容はほぼ完璧に覚えているクラピカが同じ本を二度も読む理由が無いよね。私と目を合わせたくないだけだよね。 「それが謝る人間の態度か?」 本から視線を逸らさずに返ってきた言葉に溜息が漏れそうになるのをぐっと堪える。今回は全面的に私が悪いのだから。 確かに私は明日、クラピカの鍛錬に付き合うと約束した。しかし、あのクソ副会長から電話が来て明日は早朝から出勤になってしまった。だから、クラピカの鍛錬に付き合う事は出来ない。その事情はクラピカだって理解している。 問題なのは、明日の仕事は断ろうと思ったら断れた仕事であり、私がクラピカとの約束をすっかり忘れて請け負ってしまった事であり、その電話でのやり取りをばっちりクラピカが聞いていてしまって言い逃れが出来ないこの状況である。 「『明日は一日中暇だ』と言って仕事を請け負ったんだろう。だったら行くべきだ。例え元々は俺との約束があった日だったとしても」 「本当ごめん……」 口では大人みたいな事を言っているクラピカもその身体はまだ幼く、少年の身体だ。心だって勿論少年のものである。自分との約束を忘れられていたと知ったらそりゃあ、怒るし拗ねる。 っていうか、大人でも約束を忘れられたら怒るだろう。 まして、クラピカは私との鍛錬を楽しみにしていてくれたのだから。 数年前、クルタの村で引き取ったこの少年は、非常にストイックだった。 燃え滾る復讐心を胸に、日々鍛錬をしている。 そんな彼の今の目標は私を超えることらしい。なんとも可愛らしい目標だ。可愛らしいとか言ったら怒るから言わないけど。 その目標を達成する為に、私との鍛錬は非常に大きな役目を持つ。 なにせ、目標の対象と直接手合わせできるのだから。 仕事でしょっちゅう家を空ける上に、ハンターのイロハなんて教える気が更々無い私が、珍しく休日を手にし、気まぐれにクラピカからの鍛錬の申し入れを引き受けたのだから、クラピカが楽しみにしてくれた事は何の不思議もない。 「くらぴかぁ!」 がばっと後ろから抱き着く。 その拍子にクラピカの手から本が落ちたが、どうせ読んでいなかったのだから気にしない。 「約束忘れてて本当にごめん。反省してる。この埋め合わせはするから。絶対!だから今回は許して」 クラピカを怒らせたまま放置すると後々が厄介だということはここ数年で充分理解していた。 なんとしてでも、機嫌を直してもらわなければ。今回の事は私が全面的に悪いわけだし。 「……今度、」 「へ?」 「今度、ハンターの仕事に連れていてくれ。それで許す」 私と視線を合わせないまま落ちた本を拾ったクラピカからぼそっと言われた要求に目を丸くする。 まあ、確かにクラピカはハンターを目指しているわけだし、その仕事を身近で見たいという要望は分からなくはない。分からなくはないが、 「いやそれは無理」 ばんっと私の顔面に、クラピカが拾ったばかりの本をぶち当てた。 だって危ないじゃん。 空腹 |