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イデアとゲームするだけ



「くっ…初心者相手に本気すぎやしません!?」
「フヒヒッ ナマエ氏に敬意を表しての行動ですぞ。手を抜くなんて無礼な真似は拙者致しませんので」

イデア先輩の自室で古き良き格ゲーを楽しんで幾分経つが、未だに負け続きだ。
普段はシュミレーションゲームやパズルゲームを好む私にとって、相手の動きに対処する瞬発力とコマンドを正確に入力するコントローラー捌きは全く備わっておらず、技を出すのにも一苦労している。


「はいまた僕の勝ち〜!これだけやっても勝てないとかナマエ氏ある意味天才なのでは?」
「うぎぎ…あまりの悔しさにリドル先輩みたいになりそうです」
「そ、それは止めて欲しいでござる!」


流石に疲れてきたので休憩をとる事になり、部屋に常備してある駄菓子をつまみつつ先輩に前から気になっていた事を尋ねてみた。


「あの、前から気になってたんですけど。そこまでゲームが上手くない私と遊んでて先輩は楽しめてますか…?」
「エッ な、何でそんな事を…」
「だって、先輩は私よりもだいぶゲームがお上手だからこんなに実力差があったら楽しめないんじゃないかなって思いまして」
「あー…」


返答に困ったのか半開きになった口からは特徴的な歯が覗いている。
先程の得意気な様子とは打って変わって胸元で指先を弄っている先輩は、ちょっと可愛らしい、と思う。贔屓目もあるのだろうけど。
暫くあーだのうーだの言葉にならない音を発していた先輩だったが、意を決した様でポツリと話し始めた。


「う、上手い人とやるんだったらオンライン対戦とかで幾らでも出来るよ…オルトと遊ぶって選択肢もあるし」
「確かに、オルト君とならいい勝負になりそうですね」
「それでも、僕が君とゲームがしたい理由は…り、理由、は……」
「はい」
「う、う……………やっぱり無理!陰キャで根暗オタクな拙者には耐えられないでござるーーー!!」
「は!?ちょっとイデア先輩!」


顔を真っ赤にした先輩は物凄いスピードで立ち上がり部屋から出ていってしまった。
先輩の部屋に1人取り残される私、気がつけば時計の短針は6の文字を指しておりそろそろ帰る時間を報せている。


「次こそ言ってくれないかなぁ」


帰り支度をしつつ、照れ屋な先輩について思いを馳せる放課後であった。




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