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尾形先輩は絶対に奢らない。


この男とは高校の時にナンパされたのが出会いのきっかけだった。彼は頑なにナンパではないと、猫のような目で睨んでくるが、街中で突然腕をつかんでファミレスに連れ込むことをナンパと言わずしてなにを………いや、何で素直についてってんだ私。

と、とりあえず、それ以来何かと絡んで来るようになり、時た映画に行ったりご飯を食べに行ったり…と、で、で、でーとじゃねーし!!!
無駄に顔が良いのでなんかたまに変な気持ちになるけど、決して男女の関係があるとかではなく、友人、先輩後輩としての関係が続いている。


さて、尾形先輩が某大手企業に内定が決まり2年。私は今年就活。つまり、尾形先輩は社会人、私は学生なわけである。社会人にはある程度の収入があるのである。加えて高校からの後輩。可愛い可愛い後輩なのだから、「今日は俺が奢ってやるよ。好きなの選べ」くらい言ってくれてもいいと思うのである。私は。


「何で俺がお前に奢ってやらなきゃならんのだ」

エジプトの神様みたいな目で睨まれた。めちゃこわい。だがここで退いてはいかん!

「確かに学生だったらまぁ分かりますけど。こんなこと私から言うのはちょっと気がひけますが、社会人になって学生の頃より収入はあるんですから、1食くらい奢ってくれたっていいじゃないですか!」

「気がひけるなら言うな」

「ひどい!」

「あと社会人なめんな。他人に使う金ような無駄な金なんざない」

「うぐぅ……この前のネズミーランドは無駄な金じゃないんですか」

「あれは気分転換に必要な経費だ」

「…お化け屋敷でテンションあがったり、ジェットコースターで私の腕を必死に掴むことが、ですか」

「ああ」

「…あのあとしばらく痣が取れなくて軽くホラーでした」

「それはすまんな」

「…まあ完全別払いでしたしね、楽しそうでなによりですがね」

「お前の気分転換に払う必要はないからな」


というように、この人は決して私のためにお金を使わない。私が財布を忘れたときも貸してくれないのである。

「ぐぬぬぬ………なんでそんなに頑ななんですか!ちょっとくらいいいじゃないですか!」

「お前が思い出したら飯でもなんでも奢ってやるよ」

「またそれですか…」


いつもこんな言い訳をして終わりの見えない問答が突然終わるのだ。

思い出すって何をだろう。ヒントを聞いても何も答えてくれないから答えを導きだすのも難しい。

「まあ強いて言えば嫌がらせか」

とますます分からなくなる。
尾形先輩の嫌がらせにしてはぬるい気もするが(尾形先輩はとてもネチネチ攻撃してかなりの被害をもたらすのを何度も見てきた)、1回くらいと思ってしまう。
いつか奢ってくれる日は本当にくるのだろうか。





「まあ思い出したら即結婚だから、奢るもなにも一緒の財布だがな」





不思議な呟きをしていたことに私はこの時気づくことなく、彼をさらに5年待たせることになるのであった。