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別に、自分には特別何か霊的なものが見えるとか、未来が分かるとか、そんな力はもっていないのだが、1つだけ、自分でもよく分からない能力をもっている。能力と言うほどではないのだが、それとなく自分以外の人間にそのことを尋ねてみても、首をかしげたので自分だけがもっている力といって良いのだと思う。


始まりは子供の頃に遡る。
近くに住んでいるじいさまの手伝いで山に入った時の事だった。
昨日仕掛けた罠を見て回り、山菜を採っていた俺たちは、下山しようとなった頃に手負いの猫を見付けた。足を怪我していたその猫は、突然現れた人間に驚いたようで、怪我をしながらも威嚇してきた。

かわいそうに思った子供の俺は連れ帰って手当をすることにした。
怪我をしながらも威嚇してくるそいつをなんとか捕まえ、袂へ入れて村までもどった。戻る途中も出せと言わんばかりにひっかいてきたが、足を怪我していたので暫くするとおとなしくなった。よしよし。

大きく膨らんだ着物から猫を出してやり、縁側にのせてやる。じいさまが家の中から薬箱を出してきてくれたので、不器用ながらも丁寧に処置をした。

怪我が治ってもしばらくは威嚇されていたが、こちらに危害を加える気がないらしいと気付いてきたのか、次第にここでの生活を満喫するようになってきた。

あるときは一緒に野山を駆けまわり、またあるときはばあさまが用意していた晩飯をこっそり食べたり、それなりに懐いてくれていたと思う。
特に名前は付けていなかったが、俺はこいつをかわいがっていた。



何年か経って、今俺は日本中を旅している。
良い士官先がないかと廻っているうちに村への戻り方が分からなくなってしまったのである。そこそこ腕っ節が良いので、滞在先で用心棒などをしながら暮らしていた。
今日もまた、理想の上司を求めて次なる街へと移動していた。

お供に猫を連れて。

この猫は例の子供の頃に助けた猫なのだが、あのときとは状況がちょっと変わってしまっている。
というのも、こいつ、なんと、しゃべるのである。びっくりである。


「今回もだめだったかぁ」

「いいじゃねぇか。あんな腑抜けに付く必要なんかないだろう」

「そうかあ?けど安定した収入がなぁ」


生まれ育った村を出た日、なぜかこいつが付いてきた。数日前まで姿を消していたのだが、しれっと戻ってきてそのまま今まで一緒にいる。
初めて話しかけられた時は、とうとう疲れで幻聴が聞こえるようになったかと思ったが、横たわる俺の目の前に来て、不遜な顔で見下してきた口からはっきりと、人間の言葉が聞こえてきた。

どうもこいつは所謂猫又というやつで、100年ほど生きているらしい。数日姿を消していた間に100才になったのだという。そういえばしっぽの先が裂けてるなと思ってたのはそのためだったのかと気付く。

見た目に反し、とてもふてぶてしい態度のこいつはさらに、名前までもっていたようだ。百之助だ、と言われた。

長年一緒にいた猫が、突然しゃべり出すという衝撃的な出来事であったが、旅をしていく上ではとてもありがたい存在だった。
話し相手がいるということはとても有難いことである。


しかし、百之助の言葉は他の人にはただ猫が鳴いているようにしか聞こえないらしく、何度か奇特な目で見られているので気をつけなければならない。


「腹減ったな」

「にぼしあるぞ」

「ふざけんなてめぇ、日頃の感謝でもっと良いもんだせよ」

「なんだよそれ。じゃあ何がいいんだよ」

「(感謝してたのか・・・・・・)次行く所はあんこうが有名らしい。それで手を打とう」

「猫に食わすには贅沢すぎるわ!」

「はぁ・・・・・・寒がりなお前に寄り添って湯たんぽになってやってるのはいったい誰だったかな?」

「百之助・・・」

「あ?」

「百之助様です」

「そうだろう?」

「あんこうにありつけるよう頑張ります」


軽々と俺の肩の上に乗った百之助が、ぽすぽすと首を攻撃しながらあんこうをねだり、仕方が無く承諾した俺をハンッと鼻で笑うと、そのまま肩でくつろぎだした。

「おい」

「着いたら起こせ」

「重い」

「じゃあ持て」

「重い」

「我慢しろ」

「いや歩けよ」

「ご主人様なんだから持ってくれてもいいだろう?」


こういう時だけご主人様とか言うのやめてくれよ。


そう思うものの、後が怖いので素直に腕の中へと持ち替える自分自身に、どちらが主なのか分からなくなった俺であった。

「(あんこう俺も食いたい)」