main


甘い香りが漂う西洋風の建物。平日の昼間だというのに、そこはとても繁盛していた。
都内でも名の知れたこの洋菓子店はケーキが抜群においしいと評判で、毎日ケーキを求めに若い女性で溢れていた。

私も彼女らと同じく、この店のケーキを求めて来た客の一人である。様々な種類のケーキが並ぶケースを眺め、今日は何を頼もうかと頭を悩ませつつ、注文のために並ぶ列には行かずに併設されたカフェエリアへと進み、席を確保する。なんとか開いていたボックス席に座り、いつものように魅力的なケーキたちに思いを馳せながら”相方”を待つ。


席に着いて5分ほどたったころ、待ち人が到着した。

「すまない、遅くなった」

「いえいえ大丈夫ですよ」


少し息を切らせて目の前に現れたこの人は、谷垣源次郎さんという。彼は都内の大手IT企業で働いていて、このお店で知り合った。
谷垣さんはこのいかつい見た目とは裏腹にかなりの甘党であり、同じく甘党な私と意気投合し、こうして週一回必ずお昼をこのお店で過ごしている。
ここはケーキを中心とした洋菓子店であるが、今居るカフェエリアではパスタなどのランチも頼むことができるので、甘い物好きには有難いお店なのだ。しかも、ケーキは毎週限定のものが出ているため、週一回のケーキ談義は欠かすことができないのである。

「苗字さんはもう頼んだのか?」

「いえ、谷垣さんが来てからにしようと思って」

「そうだったか。じゃあ、もう決めてはいるか?君の分も頼んでこよう」

「ありがとうございます。えっと、今日はモンブランで」

「分かった。ちょっと待っててくれ」

そう言って谷垣さんは女性だらけの列へと交じっていった。背が大きく、体格も良い谷垣さんがこんなに可愛らしい所にいることが、初めはなんだかちぐはぐで不思議な感じがしていたが、今となってはもう、ここに彼がいないとむずむずして落ち着かなくなるぐらいには慣れてきた。
結構この関係も続いてるなあとレジに並ぶ列を眺めていると、しばらくして番号札を持った谷垣さんが戻ってきた。

「そういえば昼飯は食べたのか?聞くのを忘れていたが・・・」

「今日はこの前に会議があって、ちょっと早めに食べたんです。だから今日はモンブランをじっくり味わおうかと」

なるほど、と笑った顔が素敵です。

そこへ谷垣さんが頼んだ料理と共に運ばれてきたケーキ達に目を奪われる。
私が頼んだモンブランの他に、ケーキの定番とも言えるいちごのショートケーキ、色とりどりのフルーツがふんだんに入っているにもかかわらず、その上から更にフルーツの乗ったロールケーキ、つやつやと光沢のあるチョコレートケーキ、更に数種類の一口サイズに切り分けられた盛り合わせプレートが来たのだ。

「こ、これ・・・谷垣さん?」

「今日遅刻したお詫びと、こんな無愛想な自分の趣味に付き合ってくれている苗字さんにお礼をと思って」

「付き合わせているのは私もですよ。にしても・・・・・・沢山頼みましたね」

「あとでパフェも頼んである」

「そんなに食べて大丈夫ですか?」

「二人で分ければ大丈夫だろう」

「それでも太ってしまいますよ。ただでさえ最近のケーキ談義で体重が増えたのに」

「でも食べるんだろう?」

「食べますけどね!」

今度体重が増えてたら谷垣さんのせいですから!と少しふくれて言う。
谷垣さんは優しいのできっと人に者を与えて喜ぶ人なんだと思う。確か妹さんがいるって言っていた気がするし。

すまんと少し照れた様に笑った谷垣さんの御厚意に甘え、運ばれてきた宝石という名のケーキ達を味わうことにした。

「おいしい!!」

「ん、そうか」

俺も早く食べようと料理を胃袋へと入れていく谷垣さん。
どんどんとなくなっていく料理を傍目に見つつ、谷垣さんの分を残しながらケーキを頬張っていく。

あらかた食べ終わった谷垣さんが思い出したように、

「やっぱり苗字さんが美味しそうに食べている姿が好きだな」

なんて、素敵な顔で言うから、私は。
その後直ぐに気恥ずかしいことを言っていると気付いた谷垣さんは、もの凄い勢いで顔を赤くしていた。


太陽が高く昇る平日のカフェで若い男女が赤面しながらケーキを貪る姿はきっと、滑稽に移ったに違いないが、なんだかとても満たされた気分だった。


少しの期待をもった、ある日の出来事であった。