Tanigaki×Wizard
「さあさあ谷垣君。負けたのだからおとなしく着替えようか。」
「勘弁してけろ・・・」
「男に二言は?」
「・・・ない」
「じゃあいってらっしゃーい」
がくりと肉厚な肩を落とした。フリルレースがふんだんにあしらわれた衣装を片手に、脱衣所へと消えていく大きな背中。彼の素性を知った時から、いつか着てもらおうと用意していたものがやっと日の目をみるのだ。ワクワクせずにいられるだろうか。いや、いられない。ガタイの良い彼に着せるなんて酔狂な奴だと思われるかもしれないが、私の全身
を駆け抜けた衝動は止めることができなかった。反省はしているが、後悔はしていないというやつである。
ドン!ダン!と壁にぶつかりながらも着ようとしてくれているらしい。「網・・・」という呟きも聞こえてきたが、これも女装のうちである。覚悟を決めてほしい。脱衣所に予め用意していたストッキングに気付いてくれたことにほくそ笑む。
暫くして、先ほどまでのようなドタバタが聞こえなくなった。ということは・・・・・・。今か今かと彼の登場を待ちわびる。全く物音がしなくなった脱衣所のスライドドアが僅かに開けられる。
「名前・・・」
「お!着た?!見せて見せて!!!」
「恥ずかしいんだが・・・」
「大丈夫!私しか見てないから!!」
「・・・はぁ・・・」
渋々といった様子で扉を開けて出てきた源次郎。その姿は、私の想像を絶した。腕は思っていた以上に太かったらしい。二の腕に食い込んだゴムが中々に苦しそうだ。いや、腕よりも窮屈そうなところがあった。胸だ。胸がやばい。やはり、造り始めた頃よりも大きくなってたのだろう。胸元のリボンは結ぶような仕様だったのだが、胸囲がリボンの長さを上回ってしまったようだ。だらりと垂れ下がっている。
ハイウエストにしたおかげか、はたまた下半身の筋肉のせいか、太ももの付け根はかなり際どい感じになっている。というか普通に見えそうだ。まだ網タイツのおかげではっきりとは見えないが、とてもいやらしい感じに仕上がってしまった。
「写真・・・」
「ダメだ」
「ブー」
「サイズがおかしい」
「筋トレなんかするから」
「そもそもこんなもの着せようとするのがおかしい!」
「魔女っこと言えばこれでしょ!!!」
「俺は魔法使いだ!!!魔女っこでねえ!!」
色んな意味で赤面した源次郎にしかられてしまった。まあ、照れている彼を見ることができて私は大満足である。ちょっとサイズは小さめになってしまったが、頑張って作った衣装も役目を果たしたことだし、かなり満足だ。
「キロさんみたいに変身できないって言われた時の絶望感がどっか行ったよ!あっ、そういえばキロさんやっと同棲始めたんだって」
「あの人はまあ、そういう異人種だからな。俺は一応人間だからな。っと・・・へえ、やっとか」
「ラブラブでいいよねえ。・・・・・・よーし、妾は満足じゃー」
「・・・はぁ・・・ご満足いただけたようで・・・」
「じゃあ私寝るね」
「は?!」
「お休み!」
そういってソソクサと寝室へと入っていく。脳内にばっちり収めた映像を忘れないよう、睡眠をとってしまおう。可哀想だが、彼のことは放置だ。きっと自分で着替えるだろうし。バタンと扉を閉め、ベッドに潜り込む。むふふ・・・・・・今日は良い物が見れた。完全自己中な感じだったが、まあオセロで勝ったのは私だからな。勝者の言うことを何でも聞くという条件だから許してほしい。お詫びに明日は早く起きて、好きな物を作ってあげようと考えて、本格的に寝る体勢になる。
まだ意識がある内に、ガチャリと寝室の扉が開く音がした。彼が入ってきたようだ。徐々に寝ている私へと近づいてくる。もう着替えて着たのかあと、少し残念に思わなくもなかったが、彼だって疲れているだろうしと思い直す。
きっと寝るために来た彼をベッドに迎えるために、枕に埋もれていた顔を上げ、源次郎がいる方向を見る。ベットの端に近い方の掛け布団をめくり、彼を受け入れる体勢を作る。
「もう脱いだん・・・・・・え?!」
「まだ寝るには早いだろう」
そう言って、「魔女っこ」の姿をした大男が入って来た。脱いでない。源次郎はそのまま私に覆い被さり、将に組み敷いてる状態になった。
「源次郎さん・・・目がマジです」
「マジだな」
ニヤリと笑った顔が似合わなすぎて不気味すぎて、少しちびりそうだった。ああ、この顔は。とても不味いことになった。私の体を跨いでいる彼から何とか抜け出そうとするが、どういうことだろう。顔の両脇にある手がなぜだか動かない。焦った様子でいる私を、源次郎は不適な笑みで見つめている。本当に似合わないから止めて欲しい。普通に笑ってくれ。
そこでハッと思い出す。そうだ、目の前の男は「魔女っこ」じゃないか。恐る恐る、彼に問いかけてみる。
「源次郎さん源次郎さん・・・・・・」
「ん?何かな?名前君」
パジャマのお腹の部分から手を入れてなで始めている彼が、とても良い笑顔で応答してくれた。やっぱり普通の笑顔も不気味である。
「腕、もしかして固定してます・・・?」
「ああ。してるな。いわゆる結界みたいなもので」
「やっぱりなー!」
いつもはこんな事に使ったりはしないのだが、私がちょっとオイタした時などに容赦なく使われる魔法。私自身はいつ、どうやって魔法を掛けているのか分からない。だから今回のようにしれっと使われてしまうと、どうやっても脱出できなくなる訳である。
「女装した奴とだなんて、滅多にないだろうからな」
楽しもうな。そう耳元で呟かれ、私は脱出を断念したのであった
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