おにぎり噺


生存確認用。おにぎりの噺はしません



おにぎり根多帳

2019/04/29 13:28

闇の深い尾浜さん
尾浜さんと御菓子処の娘さん

**=あなた
「はい。尾浜さん。これ今月の御菓子です!」

勘右衛門は本日訪れた老舗御菓子店「たぬき屋」へ忍術学園学園長、大川に頼まれた季節の茶菓子を買いにやってきた。
たぬき屋は大川お気に入りの御菓子屋でお土産にはもちろん、茶会などでも人気の店である。

勘右衛門に菓子の風呂敷包みを渡すのはこのたぬき屋の一人娘である**。陰日向がなく、天真爛漫な性格で店でも客からも愛される町でも評判の看板娘であった。

「あぁ。いつもありがとう。**さん」
「いえいえ、むしろご贔屓にしてくださる尾浜さん達にお礼を言わなきゃいけないのは、私の方ですよ〜」

そういってぱっと明るく笑う**。勘右衛門はこの**の笑顔を見るのがささやかな楽しみでもあった。茶菓子の買い付けの遣いを自ら引き受けるのも、このためである。

目当ての菓子を買い、彼女の元気そうな顔を見て安心した勘右衛門は用も済んだのに長居は迷惑だとすぐに踵を返したとき、店内の奥から声がした。

「おい、きび糖は今日くるんじゃないのか?切れちまったぞ!」
「あら、今日堺経由から荷車で届くはずなのだけど・・・もしかして何かあったのかしら」

たぬき屋の砂糖は堺の交易から買い、この町のある店に届けられる。そこから荷車でたぬき屋へ届けられるという流れなのだが、今日はその荷車がまだ来ていない。これでは菓子を作ることができないと困っていた。**は考えて手をぽんと打つ。

「しょうがないわね。きび糖をとりに私がいくわ!」
「えぇ?君一人でいくのかい?」

その話を聞いていた勘右衛門は足を止めて振りかえる。きび糖は大量に使うため大きめの壺で届くだろう。荷車で運ぶぐらいだ。重労働なのは勘右衛門にもすぐに想像できた。重いものを華奢な女の子一人で運ぶのは大変だろうと思ったのだ。

「よければ俺が手伝うよ」
「尾浜さんはお客さまですよ?そんなことをしていただくわけには・・・」
「気にしないでよ。今店は菓子作りで忙しいんだろう?俺が手伝えばその分早く終わるじゃないか」
「でも・・・」

お客を手伝わせることに引け目を感じる**が言葉をつまらせていると奥から先ほど声をかけた男がやって来る。このたぬき屋の店主、**の父である。

「尾浜くんがいりゃあ安心だ。こいつはちとおっちょこちょいだからな。悪いが手伝ってやってくれ。バイト代はだすから」
「おとーさん、おっちょこちょいは余計でしょう!」

尾浜は親子のやり取りに苦笑いする。**はよろしくお願いしますと頭を下げた。

尾浜は一旦買った御菓子を預け、**と町を歩く。**は少し申し訳なさそうに勘右衛門をちらりと見た。

「ごめんなさい。尾浜さん。うちの仕事に付き合わせてしまって」
「いいよ。俺はどうせ学校に帰るだけだったからね」

嫌な顔ひとつせず同行してくれる尾浜が仏のように見えた**は思わず拝んで頭を下げた。

「尾浜さんって本当にいいお方ですよね!いつも優しくて・・・ありがたや・・・」
「はは、拝むなんてよしてくれよ。それに俺は別に優しいとかじゃないし。**さんのほうがいい人だと思うよ」

尾浜は笑顔を崩さず答える。彼にとって「いい人」という言葉は実際のところ言われ慣れていたがそんな言葉は彼女にこそ言われるべきだと思っていた。誉められなれていないのか**はぎこちなく照れたように頬に手をやった。

「やだですよぅ。わたしはただ不器用なだけですから・・・」
「そこがいいと思うよ?変に器用な奴だと返ってその人のよさを利用したり・・・・するかもね」
「え?」

最後の言葉がよく聞き取れなかった**は勘右衛門に聞き返したがその返事は帰ってこずに相変わらず優しい笑みを見せるばかりだ。
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