おにぎり噺
生存確認用。おにぎりの噺はしません
おにぎり根多帳2019/05/27 22:24
伝七の話
途中で終わります。
あなた=**
まだ夜も開けないしらんだ朝。漁師の両親は朝飯を終えて漁をしに出ていった。一人残された**は明日の漁に使う網の修復をしていた。**は地元漁師の間では親孝行娘と慕われ、気立ても器量もよくなによりも素直だった。今日はそんな**にとって変わった日。当時町に住んでいた仲の良かった伝七に数年ぶりに会える日なのだ。
彼とは昔から顔見知りで、二人でよく浜で遊んでいた。しかし彼が九つになったときから**にそっけなくなっていったのだ。
「黒門くん、一緒に遊ぼう?」
昔、**が町へ遊びに来たときも、伝七はそっけなかった。辺りをしきりに見回し、影に隠れて伝七は**に言った。
「おい、人目のつく場所で僕に話しかけるなよ」
「どうして?」
「・・・僕はお前と違って、生活も身分も、格も違うんだ。そんな僕が漁師の子と話している姿を見られちゃ、カッコ悪いだろ?」
得意気に言う伝七の言葉に、**は悲しくなった。元より伝七は意固地で誇り高い一面があったのは理解していた。今さら悲しむことではないのだが。なぜならそんなことをいいつつ、彼は必ず自分に毎日会いに来てくれるのだ。しかしそれからしばらくたって、彼が珍しく**が住む浜の近くまで来た日があった。今日と同じく、両親が海へ出た時間だった。伝七の表情は固かった。**はいつもと違う伝七の様子に不安になった。
「**、僕、しばらく町を出る」
「え?お引っ越し?」
「いや、違う。まあ、優秀すぎるというかな、寺小屋よりももっとすごい事を学べる学校へ行くんだ」
「わあ、さすがだね!伝七くん!」
その言葉を聞いて**は自分の事のように喜び伝七を称えた。得意気に笑ったのも一瞬、暗い顔になる。
「その学校には住み込みで通うことになるから・・・もう町に行っても僕には会えない」
「帰ってこないの?」
「ううん。たまに帰ってこれるかも。あ、あの・・・」
もじもじと体を動かす伝七。**は黙って別れ行く友の言葉を待った。伝七は決心して**にいい放った。
「その学校には六年間通う。つまり、僕が町へ戻る頃には大人同士だ」
「六年かあ。長いねぇ」
「だっ、だから、僕が卒業するまで勝手に結婚とかするなよ!」
**は驚いた。伝七からまさかそんな言葉を聞けるとは思っていなかったのだ。なぜなら彼は自分を格下にみていたし、毎日「魚女」と小バカにしていた。そんな伝七の性格は重々理解していたので自分など頭の隅にもないだろうと思っていたからだ。結婚するなということは、自分がだれかのものになるのが嫌だと言うことだろう。
「・・・いいの?私魚女だし。伝七くん、魚臭いのいやがってたでしょ」
「ばかばか!僕だってお前なんか願い下げだ!」
「やっぱり嫌なんじゃん」
言っている事があべこべな伝七に**はあきれる。しかし、溢れる気持ちをぐっとこらえて伝七は続けた。
「お前みたいな貧乏な魚女の人生なんて底辺だろ?それを僕が変えてやるって言ってるんだ。これはいわば人助けだ。感謝しろ」
「わたし、漁師好きだけど・・・。でも伝七くんも好きだから・・・わかったよ。結婚はすぐしないようにするね」
”伝七くんも好き”という言葉に伝七は胸が高鳴った。彼女は自分とちがって素直に気持ちを伝えてくる。そんな**を彼は心から好いていた。海ではしゃぐ彼女も、浜で漁具の手入れをする姿も・・・どんな姿でも伝七にとっては輝いたものに見えていたのだ。反面自分とは似合わないとも思っていた。町でも天才といわれ、将来を期待された身分である自分にはふさわしくないとおもっていたのに、こうして彼女に会っている。
「六年後に、ぜったいに会いに行くからな。・・・約束だぞ」
そうして伝七が旅立って、約束の年月がたった。先週一通の手紙が馬借から送られてきた。それは伝七の文であり、彼が近々この海にやってくるという内容だった。それが今日である。
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