おにぎり噺


生存確認用。おにぎりの噺はしません



おにぎり根多帳

2019/06/30 20:15

今福塾
成長彦四郎 
山もなし落ちもなし
突然終わります

主人公(あなた) 16歳。父は戦で戦死・母と妹を流行り病でなくした
ある賑やかな町。旅人や商人、家族連れ等が絶えず行き交う町から、小川の流れる小さな橋を渡りすこし離れた静かなところ。

そこには「今福塾」という小さな塾がある。今福塾は文字通り塾である。生徒は5歳から10歳の少年少女が多い。
日常で使う読み書きの他、そろばんを使った算術や世間の道徳などを教えている。
その塾を開校したのは今福彦四郎という、見た目はどこにでもいる平凡な男。彼が今福塾を開いたのだ。しかし彼は一般人ではなかった。
彦四郎は表立っては平凡で温厚な教師であるが、とある過去がある。彼は実は元忍者であった。一時期は大きな城の大名の右腕として隠密活動を行っていたが、その城が戦で敗退し追いつめられ、大名も切腹してしまった。主を失ってからは彼は忍びの世界から足を洗い、今はこうして今福塾の教師になった。
他の忍者は彦四郎が若くして忍者をやめることに、惜しいという声が多くかけられたが彦四郎自身、自分は忍者には向いてないと思うこともあり、忍者をやめることには未練はなかった。

こうして闇の世界から日のあたる世の中へと戻ってきた彦四郎。教師としては子供たちに「彦先生」と呼ばれ親しまれており、その若々しさと物腰の落ち着いた様子はご婦人にも大変人気があった。教師としての仕事は順調であったが、彼には一つ悩みのタネがあったのだ。

「○○さん、昨日のテスト、全部間違ってたんだけど…そんなに難しかったかい?」

彦四郎は昨日出した数問の熟語の問題が書かれた紙をみせる。そこには朱色ででかでかと「0点」と書かれていた。
今福塾はすでに今日の授業を終え、子供たちはいなかった。机の前に正座する彦四郎と、その向かいで気まずそうにしている○○。

「あはは。昨日の授業、よくわかんなくて・・・すみません」

○○は気まずそうに笑う。彼女のテストの点数が悪いのは今に始まった事ではない。今福は深くため息をつく。

「わからないなら聞けばいいのに。私に聞きづらいかな?」
「そ、そんなことないです!ただ、勉強になるとぼーっとしちゃって」

○○は小さな他の生徒と違い、16歳の女性だ。なぜ大人になった彼女が今福塾に通っているのか。彼女は幼い頃に父を戦でなくし、母と妹は流行り病でなくなってしまった。そのあとは小さな代官屋敷で下働きをしていた。だが、下働きでは文字を読むことも、算術も必要がなく、○○は今まで文字もあまり読めなかった。

しかし、16歳になって色んな所から縁談を勧められるようになった。しかし、自分は両親もいない上に教養がない。これでは嫁入りは無理だろうと断ってきたが、反面段々と「嫁」というものに憧れを抱くようになったのだ。

─相手に恥じぬようなお嫁さんになりたい、そう思うようになった○○は、代官屋敷での下働きをする傍ら、こうして週三回、今福塾で読み書きと算術を習っているのだ。しかし・・・

「君は勉強をするためにこの塾に通ってるんだから、授業には集中しないといけませんよ」

彦四郎は○○がお嫁にいくために今福塾に通っている理由を知らなかった。しかし彼女の生い立ちは聞いていたので、○○のためになりたいとおもい熱心に教えていた。だが彼女は人一倍勉強が苦手だったのだ。小さな子でさえも解ける問題が、○○には解けないこともあるぐらいだ。

「はい・・・」

彦四郎の授業を聞いても難しい話はとんと頭に入ってこない○○。彦四郎は彼女には普通の教え方では学ぶのは難しいと思い始めていた。

「・・・○○さん、君は補習がいるみたいだね」
「ほしゅーって、なんですか?」
「授業でわからないところを補う特別な授業のことです」

特別な授業!?と○○は目を輝かす。特別、と聞いて何か良いことと勘違いをしているようだ。彼女の楽天さに彦四郎は軽く頭を痛める。

「いいことじゃないから!今後授業のある日は、準備と片付けの手伝いをしてください。書類の整理とか、本の手入れとか、まずは文字に触れる機会をつくるんだ」
「出来るでしょうか?」

不安げに上目で彦四郎を見る○○。とにかく、彼女には読み書きが出来るようになるために日頃文字に触れる生活をしたほうがいいと彦四郎は思う。

「出来る!君は今まで一人でここまで来たのですから。コツコツやれば、読み書きはできますよ」
「彦先生が言うならやります!」

彦四郎が励ましたことでやる気が出てきた○○。○○は将来教養のあるお嫁さんになるために彼のいうとおり、授業の前と後は彦四郎の準備の手伝いをすることになったのだった。
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