おにぎり噺


生存確認用。おにぎりの噺はしません



おにぎり根多帳

2019/07/14 22:58

喜三太のお嫁さん
プロ忍?喜三太
あなた=**

長めです
夜も更けた頃、長屋のある一室、夜中まで油皿に灯芯を浸し火をつけたひょうそくの微かな明かりで、**は弓を作っていた。**は元から器用で戦で使う弓を弓師のアルバイトとして生活費を稼ぐために毎日沢山の弓を作っている。
静かな夜に弓を持つ部分である弓柄にやすりをかける音だけがしている。目標の最後の弓柄が完成して**背伸びする。

「んー!今日の分終わったわ〜」

固くなった肩をほぐしていると、どこからか足音が聞こえる。もしかして作業の音がうるさく、隣人が起きたのかもしれない。とっさに**が息を潜めて黙っているとどんどんと荒く戸を叩かれた。慌てて**は謝罪するためにその戸を開ける。

「すみません!大事な仕事なもので・・・わ!!」


戸を開けるやいなやなだれ込んできたのは見知らぬ男。**はとっさに男を避けるとばたりと地べたにたおれてしまう。

「た・・・すけて」

男はぼさぼさの髪を腰の長さまで結っており、ぼろぼろの袴を来ていた。そして頭ひとつ位の壷を大事そうに抱いている。

「誰ですか!?」
「お願い・・・助けて」

男は死にそうな声を出すので**はその男を起こす。

「どうしました・・・どこか怪我でも・・・」

目をうっすらと開けて男は**をみてツボを差し出した。

「な・・・」
「な?」

「ナメクジさんたちにご飯を・・・あげてください・・・」
「は?」

心配している気持ちもぶっ飛び**は男が放った言葉に思考が停止する。ナメクジ?ナメクジのご飯?

「ナメクジさんたち、お腹すいてて・・・まともに食べさせてないんだ・・・まぁ、僕もなんだけどね」
「帰ってください」

変質者だと思った**は早急に男が出ていくようにお願いする。出ていけと言われた男は泣きそうな表情で**に頭を下げた。

「僕のことはいいから、ナメクジさん、ナメさんだけは・・・助けてください〜!!」
「ナメクジって何ですかナメクジって!あなた変な人ですか!」
「違うよぉ〜!僕はナメクジ大好きな普通の人だよ!」

いくら嫌がっても男は頑なに出ていこうとしない。押し退けても何度も突き出されるナメクジが入っているであろう壷を見て、**はため息をついた。

「わかりました。そのナメクジのご飯ですね・・・」

折れた**は床下の倉庫から明日のご飯である蕪をひとつ取り出し、その場で蕪の葉を切った。そしてそれを男に差し出す。

「はい。これで出てってください」
「ありがとう・・・ありがとう!!君ってすごく優しい人だね」

何度も頭を下げられて男はその場であぐらをかいてツボを開けると、ぞろぞろと大量のナメクジかツボから出てきて**はうげ、と気味悪がる。

「はい、久々のご飯だよぉ」
「まってくださいここでエサやりは・・・」
「この女の人は君たちの命の恩人だよ!みんなご挨拶して〜!」

ナメクジがツボの縁に並び、息ぴったりとお辞儀した。**はその動きにびっくりする。新手の奇術だろうか。そのナメクジは**にお礼すると蕪の葉に這い、むしゃむしゃと食べていた。その姿をみて、男は幸せそうに見ていたが、突然うなだれて意識が途切れたのか崩れ落ちた。驚いた**は男を何度も呼びかけたが男は深くに寝入っていた様子だ。

「嘘でしょう・・・このナメクジどうするの?」

這い回ろうとするナメクジをみて、**は慌てて割り箸を持ってきてツボの中に優しく入れていく。ねっとりと粘液が糸をひいて、この度に気味悪がっていた。這い出ていたナメクジ全員をツボに納めて**は戸のそばに置く。蕪の葉も入れておいたのでナメクジが飢えることはないだろう。問題はこの男だ。

「変な人だけど・・・この人すごく疲れてるみたいだし、見捨てたらだめよね・・・」

**は良心に従って男を部屋の中に運び横たわらせた。動かしても男はピクリともしない。薄い掛け布団を用意して彼にかける。規則正しい寝息をたてる男をみて、**はほっとした。

「なんかよくわかんないけど・・・もう明日考えよ・・・」

**も寝入ろうとしてたので眠気が限界だ。ひとつしかない掛け布団は男にやったので、**は眠気にまかせて弓の材料が散らばった狭いところの床に寝転がった。近くのひょうそくをふっと息をかけて消す。床は固いが、疲れもあって彼女もすぐに寝入ってしまう。


そうして**が寝入って夜が明けた。

「ねぇ」

**は寝返りをうとうとして固いものにあたってもぞもぞと動く。

「ねぇってばぁ」

もうろうとした意識のまま、**は思い出す。そういえば自分は弓の転がる所で床で寝ていた。道理で寝づらいわけだと身じろぎして、もう一度聞きなれない声がした。

「おねーさん起きてよぉ」

ゆさゆさと誰かに揺さぶられて**ははっと起きる。思い切り起き上がると男のおでこと自分のおでこが当たってしまった。

「いだっ!もぅ、ゆっくり起きてよ」
「なななななんじゃあんたは!」

思わず心の底から声が出る。その男の姿をみて**は昨晩の事を思い出した。あの晩はぼんやりとした光で男の顔がよく見えなかったが、朝日が差し込む今、改めて男の顔を知った。男は額を擦りながら、どこか愛嬌のある顔で笑った。

「やっと起きた!ねぇ、お腹すいたよぉ」
「話を聞いてよ!」
「ごはん食べさせてください!」

男は本当におなかがすいているのだろう。お腹をかかえて脱力していた。ナメクジの次は男の世話か・・・**は頭を痛めつつ重い体を起こし支度を始めた。

しばらくして**は朝の支度を終えて朝飯の用意をする。井戸水を鍋で沸かし、米をいれて雑炊にする。以前採った山菜と昨日使った蕪をいちょう切りにしてそのまま煮込む。頃合いになったら味噌をといて雑炊の出来上がりだ。お椀に注いで、沸かしたお茶を喜三太に渡す。彼はやっとの食事に子供のように喜んだ。

「美味しそう!いっただきまーす」

ガツガツと食べる姿をみてなんだかほっとする**。昨晩は息も絶え絶えとしていたが、休んで多少は元気が出たのだろうか。**が見てると男と目が合う。そして再びにこりと男は笑った。

「僕、喜三太。山村喜三太っていうんだ。君は?」
「**です」

喜三太と名乗った男は雑炊を掻き込み、お茶を飲み干すと落ち着いたのか一息ついた。

「改めて、ナメさんと僕を助けてくれてありがとう。**さんが助けてくれなかったらナメさんが死んじゃってたかも〜」
「いえ、倒れてたら誰でもああしますよ」

自分よりもナメクジのエサをくれと言われたのは驚いたが。**は改めて喜三の姿を見る。旅人にしては身軽、しかし町人にしては小汚ない格好だ。いったい何を生業としているのだろうか。

「あの、どうしてうちにきたんですか?」
「あぁ、実はね・・・ちょっと追いかけられてて・・・」
「え?追いかけられるって・・・だれに?」

喜三太は何故かうーんと考える。そしてぎこちなく答えた

「身内に」
「身内の方なら逃げる必要もないではないですか」
「違うの、ちゃんと理由があるんだよぉ」

喜三太はゆっくりあぐらをかいた。そして**をまじまじと黙って見つめる。突然、見つめられた**はその視線の意図がわからず首をかしげた。喜三太はうん、と頷いた。

「あのね、聞いてもらえる?」
「なんです?」
「僕の、お嫁さんになってほしいんだけど」

その瞬間、**は思考が止まり、身体がこわばった。聞き間違いかと思い、戸惑った眼差しを向ける。喜三太はまっすぐな目で見返した。**は思わず聞き直した。

「あの、変なこと言いました?」
「変なことなんかじゃないよ!僕のお嫁さんになってください!」

喜三太の告白に**は思わず後ろに下がる。冗談だろうか。昨晩会ったばかりの素性の知れない男に今朝嫁になってほしいと言われる・・・こんな事態を誰が予想できるのだろうか?

「山村さん、あ、あほですか?」
「えへへ、よく言われる」

何故か照れる喜三太に**は頭を抱える。しかし喜三太は真面目な表情で語り始めた。

「僕を追っているのは、ひいひいばーちゃん。高祖母なの。リリーばあちゃん、僕を跡取りにして早く結婚させようとしてるんだ」
「跡取り・・・ってなんのですか」

**の質問に喜三太はすんなり答える。

「忍者。僕、忍者だよ。相模の足柄に里があって、その里の忍の名家が山村家なんだぁ」

**は喜三太の言うことに驚いた。忍者という組織があるとは聞いていたが、まさか彼がそうだとは思えない。彼はのほほんとしており、隠密行動をとる慎重さは感じないからだ。

「まぁ、正直落ちこぼれなんだけどねぇ。でもリリーばあちゃんは僕を跡取りにするつもりで、しかも結婚相手なんかをよんでくるんだよぉ」
「跡を継ぎたくないのですか?」
「んー、それはまだいいんだけど、僕が嫌なのは結婚のこと!」

喜三太は両手の指を絡めてもじもじしている。

「リリーばあちゃんが連れてくる女性ってみんなエリートくのいちなの」
「それは、やはり喜三太さんは跡継ぎですしそういった女性のほうが・・・見合うのではないですか?」

ふと彼の目線が隣のナメクジ壺に向けられる。それを大事そうに抱えて、不満そうに口を尖らせた。

「僕にとって大事なのはそこじゃなくて、この子達のことだよ。女性達はみんなこのナメクジを見ちゃうと気持ち悪がるし、絶対お世話したくないって言うんだよ?ひどいと思わない?」
「はぁ・・・」

**は女性達の反応はもっともだと思うが喜三太はそう思わないらしい。自分のことよりナメクジを優先するぐらい、彼にとってナメクジ達は大事なものなのだろう。

「でも、君は僕のナメさんたちを、大事にしてくれたでしょ?」
「え?そんなつもりは・・・」
「そんなことないよ!ほらみて」

喜三太がナメクジ壺の蓋を開けるとびっしりとツボからたくさんのナメクジが**を一斉に見つめていた。

「ナメさんたちが、君のこと好きだって!」
「うれしくない・・・というか、ナメクジのことわかるんです?」
「わかるよぉ!ナメクジさんと僕はお互いを知り尽くしてるの!」

喜三太は指にナメクジを這わせて笑顔になる。

「それに僕のことも助けてくれたし、君となら結婚したいなっておもうよ」
「なにいってるんですか。私と山村さんは会ったばかりですよ?そんな里の跡取り問題に私は加わるつもりは・・・」

頼むよ!と喜三太は頭を下げた。そしてまたあの泣きそうな顔で**を見上げるのだった。

「おねがい!お嫁さんを見つけないと、リリーばあちゃんにずっと追いかけられて、女性に嫌われるナメクジさんたちを捨てちゃうんだ!それだけは嫌なの!」

**は頭を悩ませた。彼女は性格はハキハキしており、思ったことははっきり言うが、人に対しては根っからのお人好しだ。人が困っているのを知るとお願いを断れない一面があった。喜三太の常識の外れたお願いであっても彼が必死に懇願している姿を見ると考えてしまうのだった。

「そのリリーさんってという方に、追いかけられなければ山村さんは逃げまどうことはなくなるんですよね?」
「うん・・・」

**は自分に出来ることを考えて喜三太にある提案をした。

「では、私達、婚約者ということにしませんか?」
「婚約者?」

喜三太は**の言葉を聞いて繰り返す。

「はい。山村さんが自分の意思で婚約者を決めればリリーさんは考えてくれると思います。すると山村さんは追われませんし、ナメクジさんとも一緒に居られます。もちろん、私達は仮の婚約者ということです。その間に山村さんは本当に好きな女性を探されたらどうですか?」
「仮の婚約者ねぇ」

喜三太は腕を組んで考える。とりあえずリリーに結婚を迫られたりする必要がなくなるだけでも喜三太にとっては解放される。喜三太は**の優しいところは一目見てすぐ理解したし、大好きなナメクジも**を気に入っている。そんな彼女と仮でも婚約者になれると思うと何故か胸が高鳴った。その感情が何なのか、今の喜三太にはわからない。
喜三太は身をのりだしそっと**の両手を包んで笑顔になる。

「えへ、**さんって本当に優しいんだね。婚約者なら僕のこと、喜三太って呼んで?」

しっとり甘えるような声で喜三太は見つめる。その声と視線に**はどぎまぎしてしまった。

「きっ、喜三太さん・・・」
「**さん、よろしくねぇ」

指に触れると喜三太が這わせていたナメクジの粘液が**にも移った。**はその感触に先程の気持ちはぶっ飛び気持ちが悪くなるのだった。
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