おにぎり噺


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おにぎり根多帳

2019/09/17 23:34

伊助と女野武士
伊助と山にすむ女野武士のはなし
あなた=**

彼女はある山をねぐらにする山賊、女の野武士であった。木の仮面を付け、男物の汚れた袴を着て太刀を山道を通る者達へと向けて強奪を働いている。昔父から鍛えられた剣術の力を**はそのような事へと利用するようになってとうに五年は経ってしまっていた。おかげで**は悪漢のような言葉使いと素振りが身に付いてしまい、初めてみた者はその仮面の下にある年頃の可憐な乙女の顔など想像もつかないであろう。

(あの男、ぽやっとしていて格好の獲物だ)

山道の草影から覗くその視線の先は身綺麗で人の良さそうな**と同じぐらいの年頃の男。上等な風呂敷を担いでのんきそうに一人で道へと入っていく。

「おい、お前」

がさりと勢いよく**は現れぎらぎら光る大きな刀の切っ先をその男へ向けた。そして仮面の下から声を出す。

「わっ、なんだ・・・?」
「逆らうと殺す。すみやかに金目のものをよかしやがれ!」

迫ってくる切っ先をみて男は息を飲んだ。彼の名は二郭伊助。今年二十歳になる独り身の男で、町では親から引き継いだ染物屋を営んでいる。本日は京へと得意先の問屋へ頼まれて染めた反物を納品する道中だった。

伊助は驚く。突然山道の脇から現れた者は小柄な人物。しかしその小汚ない身なりや口振り、そして何より手に構える太刀をみてすぐに野武士だと伊助は思った。

伊助ははじめは戸惑ったが相手が野武士とわかると黙り込み、固まっていたが懐を探ると目にも止まらない速さでその刀を払った。鋭い音が響くとその一瞬で押された**が後ずさる。伊助は隙をついて距離を縮めて体当たりした。**はたまらず倒れるととっさに太刀が手を離れてしまう。

「くそっ!」

地面を這いつくばる**は伊助を見上げる。その手には見慣れない武器を持っていた。それは忍の道具や武器であるクナイだった。**はそれがなにかもわからず呆然としている。

「野武士なんてやってないでちゃんと真面目に働きなよ。汚いかっこしてさぁ、よくないよ?」

伊助はけろりとして**へと近寄る。伊助の足元にあった**の太刀が彼の手に掴まれた。その手の扱いはなれたものの様子だった。伊助は剣術も学んでいるのである。

「うっ・・・」

**は背筋が凍りつく。この男はただ者ではないと思った。そして今は太刀を手にして自分に迫っている。○○は自分は斬られるのだと覚悟した。

「・・・っ」

まぶたを閉じて**は身を縮める。斬られると信じて観念したが、その刃は下ろされなかった。その代わり、顔に風が当たる。仮面をしていたはずだと**は瞼を開けると視界いっぱいに伊助の顔がうつった。

「うわぁ!!な、な、なにすんだお前!」
「驚いた。女の人だったんですね」

**さらに後ずさる。伊助はふっと離れて笑顔を向ける。片手には仮面を握っていた。

「野武士なんてやめたほうがいいですよ?」
「うるさい。俺はずっとこれで生活してんだ。それに斬られる覚悟もできている。俺の負けなんだからはやく斬り捨てやがれ!」

**は野武士を行い、性格こそ荒いものの、剣士としての気持ちは真っ当であった。**が伊助に叫んだが彼はやはり刃を向けなかった。それも当然だ。野武士と言えど女性。元よりお人好しの伊助に人斬りなど出来るものではなかった。

伊助は**へ近寄り尻餅をついて見ていた彼女と目線を合わせた。近くで見る○○はより可愛らしく、ますます伊助の戦意は失せるのだった。

「僕戦うの苦手ですから。うーん、貴女はお金がほしいんですよね?」
「・・・変なことを聞くなよ。そのために野武士をやっているんだぞ」

その言葉にぱっと伊助は笑った。

「じゃあ、僕の護衛をしてもらえませんか?今から京へ行くんです。お礼はちゃんとしますよ」
「は?お前、本気か?」

野武士を護衛に雇うのは良くある話だが襲われた本人が襲った自分を雇うなど滅多に無い。しかし伊助は本気だった。お礼はする、という伊助の言葉に**は考える。金がない**にとっては悪くない。ただ者ではない伊助と行動するのは不安だったが、金がもらえるならと**はぎこちなく頷く。

「わかった。お前のいう通りにする」
「うん。僕の名前は二郭伊助。君は?」
「**だ、それと、その仮面を返せ」
「なんでだい?」

きょとんと伊助は**を見つめる。**は言いにくそうに答えた。

「女だと、バカにされる」
「そっか。**さんきれいだから」

伊助のきれいだという言葉を聞いて**は赤面した。女を捨ててしまって数年間経った今、伊助のセリフに**は恥ずかしさのあまり言葉を失った。

「ばっ、馬鹿野郎!!俺をなめるな!!」
「怒んないでよ、褒めてるのに」

突然顔を真っ赤にして怒りだした**を理解できないと伊助は首をかしげた。**は立ち上がり改めて伊助を見る。どこにでもいる普通の男。どこか頼りなさを感じるその雰囲気に先程のすばやい動きは事実だったのかと疑うほどだった。

これが**と伊助の、初めての出会いである。

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