秘密の闇市寺1
小梅は忍たま校舎を歩き、課題に付き合ってくれそうな者を探して辺りを見回している。
学園長の庵辺りまで来たとき、声がして小梅は振り返った。そこにはちょうど庵から出てきて長屋に戻ろうとしている
田村三木ヱ門の歩く姿が見えた。小梅は入学当時から見知った顔にほっとして彼のもとへと駆け寄る。
「三木ヱ門?」
久々に小梅の姿をみた三木ヱ門。元気そうな小梅の様子に笑顔を見せる。
「小梅。珍しいなこっちにくるなんて。私は少し用事があってな…。お前もなんでこっちに来たんだよ」
彼の問いに小梅は気まずそうに視線をそらす。三木ヱ門は彼女の事をよく知っていたのでその態度になにか違和感を感じた。小梅はそっと三木ヱ門の側により課題の用紙を見せる。それをみた三木ヱ門は見出しの部分を読み上げて首を傾げた。
「お嫁さんシート?なんだこれ」
「補習課題なの…。ほら、私こんなのだから。女性らしさを身につけなさいって先生に怒られちゃったのよ」
三木ヱ門はいままでの彼女の事を思い出す。昔から忍術を学ぶために人一倍努力しているが広大な畑と山の中でそだった環境のせいか彼女は普通の女の子より大雑把で人の目を気にしない所がある。しかしくのいちのように男子をからかったり見下したりしない所が彼は小梅が他とは違うと思っており、密かに一目を置いている。
「くのいち教室は礼儀作法も厳しいみたいだしな…でもなんでその補習課題がお嫁さんシートっていうんだ?」
小梅は今までの事情を説明する。一通り聞いた三木ヱ門は思わず笑ってしまった。
「お前のことを嫁にもらいたいって人がいるかな」
「そこをなんとか!三木ヱ門、顔なじみのよしみとして署名してよ〜」
「やだよ!」
三木ヱ門に即答されて落ち込んでしまう小梅。とっさに言ってしまったが別に彼女の事を嫌いというわけでもない。ただ妙な恥ずかしさから思わずでてしまった言葉だった。あからさまに傷ついている彼女を見て焦った三木ヱ門は改めて考える。
「そ、そうだな…じゃあ私のお願いを聞いてくれたら…著名してやろうか?」
「三木ヱ門のお願い?聞く!」
顔をあげて食い気味に寄ってくる小梅。二人は適当な廊下で腰かけ、三木ヱ門は取り出した一枚の手紙を広げた。
そこには達筆な文字でつらづらと書かれており、たびたび「銃」という言葉が出てきている。
「この手紙は元々学園長先生にあてられた手紙なんだ。城などの国の勢力者にしか届かないものだ…」
「なんかすごそうね」
それがすごいんだ!と三木ヱ門は笑顔になる。
「この手紙は火縄銃の改良試作品が開発されたという内容のものなんだ。火器の研究が進んでいる南蛮技術を取り入れたもので、まだ誰も見たことがない!今回はその銃の披露会に招待したいっていうお誘いの手紙なんだ!どーだ素晴らしいだろう!」
あまりの嬉しさに高笑いを始めた三木ヱ門に苦笑いする小梅。この手紙を受け取った学園長は銃や火器に詳しく扱いにたけた三木ヱ門をこの披露会への使者として選び、先ほどまで庵で話していたらしい。小梅は改めてその手紙に目を通す。そこには「闇市寺」というものが書かれてあった。
「三木ヱ門、この闇市寺ってどこにあるの?」
「ここから西にある寺のことだ。金楽寺の和尚さまのお知り合いの寺で、普段は普通の寺だが不定期に骨董や刀、銃などの武器を収集して展示…というか売ってるんだ。その様子はまさに闇市であることからさながら闇市寺と密かに呼ばれている」
「へぇ。そんな場所があるのね」
三木ヱ門の情報に感心していると、彼は腕を組んで考え始めた。
「そこで問題になるのがその寺に訪れた私が何者であるかだ」
「学園長先生の代理じゃいけないの?」
「そうじゃない。闇市寺と言えど表向きは寺だ。一般人としていかなくては怪しまれるだろう?そこで私のお願いというわけだ」
小梅ははっとひらめいた。
「二人で僧に化けて参拝に行くんだ!」
「いや、違う」
三木ヱ門は手紙を収めながら首を横に振る。はじめは無難な僧や一般参拝者を考えていたが、彼女の補習にも付き合うことを考えて計画を変えることにした。なぜなら三木ヱ門はおてんばな彼女に厳かな僧は無理だろうと察していたからだ。それに彼女の補習課題の事もある。
「どこか名の知れた商人の令嬢と、その護衛が厄払いに寺に来たという事にしようと思う」
「うーんと…三木ヱ門が令嬢で私が護衛ってことかな!?」
なんでそうなる!とすかさず三木ヱ門はツッコミを入れる。
「お前が令嬢役だっ!まったく…」
「いや、わかってたんだけど…自信なくてつい…」
令嬢なんて身分はお話の中でしか知らない小梅。正直僧の方がよっぽど化けやすいのだが…。
そんな不安を持った小梅の心を見透かしたように三木ヱ門は彼女をジト目で見つめる。
「女性らしく振舞うのが補習課題なんだろう?丁度いいじゃないか。私だって将来お嫁さんにするなら…そうだな…やはり女性らしくてかつ芯の持った方が理想だな!そう!私の火器たちのように!!」
途端に目をキラキラとさせてうっとりと手を組む三木ヱ門。小梅はいつもの彼の病気が始まったと思った。
そもそも火器は人ではないし、性別などもないのだが…そんな言葉は彼には通用しないので黙ってみていたがハッと彼は現実に戻ってくる。
「っと…それはまた今度語るとして。そういうわけで準備ができたらすぐいくぞ。小梅」
「うう…私できるかな…」
慣れない者に化けるので不安の大きい小梅。そんな彼女を横目に三木ヱ門はやれやれと肩をすくめた。
彼女の補習課題のために、仕方なく付き合った三木ヱ門だがこうして共になにかをするのは初めてであり昔から一所懸命に勉強をしているが、どこか不器用な彼女をみていたので手を貸すことができて実はうれしい気持ちもあったのだった。
「私がいるから安心しろ。多少のヘマぐらい大丈夫さ」
「…三木ヱ門って、けっこういい人よね」
「”けっこう”ってなんだよ」
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