山田利吉×土井半助 Unofficial Fan fiction


◯ 痛くなくなるおまじない


「お兄ちゃ〜ん!! はやく!はやく〜!!」

大好きな"お兄ちゃん"とのカニ取りに、利吉は嬉しくて思わず駆け出した。

「待って〜!利吉く〜ん!あ!ほら!前見て走らないと!!」

「うわぁっ!!」

だが後ろを振り向き半助に手を振りながら走っていたため、前にあった少し大きめの石に気づかず、利吉は半助の注意虚しくそれに躓いて盛大に転んだ。

「いったぁ〜い」

「大丈夫かい?」

半助は蹲る利吉に慌てて駆け寄ると、側にしゃがんで利吉の怪我を確かめた。利吉が押さえている足を見れば膝にやや大きめの切り傷ができており、そこから血が流れていた。

「ああ、少し切れてしまったね」

「ぐすっ、ひっく…ぅ」

「よしよし、痛かったね。ちょっとごめんね」

半助は懐から取り出した手巾でそっと利吉の患部を圧迫し、暫くすると少しキツくそこに結いた。

「よし、血は止まったよ」

「ぐすっぐすんっ」

「よしよし、まだ痛むよな。家に帰ってきちんと手当てしようか」

大粒の涙が次々と流れる利吉の目元とほっぺを半助は優しく拭いながら、声を掛けるが利吉はいやいやと首を横に振った。

「ぐすっ せっかく今日のカニ取り楽しみにしてたのに…ぐすっ」

「また明日来よう?」

「カニ取りしたかったです…」

「でも…足が痛いだろ?それに早く帰って消毒しないと… そうだ!今日は家で、こないだの本の続きを一緒に読まないか?あの後、南蛮人の女の子アニーがどうなったのか、気になっていたんだ」

「…私もそれは気になっていました…でも、ぐすっ」

「そのままの足じゃ存分にカニ取りを楽しめないだろ?きちんと手当てをしてから明日いっぱいカニを取ろう?だから今日は帰って、気になってる本の続きを一緒に読もう!」

「…うん」

「よし、それじゃあ戻ろうか」

半助の説得にしぶしぶといった様子だが、漸くコクっと頷いた利吉の顔を半助はもう一度丁寧に拭った。利吉の髪を優しくサラっと一撫ですると、半助は利吉の前に膝をつき背負う仕草をした。

「ほら、私の背においで」

半助の笑顔に釣られるように、利吉の顔にも徐々に笑顔が戻りだす。利吉はぐすぐすと鼻を鳴らしながらも口元をすっかり緩ませて半助の背中に抱きついた。

「それじゃあいくよ!よいしょ」

背に乗った利吉を確かめて、半助はゆっくりと立ち上がると家路を歩き出した。

「ねえ!お兄ちゃん!」

「ん?なんだい?」

呼ばれた声に半助が背を振り返ると、利吉はキラキラと笑顔を瞬かせた。

「後でご本読むとき、こないだみたいにお兄ちゃんのお膝の上に乗ってもいいですか?」

「ああ、いいよ!」

「わーい!!」

半助と利吉の満面の笑顔が重なると、薄曇りしていた空が晴れて、2人の頭上には眩しいくらいの青空がどこまでも広がった。





「さて、本を読む前にまずは手当ての続きだな」

「うーっ」

救急箱を広げて半助が消毒液を手に取ると、また利吉の顔が曇りだし、みるみると青ざめていった。

「染みるの嫌です…」

「アハハ… 痛いよな」

「消毒しないとダメですか?」

利吉は涙目で半助に訴えるが、半助はいつものように引いてはくれなかった。

「そうだね、ばい菌が入ってしまったら大変だし、利吉くんのせっかくの綺麗な足に、ずっと傷が残ったままだと嫌だろ?」

「ぅぅ…」

「すぐに終わらせるよ」

消毒液を染み込ませたガーゼが利吉の傷にゆっくりと近づいてきて、利吉は思わずギュッと目を瞑った。

「そうだ、利吉くん!」

「え?」

突然明るい声で名前を呼ばれて利吉が弾かれたように目の前の半助を見ると、半助はいつものニコニコ笑顔でカニポーズをしていた。

「下の小川のもう少し行ったところにカニがいっぱいいる場所を見つけたんだ!」

「え!?いっぱいってどのくらい?」

「私がこの前見たときはうじゃうじゃといたな、きっとあの辺にカニの巣穴があるんだと思うよ」

「カニの巣穴!!ぜひ探したいです!!」

「ああ!明日あの周辺を苦無でたくさん掘ってみようか」

「うん!!明日はいっぱい取れるようにバケツを持って行きましょう!」

「そうしようか!」

「うわあ!明日どのくらい取れるかな?楽しみだな!!」

「そうだね!さて、手当てが終わったよ」

「え!?」

利吉が話に夢中になっている間に傷の消毒は終わり、利吉の膝には綺麗に包帯が巻かれていた。

「うわあ!全然痛くなかったよ!」

「ふふ!よかった!」

「お兄ちゃんありがとう!」

「どういたしまして!さあ、本を読もうか!私の膝の上に来るかい?」

「うん!」

半助があぐらをかいた自身の膝をポンポン叩くと、利吉は嬉々として半助の足の間に腰を下ろした。

「うふふふふ!」

温かな太陽がポカポカと差し込む部屋からはその日差しがオレンジ色に染まるまで、いつまでもケタケタと楽しそうな笑い声が響いていた。


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