山田利吉×土井半助 Unofficial Fan fiction


◯葡萄と甘橙


「ふ…あっ」

ふぅふぅと息を整えながら布団にゴロリと転がると、隣に座る彼が腰をかがめて、ちゅっと幼い口吸いをした

「中に出してすみません。今、綺麗にしますね」

甘やかな光を帯びる瞳が私のことだけを見て、彼元来の器用な指先が、そっと労るように頬を撫でる

「いいよ、明日の朝自分でやるから」

くたくたな私は寝転がったまま、彼からの溢れんばかりの愛を肌で感じていると

「ダメです。お腹が痛くなってしまいますよ」

キリリとした端正な顔が近づいて、今度は舐めるような少しだけ大人な口吸いをした。

「私に任せてください」

まだ熱が籠るそこに彼の指が触れれば、もどかしい心地がじわりじわりと全身へとめぐる。私はぎゅっと目を閉じて、恋人にその身を全て明け渡した。



「土井先生」

名を呼ばれて目を開けば、終わったらしい彼がニコニコと笑みを浮かべていた。

「どうしたの?利吉くん」

可愛らしい顔をした彼に笑顔のわけを問うと、私の口元へなにやら差し出してきた。

「はい、あーん」

素直に従えば、コロリと丸っこいものが口の中に転がる。ぷりっとした舌触りに覚えがあり、噛めばじゅわりと甘い果肉が広がった。

「葡萄かい?」

「はい。ここへ来る道中で美味しそうな葡萄を売っていたので土井先生にと買ってきました」

そう言いながら見せてくれたのは、彩やかな紫色をした一房の葡萄。

「お味はいかがですか?」

「うん。よく熟れていてとっても美味しいよ!」

「それは良かった。もう一ついかがですか?」

寝転がりながら食べるなんてお行儀が悪くて良い子たちに見せられたものじゃないが、もう指一本だって動かせそうにない。あーんと与えられるままに頬張れば、瑞々しい果汁がカラカラになった喉をじゅわりじゅわりと甘く潤す

「でも、今の今まで葡萄を買ってきたことを忘れていました」

すっかり貴方に夢中になってしまってと伏せ目がちに付け加えられて、咀嚼する葡萄にぶわりと甘みが増した。

「こんな夜半に食べさせてすみません」

これほどまでに美味しい葡萄を食べたのは生まれて初めてだ

「ううん。この葡萄、甘くて本当に美味しい。ありがとう利吉くん」

家族であり、かけがえのない恋人が私へと買ってきてくれたその葡萄は、糖度を幾倍にも膨れ上がらせて事後のふわふわと怠い体に染み渡る。

「たくさん食べて下さいね」

彼の手が葡萄を口元へ運んでくるたびに、私はあっと口を開けて、まるで雛鳥になった気分だ。だが、寝転びながら食べていたせいで果汁が気管に入り、ゲホゲホと咽せると彼は焦りながら背をさすってくれた。

「大丈夫ですか?すぐに水を持ってきます」

ツゥと涙が頬を伝う。その涙を咽せたせいと思ったらしい彼は、引き留める間もなく水を取りに行ってしまったが、口の中に残る甘い余韻に私の目からもう一粒、幸せな涙が零れた。


「お待たせしました」

水を汲んできてくれた彼は、私の体をひょいと抱き起こした。彼の逞しく成長した腕に体重を預ければ、普段よりも色の濃い瞳にすぐ真上から見つめられて、思わず腹の奥がキュンと疼く。

「飲めますか?ゆっくりで大丈夫ですからね」

口元へ湯呑みを運んでくる過保護なほどの彼にもっと甘えてしまいたくて、視線で訴えれば彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにくすりと微笑んだ。

「仰せのままに」

彼が湯呑みの中の水を口に含んでいる。男らしく出っ張った喉仏が色っぽくて、ぽけっと見惚れていたら次の瞬間バチりと目が合い、くいっと長い指が私の顎を持ち上げる。促されるままに口を開けば彼の口が覆いかぶさって、少しずつ少しずつ水が流し込まれた。

「ん…」

彼が与える微温い水をこくこくと飲み下して、ぷはっと口を離すと、たらりと顎に垂れた水滴を彼の舌がペロリと舐めた。

「上手に飲めましたね」

"利吉くん、上手に飲めたね!"その口ぶりはまるで、幼い彼に私が言っていたまんま。今もあの頃の面影が残る彼に、こうして甘やかされるたび不思議な気持ちになるけれど

「土井先生」

大人の色気を纏った紳士的な彼の、熱い瞳に見つめられるたび胸がドキドキと高鳴る。

「ねえ」

だけど、さっぱりした水の味にどこか物足りなさを感じて

「利吉くんも食べて?」

彼の腰に腕を回して、体を抱えるように自身の方へと引き寄せる

「葡萄美味しいよ?」

まだ幼かった彼に言い聞かせるように囁けば、彼の瞳はもう少しだけ細められて、葡萄をもう一つ私の口へと入れた。

ぷりぷりと柔い果肉は少し歯に触れるだけで、すぐにぷちっと弾けて果汁が溢れだす。それをゆっくりと咀嚼すると彼の顔が再び近づいて、私の下唇をはむっと甘噛みした。その合図に私が薄く口を開くと、彼の舌が私の舌に絡む

「ふ…」

彼が私の舌を包み込んで、味わうように吸う。目合のときのような色を含んだものじゃなく、ゆったりと甘ったるい口吸いに、ただただ癒されて気持ちの良い息が鼻からもれた。

「ん…美味しいです」

一度口を離すが、またすぐに重ねられて、愛する恋人からの絶え間ない愛に身を委ねた。心地好い感覚にうっとりと浸れば、だんだんと瞼が閉じてゆく。まだ葡萄を食べたいけれど、睡魔が甘い香の夢へと誘って、それならばと、私は彼を道連れにするべく、彼の体にすりすりと素肌を擦り寄せた。





「っ…んぅ」

「気持ち良い?」

「はい…きもちいです…」

気持ち良さそうに眉を寄せて、ぶるりと体を震わせる恋人がどうしようもなく愛おしくて、私は堪らずに彼をぎゅっと抱きしめた。はぁはぁと一生懸命に息を整える背をよしよしと撫でて、昔から変わることない彼の可愛い額にちゅっと啄むように口付ける。

「ねえ、利吉くん」

とろんとした瞳がこっちを向いて、きょとんと見つめる。私だけに見せるそんな無防備な姿も堪らなく愛らしくて、幼い頃の彼のように真っ赤に染まった頬にも、ちゅっと口付けた。

「今日ね、甘橙を買ってきたんだ!」

「甘橙ですか?」

「うん!ちょっと待ってて!」

先日の逢瀬の時、彼が買ってきてくれた葡萄があまりにも美味しくて、今日は私が何か果物を用意しようと朝から張り切って街に出掛けた。そして調達した、陽の光をいっぱい浴びて育った甘橙。彩やかで爽やかな色が彼にぴったりだと思ってこれを選んだ。それを早速食べてもらおうと、準備しようと思ったのだが…

「…あれ?」

起きあがろうとしても足腰に力が入らずに立ち上がれない…今日も今日とて彼との目合はとても気持ちが良かったから…

「無理しないで下さい」

いつの間にか息を整え終えた彼が、私の体を布団の中へと戻して、御衣をふかりと掛け直してくれた。

「うう…今日は私が利吉くんに甘橙を食べさせてあげようと思ったのに」

「その気持ちがとても嬉しいです。ありがとうございます」

「その戸棚に入っているんだけども…」

彼はスッと立ち上がると、戸棚から甘橙を見つけてくるりとこちらを振り返った。

「こちらですか?」

「そう!それそれ」

「美味しそうな甘橙ですね」

「でしょ!利吉くんに食べてもらおうと思って用意したんだ…」

「ふふっ、ありがとうございます。すぐに剥きますね」

彼は足元へ脱ぎ捨てられた服から短刀を取り出して、私の枕元へと腰を下ろすと甘橙を器用に剥き始めた。

「…なんか逆に手間かけさせちゃってごめんね」

「全く手間じゃないですよ」

いつものニコニコ笑顔でそう言ってくれるが…彼に似合うとかじゃなくて、もっと手間のかからない果物を選ぶべきだったと、いそいそと甘橙を剥いてくれる彼を見ながら反省する…。だけど今考えてみれば先日のあの葡萄も、見せてもらった物は一房の、一粒一粒しっかりと分厚い紫の皮に包まった葡萄だった。だけど私の口に入ったものは全て、綺麗に皮が剥かれて種すらもなかった。きっとあの時も、私の気づかぬうちに一つ一つ丁寧に皮を剥いて、食べやすいようにと種を取ってくれたのだろう…

「利吉くん…君って子は…」

「私が好きでしていることですから気にしないで下さい」

「本当にありがとう…」

「いいえ、私こそいつも我儘に付き合って下さりありがとうございます」

「そんな!我儘なんて!私たちは家族で…その…恋人、なんだから…」

「うふふ、嬉しいです。土井先生と晴れて恋人になれたことも、こうやって私のことを想って下さることも」

「利吉くん…」

「だから私は貴方を大切にしたいのです」

どこまでも直向きな言葉が、真っ直ぐに私の心に伝わる

「いつまでもお慕いしております。お兄ちゃん」

昔から変わることない眩いばかりの瞳が、太陽のように私を照らす

「利吉くん…」

私に、こんな果報者になれる未来が来るなんて思いもしなかった。全てを失い、身を裂かれるような思いをした幼き日。絶望に打ちひしがれて生きることすら諦めかけたこともあった。だけどそんな私の醜い過去すらも抱きしめて、私には勿体無いくらいの大きな愛と優しさを惜しみなく注いでくれる。

こんなにも私のことを愛してくれる

「さあ、剥けましたよ」

また一粒、幸せな涙をぽろっと零していると、お椀状に剥いた皮に一口大に切り揃えられた甘橙が綺麗に盛られて、目の前に差し出された。

「すごい!利吉くんは本当に器用だね」

「はい、あーん」

甘橙を一つ手に取って、当たり前のように私の口元へと運ぶ。私はそれをパクッと食べると

「美味しいですか?」

可愛い笑顔で聞いてきた恋人を、渾身の力をふりしぼって押し倒した。

「うわあ!」

だけど立っていられない私もすぐに彼の隣に倒れた。

「え?!ちょ!?」

顔が近くなって此れ幸いと彼の頬を両手でしっかり押さえると、彼の形の良い唇に私の唇を押しつける

「ん…」

縁をなぞるように舌を這わせれば、彼が私の舌を招き入れて絡み合う。そのまま口移しで甘橙を食べさせようとしたとき、2人の間でプシュッと果汁が弾けた。

「っん」

滴る果汁が顎にたれ流れることも構わずに、彼がじゅるじゅると私の舌ごと啜る。

「んんっ…ぅ、ふ」

気持ち良さのあまりクラクラと目眩がして、視界いっぱいに広がる彼の顔がキラキラと霞んでゆく。ぐちゃぐちゃと混ざり合った甘酸っぱい唾液を彼が美味しそうにこくこくと飲み下す音が聞こえて、私の体がじゅんじゅんと疼いた。

「りきちくん…すき…だいすき…っ」

彼の手が私の両手を取り、指に指を絡ませるように握られる。熱い吐息も、甘い唾液も全てが混ざり合って、やがて一つに溶け合った。


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