山田利吉×土井半助 Unofficial Fan fiction
◯風邪っぴきの利
「利吉くん、お加減はどうだい?」
半助が寝間を覗くと、布団の中で利吉はぶーたれていた。
「もー最悪ですよ、せっかくのお正月に風邪をひくなんて…」
「でも昨日よりはだいぶ良さそうだね、良かった」
「良くないですよ!本当だったらお兄ちゃんと父上も一緒に凧揚げや手裏剣羽付きをするはずだったのに…」
「それは利吉くんが元気になったらやろう!今はこれ、すごろくをやらないかい?」
半助が後ろ手に持っていたすごろくを見せると、利吉の大きな瞳がキラキラと輝いた。
「え!すごろく!?是非やりたいです!」
「うん!じゃあやろっ!」
半助が机を出してきてその前に座ると、利吉も布団から起き上がった。
「ここに来るかい?」
半助が自身の太ももを叩くと、利吉は嬉々として半助の足の間に座った。半助は机の上にすごろく板を広げると、利吉にサイコロを手渡した。
「お先にどうぞ」
「わーい!!それ!」
利吉が満面の笑顔でサイコロを振れば、2人のすごろく勝負が幕を開けた。
「3!1、2、3 えーと、あ!1回休みだぁ」
「じゃあ次は私の番だね!それ!2だ!1、2と、利吉くんが1回休みだから、私がもう1回だね!それ!また2だ、1、2と、ん?なになに、3マス進むか、それじゃあ、1、2、3と」
「わわ!そんなに!?よし私も!お兄ちゃんに負けないぞー!!それ!5!やった!!1、2、3、4、5と、えーと、えー!!また1回休み?!」
「利吉、お薬の時間ですよ」
居間から奥方の声がした。2人の勝負はここで一時休戦のようだ。襖が開くと、お盆を持った奥方が現れた。
「えー、まだすごろくの途中なのに」
「この続きはまた後でやろうか」
ごねる利吉をなんとか宥めて、半助は奥方と入れ替わるように寝間を出ると、囲炉裏の前に伝蔵が座っていた。
「すまないね、せっかくの正月なのに利吉の相手をさせて」
「いえ、利吉くんと遊べて私も楽しいです。それに、私にとって利吉くんは癒しなので」
半助も囲炉裏の反対側へ腰を下ろすと、寝間から利吉が飛び出してきた。
「お薬嫌です!!」
「こら、利吉」
どうやら薬を飲みたくなくて逃げ出してきたようだ。利吉は、半助の側まで走って来ると、うしろに隠れて背中にギュッとしがみついた。
「だいぶ良くなったので、もうその苦いお薬は飲みたくありません!!」
「まだ少し微熱が残っているでしょう、飲まないといけません」
「絶対に嫌です!!」
「利吉!」
「お兄ちゃんは私の味方ですよね」
必死な表情の利吉に見つめられて、半助は苦笑しながら自身のほっぺたをかいた。
「うーん…」
「こら、利吉、薬をちゃんと飲みなさい!いつまでたっても風邪が治らんぞ?」
「絶対に飲みたくありません!!」
利吉の説得に伝蔵も加わり、利吉の目には次第に涙が浮かんでいった。そのとき、ふと半助は思いついた。
「あ!そうだ!確かりんごがありましたよね?」
「ああ、頂いたやつが3つ程残っていたな」
「1つ貰ってもいいですか?」
半助は伝蔵からりんごを受け取ると、皮を剥いてすりつぶした。
「こうしてすりつぶして、すりつぶしたりんごに薬を包んで」
半助はすりつぶしたりんごに薬を包むと、それをスプーンにすくって利吉の口の前に差し出した
「利吉くん、これを噛まずに飲んでみて」
利吉は、半助に差し出されたスプーンをぱくっと咥えると口いっぱいに甘いりんごの風味が広がった。美味しくて思わず噛もうとしたが、半助に言われた通り、ごっくんとそれを飲み干した。
「えらい!えらい!お薬飲めたね!」
「わあ!全く苦くありませんでした!!」
「まったく、利吉に甘すぎるんだから!」
「うふふ」
伝蔵は呆れ顔で半助に抗議をしたが、奥方は微笑ましそうに笑った。
「お兄ちゃん!すごろくの続きやりたい!」
「いいよ、もう少しやろうか」
「わーい!!」
寝間に戻り、先ほどのままにしていた机の前の定位置に座ると再びすごろく勝負が始まった。
「次は私からだったよね、それ!4だ!なになに、1回休みだ」
「私も1回休みです。この場合どうなるんですか?」
「この場合は、次は利吉くんかな!はいどうぞ」
「やった!えい!1だぁ、せっかく1回休みがなしになったのに」
「でも見て!」
「えーと、なになに、あ!5マス進む!!」
「良かったね!」
「やったあ!」
その後も一進一退の攻防が続いたが、マス目も残りわずかとなったところで利吉が半助の胸に寄りかかりうとうとし始めた。
「眠くなってきたね、そろそろ横になるかい?」
「でも、あと少しなので…」
「勝負は明日に持ち越しでもいいんじゃないかな?」
「うーん…」
眠そうに目を擦りながらも、一生懸命にサイコロを振ろうとする利吉の様子がなんとも可愛らしくて、半助は自然と笑みが零れた。
「ふふ!ほら、もう布団に入ろう」
「お兄ちゃんも一緒?」
「うん!一緒に寝ようか」
利吉と半助が仲良く布団に入ると、ごく当たり前のように利吉は半助の腕に頭をのせた。半助が利吉の顔を見ると、利吉もまた半助の顔をニコニコしながら見ていた。
「うふふ!お正月なのに風邪ひいちゃったけど、お兄ちゃんと一緒に遊べて楽しいです!」
「私も利吉くんと遊べて楽しいよ」
もっと遊びたいなと話す利吉の胸を半助が優しくトントンと叩きはじめると、次第に利吉の瞬きがゆっくりになっていった。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「私が眠るまで手を繋いでいてくれませんか?」
「いいよ、はい」
半助が手を差し出すといつもより少し熱い小さな手がギュッと握った。
「えへへ、お兄ちゃん!お休みなさい!」
幸せそうに笑う利吉に応えるように、半助もギュッとその手を握り返せば、利吉はスゥっと夢の世界へ旅立っていった。
「お休み、利吉くん」
⁂
「そんなこともありましたね」
そう呟きながら利吉が目を開ければ、そこは戦場真っ只中。今日は朝からどうも頭痛がすると思っていたが、外せない忍務故に利吉は体に鞭を打って合戦場に赴いた。だがそれは仇となったようで、頭痛はより酷くおまけに悪寒もしてきた。これは本格的に風邪をひいたようだと利吉が頭を抱えたとき
カサッ
ついよろけてしまい落ち葉を踏んだ
「おい!そこで何をしている!」
しまったと思ったときにはもう、敵から放たれた矢が利吉に降り注いだ。なんとか木の上に逃れたが、急に動いたせいでどうも眩暈が酷い。蹲りたいがここは木の上だ。よろけたら落下して今度こそ無事ではないだろう。幼い頃に大好きなお兄ちゃんと過ごしたお正月を思い出して懐かしくなるが、今は記憶の中の幼い自分が心底羨ましい。
「お兄ちゃん…」
利吉はぽつっと寂しさを呟いた。
「なんだい?」
優しい声が聞こえた気がした。そうだ、あのときもお兄ちゃんは優しい声で、自分が呼ぶ声に応えてくれた。こんなところでへこたれてはいけない。せめて、この場から今すぐ立ち去ろう。そう思って利吉が前を向くと、今まさに想い焦がれていた姿が目に映った。
「え?私はついに幻覚が…」
「見えてない、見えてない、私だよ」
これは夢か幻か、もしや自分はあのまま下に落ちて気を失ったのではないか。回らない頭をフル回転して必死に考えていると、想い人の姿をした人がトンっと自分の隣に飛んできた。
「え?土井先生?」
「うん!」
やはりどこからどうみても…と、利吉が呆気にとられていると半助の手がそっと頬に触れて、優しくも冷たい感触が利吉を現実へと導いた。
「え、なぜここに…」
「なんだか嫌な予感がしてね、来てみたらキミがいたんだ。それにしても酷い熱だねぇ、風邪かい?」
「はい… そうみたいで」
本当に現実なのだと漸くわかると安堵と嬉しさが込み上げてきて、利吉がさらに言葉を続けようとしたところで、今度は良からぬ声が聞こえた。
「おい!さっきの奴がいたぞ!」
まずい、今は早くこの場から逃げないと、彼を巻き込んでしまう前に。そう思って足に力を入れようとしたとき、利吉の体がふわりと宙に浮いた。
「え?!」
今度は何が起こったのかと周りを見渡せば、想い人の顔がすぐ真上にあって、自分の状況を嫌でも理解させられた。
利吉は半助にお姫様抱っこをされていた。
「ちょっと、土井先生?!」
「悪いけど、少しこのまま我慢していて」
「いや、まずいですって!今すぐ私をおろして土井先生だけでも早く逃げて下さい!」
「何を言っているんだい?私はキミを助けるために来たんだよ」
「え?」
「だって私は利吉くんのお兄ちゃんだから」
「!?!!!」
想い人の可愛い笑顔に風邪以外の理由で頭がどうにかなってしまいそうだ。口元に嬉しさを滲ませながらも、この姿勢はさすがにまずいと利吉は尚も抵抗を試みた。
「いや、今すぐ私をおろして下さいって!」
「なぜだい?利吉くんはもう動けないだろ?」
「ならせめておんぶに!!」
「今はこの方が都合がいいんだ」
「いや、これは利土井をうたっている小説ですから!さすがにこの姿勢は逆を疑われかねないので、まずいんですよ!」
「大丈夫、ちゃんとキャプションに書くから。それにこれは利土井じゃよくあることらしいよ」
「いや、でも、しかし」
「さっきも言ったでしょ、私はキミのお兄ちゃんだからって、ね!」
半助が飛ばしたウィンクが利吉の心臓に深く突き刺さる。利吉が漸く大人しくなると、半助は腰を屈めて足に力を入れた。
「飛ばすよ!」
その言葉を合図に、半助は猛スピードでその場を駆け去った。木と木を華麗に飛ぶ、すぐ真下から見上げる想い人の顔が死ぬ程かっこいい。利吉は自分の顔が火照るのを止められなくて、せめて半助からは見られまいと両手で顔を覆うと、凄まじい浮遊感と絶対的な安心感に包まれながら目を閉じた。
次に利吉が目を開けると半助の家の前だった。
「ここは」
「私の家の前だよ」
「そうですか。ここまで運んでいただきありがとうございました。ここからは1人で帰れますので」
名残惜しい半助の腕から解放されて、利吉は深くお辞儀をした。さて帰ろうと利吉が踵を返すと、半助の手が利吉の腕を掴んだ。
「今日はこのまま、私の家で一晩ゆっくりしていきなさい」
想い人からの泊まりのお誘いが嬉しくて堪らない。きっと彼はそんなこと、今は露も思っていないんだろうけど、利吉が短く息を吐きながら振り向けば、半助は心配げな笑みを浮かべて利吉を見ていた。
「こんな状態の私が泊まったら、きり丸に悪いじゃないですか」
そうは言いながらも、彼に手を引かれれば利吉はそれを振り解くことなどできない。導かれるままに一緒に家の中に入ると、そこにいつもいるきり丸の姿はなかった。
「大丈夫、きり丸は今日は堺へお泊りに行っているから」
「ああ、しんべヱの家ですか」
「そうそう!だから気にしないでゆっくりしていって、と言ってもお茶っ葉をきり丸に売られてしまったから、今白湯くらいしか出せないのだけど…」
囲炉裏の前に座布団を敷いてもらい、そこに腰を下ろすとほわほわと湯気をたてた湯呑みを手渡された。
「またですか?!でもお構いなく。休ませていただけるだけでも有難いので」
貰った湯呑みに口をつけると、白湯のはずなのになんだか甘く感じて、ほっこりと疲弊しきった心身に染み渡った。
「やだなぁ、そんなに畏まらないでよ」
「ええ、ありがとうございます!お兄ちゃん!」
「ふふ!」
お兄ちゃんと呼ぶと、ぱあと嬉しそうにする想い人の顔が愛おしい。利吉は目を細めて半助と目を合わせると、半助はころっと表情を変えてしまった。
「本当は薬を飲ませてあげられたらいいんだけどね」
「大丈夫ですよ。寝れば治ります。まったく風邪をひくなんて自分が情けないです。」
「風邪なんて誰でも引くときは引くよ、私だって… あ!」
「ん?どうしました?」
「ちょっとまって!きり丸が売っていなければ確かこの辺に、あ、あったあった」
物が少ない棚から白い包み紙を探し出すと、半助は利吉にそれを手渡した。見覚えのあるそれは広げなくとも中身はわかった。
「この薬は?」
「私も秋の初め頃に少し体調を崩してね、その時に新野先生から頂いたのが余っていたんだ」
「有難いですが、大丈夫ですよ。こちらお返しします。」
利吉は半助にそれを返すも、半助は両手をこちらに見せて受け取ってはくれなかった。
「遠慮なんてしなくていいよ、また必要なときに新野先生から貰えば良いんだから」
「いや、遠慮しておきます。お気持ちだけ有難く受け取っておきます」
「なんでだい?新野先生の調合した薬は良く効くよ」
「噂は予々ですが、本当に大丈夫ですから」
「ああ!」
半助が何かを思い出したように掌に拳を置いた。
「なんです?」
「そーいえば、利吉くんは薬が苦手だったね」
「あはは、思い出してしまいましたか、だって苦いじゃないですか」
「だが、良薬は口に苦しというだろ?」
「ですが、苦いものは苦いです」
「はは!利吉くんは相変わらず可愛いなぁ」
「そう言う先生だって、練り物と格闘してらっしゃる姿は可愛らしいですよ」
「練り物は別に、体に良いわけではないから」
「いや、練り物は魚のすりみですから結構栄養がありますよ」
何度目かの押し問答でじゃあと半助の手が、利吉から薬を受け取ろうと伸びる。眉を落として微笑む表情が少し寂しげに見えて、利吉は薬を持つ手を握った。
「でも、せっかくの土井先生のご厚意ですしね… 」
「お!飲む気になったかい?」
ころっと笑顔になる半助に今度は利吉が眉を落として微笑むと、包み紙を開いて意を固めた。
「私もいつまでも伏せっているわけにはいきませんから。ではこちら有難くいただきます」
「りんごか何かがあれば良かったんだけど、あいにくなくて、夜も遅いから買ってくるにももう店もやっていないし…」
「いいです、りんごがなくても。その代わり」
「その代わり?」
「その代わり、私が頑張って飲めたらご褒美を下さい」
必死な表情で自分をみつめる利吉にどこか懐かしさを覚えて、半助は満面の笑顔を浮かべた。
「いいよ!じゃあ利吉くんが良い子に飲めたらたくさん褒めてあげる!」
半助の表情とは裏腹に、半助の言葉に利吉は肩を落としたが、はいと半助から水を手渡されて改めて掌にのった薬と向き合った。
「ほら利吉くん、がんばれ!!」
手を振って応援してくる想い人があまりにも可愛すぎて気が散る。今抱くべきではない感情がむくむくと湧き上がって来て、利吉は己を律するために一息に薬をあおった。水を一気に飲み干すと、半助の手が利吉の頭に伸びてきた。
「えらいよ利吉くん!ちゃんと飲めたね!」
いいこいいこと何度も撫でる手を静かに抑えて止めると、利吉は半助の首に両腕を回して抱きついた。
「うわあ!」
驚き固まる半助をよそに首筋に鼻を埋めると、懐かしい"お兄ちゃん"の香りに利吉の気持ちは満たされる。だけど、自分でもまだ良く知らない感情は満たされることなくどくどくと疼いて仕方がない。
「利吉くん?」
未だに気持ちが全く読めない想い人は、何も言わない自分に戸惑っているようだ。
「どうしたんだい?大丈夫かい?そんなに薬が苦かったのかい?」
だんだんと心配の色が濃くなっていく自分を呼ぶ声に利吉は重い口を開いた。
「抱擁も、薬を飲めたご褒美として許して下さい」
漸く返された言葉に安心したのか、くすっと笑う音が利吉の体に響いた。半助も利吉の背中を両手で抱くとゆっくりと撫でた。
「それにしても利吉くん、大きくなったね」
「そうですよ、私ももう大人になったんです」
「そうだね。随分と立派になったね。出会った頃の利吉くんは私の足の間にすっぽりとおさまっていたのに」
「ええ。昔のあなたは私には大きすぎて、手なんてとても届きませんでしたが、今ではほら」
利吉は半助の首に回していた両腕を、半助の腰に移動させた。
「あなたの腰もすっぽりと抱けてしまう。土井先生、体はがっしりしているのに腰は案外細いですよね」
「り、利吉くん?」
「ねえ、土井先生」
利吉の熱を帯びた声に気がついたのか、半助の動揺を隠しきれていない声が彼の息とともに利吉の耳を掠めた。さて彼は今どんな表情をしているのだろうか、利吉が体を起こして半助の顔を見やると、そこにはいつもと変わらない半助のぽかんとした顔があって、利吉は今日2回目の呆気にとられた。
「え」
「利吉くん、大丈夫かい?」
「え?」
「利吉くん、顔真っ赤だよ?」
「あ、いや、それは」
「床を延べるから、今日はもうお休み」
そう言うと、半助はそそくさと利吉の体を離して床の準備を始めてしまった。後ろを向き、てきぱきと手を動かす半助を利吉は未だに呆けたままでぼんやりと眺めていたが、ふとあることに気づいた。気づいてしまった。想い人の顔はいつも通りなのに耳だけが異常に赤いことに。そのことに気づいた利吉は、どくどくと疼き広がる己の感情が少しだけ満たされるような、だけどより広がってもう制御できなくなるようなそんな感覚を覚えて、自然と上がっていく口角をもう止めることができなかった。
床が延べ終わると、少しばかり艶っぽかった空気は一変して清々しいほどの笑顔で半助に布団に入るように促され、利吉は大人しく布団に横になった。
「おでこ冷やすかい?」
そう言ってニコニコしながら手拭いを見せられて、利吉が素直に頷けば、半助は嬉々と利吉のおでこに水を絞った手拭いをのせた。
「ありがとうございます。そういえば先生の布団はどこです?見渡す限り、今私が寝ている物以外布団がなさそうなんですが」
「あ、そーいえば、きり丸が布団売っちゃったから今一組しかなかった」
「えー、布団もですか」
「いいよ、今日は私は利吉くんの看病をするから」
「なら、一緒に寝ませんか?」
「それはさすがに狭くない?利吉くんがゆっくり休めないでしょ?」
「今少し寒いので、添い寝してくれたら温かくてきっとよく眠れます。だから一緒に寝てください、お兄ちゃん♡」
「ふふ!わかった!じゃあお邪魔するよ」
利吉が嬉しそうに半助の入るスペースを作ると、半助もまた嬉しそうに利吉が空けたスペースに横になった。
「温かくなったかい?」
「はい!これで良く眠れそうです!」
「昔みたいに腕枕してあげようか」
「ぜひお願いしたいところですが、これ利土井をうたってる小説なので、そろそろまずいかと」
「大丈夫、キャプションに書くから。それにこれも利土井じゃよくあることらしいよ」
「もう!そういう問題じゃないんですよ!!」
腕が痺れるからと丁重に半助の腕枕を断ると、利吉は手を半助に差し出した。
「腕枕も捨てがたいですが、私の手を握ってくれませんか?お兄ちゃん♡」
「はいはい、キミが眠るまでね」
半助の冷んやりした手がギュッと利吉の熱った手を握った。
「手も大きくなったなぁ」
今日何度目かのしみじみとした半助の声に、利吉も半助の手をギュッと握った。
「ええ、もう大人なんですから、この手も朝まででお願いします」
「それは大人関係ないでしょ」
「ダメですか?」
「…わかったよ」
「ふふ、お休みなさい、お兄ちゃん」
久方ぶりの安心する大好きな体温に身を預けると、利吉は幸福感に包まれながら瞼を閉じた。
「お休み、利吉くん」
戻る