山田利吉×土井半助 Unofficial Fan fiction


◯湯たんぽお兄ちゃん

「ううっ、さっむぅ〜」

昨夜しんしんと降った雪は積もりに積もって、利吉は父と共に早朝から雪かきに追われていた。
生まれてこの方寒地に住んでるとはいえ寒いものは寒い。利吉がすっかり真っ赤になった己の手に息を吹きかけていると、家の中から母の声が聞こえた。

「利吉、もうすぐ朝ごはんができるから彼の方を起こしてきて」

「はい!母上!」

まだ眠っているだろう大好きな "お兄ちゃん" を思い浮かべると胸がポカポカと温まる心地がして、利吉はクスクスと笑いながら足早に家の中に入った。

利吉がそっと寝間の襖を開けると、布団に横になりながらこちらを見る半助と目があった。

「お兄ちゃん!起きてましたか!」

「利吉くんは雪かきをしてきたのかい?朝からご精がでるね!」

「もう父上ったら人使いが荒いんですから!」

「ふふっ!寒かっただろ?布団の中で温まるかい?」

母上から起こすように言われて来たのだからそうしなければ…と思いつつ、利吉は半助からの甘い誘いにめっぽう弱い。半助が布団を少し捲ればその中がキラキラと輝いて見えて、利吉はごくりと生唾を飲み込んだ。

「ほら、おいで!」

「うん!」

半助の笑顔のダメ押しに、利吉は嬉々として温かさは折り紙付きの布団へ潜り込んだ。

「うわぁ!あったかぁ〜い!!」

「こんなに冷えてしまって、利吉くんは朝から頑張ったんだね」

半助の温かな両手が利吉の氷のような両手を包み込む。でも足をくっつけたら、そのあまりの冷たさに今度はお兄ちゃんが寒い思いをしてしまうだろうと思い、利吉は足をなるべく端に寄せた。だがすぐに、半助の湯たんぽのような両足が氷のような利吉の足にぴったりとくっついた。

「わわっ!とても温かいですが、そんなにくっつけたら今度はお兄ちゃんが冷たくなってしまいます!!」

利吉は悪いからと更に足をずらそうとしたが、半助の両足が利吉の足をグッとホールドして離してくれなかった。

「いいんだよ。本来は私が雪かきを手伝うべきなんだから」

「そんなっ、お兄ちゃんはまだ怪我が治っていないんですから!ゆっくりしていて下さい!」

「ありがとう。だからせめて私に、頑張った利吉くんを温めさせてくれ」

半助の優しい眼差しと声が12歳の利吉の心をむずむずとくすぐる。それと同時に "お兄ちゃんが大好き" という気持ちが体の奥底から込み上げてきて、利吉の胸はドキドキと高鳴った。

「ふふっ!鼻も真っ赤だ」

言葉を詰まらせる利吉の鼻を半助の指がちょんちょんと触れる。だんだん熱くなっていく頬に思わず利吉が下を向けば、半助の腕が利吉の背中にまわりギュッと抱きしめた。

(わわっ!!私のドキドキ、お兄ちゃんに聞こえてないかな?!)

うるさいくらいに音を立てる胸が半助の体にくっついて利吉は慌てた。だけど心地の良い倖せな温かさがじわじわと体中に染みわたって、利吉の心をぐずぐずと溶かしていった。

「どうだい?少しは温かくなったかい?」

きっとお兄ちゃんは今、笑顔を向けてくれているだろう。ぜひ見たいと利吉が顔を上げれば、今し方思い描いていたどこまでも優しい瞳がまっすぐに自分を見ていた。
利吉の "お兄ちゃんが大好き" という気持ちは、溢れてもう止まらなかった。

(…私のドキドキ、お兄ちゃんに聞こえて欲しいかも)

「はい!」

半助の問いに満面の笑みで返すと、利吉もギュッと半助にくっついた。

「お兄ちゃん、まるで湯たんぽみたいです」

「湯たんぽ?」

「はい…湯たんぽみたいにぽかぽかです…」

だんだんと重くなっていく瞼を閉じると、くすりと笑う声が利吉の耳を撫でた。

「利吉くんを温められているならよかった!」

うららかな春のような温かさに身も心もすっかり包まれた利吉の意識は、ふわりと甘い夢の中へ吸い込まれるように落ちていった。





朝ごはんがすっかり冷めてしまうと伝蔵が寝間を覗くと、利吉と半助がぴったりとくっついて幸せそうに眠っていた。

「おいおい、利吉は起こしに来たんじゃなかったのか?お前まで寝てどうするんだまったく」

「うふふ」

呆れる伝蔵のうしろから奥方の微笑まし気な笑い声が静かに響いた。


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