山田利吉×土井半助 Unofficial Fan fiction


◯利吉100%


夕闇迫る時の中

1人の青年が宵の明星に手を翳す

するとたちまち眩い煌めきが辺りを包み、次の瞬間、煌めきの中から忍装束へ早替わりした青年が姿を現した。

忍へ変身した青年は瞳に星を宿して、暗雲立ち込める山向こうへ歩き出す。鬱蒼たる樹海へ足を踏み入ればその姿も気配もじきに消えた。

人里離れた荒蕪地で今日も今日とて戦が起きる。

"戦とはもったいないもの"

慕う彼の人はそう話す。だが人々は戦をやめない。全てを破壊し大切なものを失って、初めてその愚かさに気づくだろう。普段は田を耕す村人がその日ばかりは剣を持つ。だが慣れない手では慣れた戦士に勝ち目はなし。己はここまでか。臨時兵士が胸懐で妻子に詫びと別れを告げたとき、目の前に1人の忍ヒーローが立ちはだかった。

「山田利吉!!」

したり顔で兵士を追い込んでいた敵忍が青ざめながらそう叫ぶ。

「ほう、私のことを知っているのか。それなら話は早い。ここからは私が相手だ」

利吉が構える苦無の切先が目にもとまらぬ速さで敵忍の首を掠めた。間一髪避けた敵忍は息も絶え絶えにクソっと捨て台詞を吐き散らして後退していった。

飛び交う殺鬼をひらり、ひらりと躱して合戦場の空を華麗に翔る、それはまるで天翔る一筋の流れ星のように。そのとき、利吉の頭にキュルルリィンと閃きが走った。

「お前の背後を取った。一瞬でも油断したお前が悪い。あばよ!」

背後から刀を振り下ろす先刻の敵忍に、必殺みぞおちパンチをお見舞いして、利吉はどこぞへ光の速さで駆け去った。


一方その頃忍術学園では

1年は組の教科担当担任、土井半助が窮地に立たされていた。

「お残しはゆるしまへんで〜!!」

食堂のおばちゃんが構えるちくわが、今まさに土井の口に迫り来る。壁まで後退しきった身の逃げ場はもうどこにも残されていない。

「ひぃぃ…」

己はここまでか。土井の口から悲痛な断末魔が漏れた。

「お待ち下さい」

そのとき、どこからともなく声が聞こえた。皆が一斉に振り向くと、入り口に1人の忍ヒーロー、利吉が立っていた。
利吉は髷を靡かせながら絶壁まで歩み寄ると、食堂のおばちゃんから容器と箸を受け取った。

「いただきます」

皆が呆気に取られる中、利吉はもくもくと容器に山盛り盛られた練り物を平らげていく。

「ごちそうさまでした。食堂のおばちゃんが作る料理は相変わらず美味しかったです」

すっかり空になった容器を返して、利吉は土井へと手を差し伸べた。

「これで貴方を苦しめるものは全ていなくなりましたよ」

「利吉くん…✨」

「さあ、これから私とうどんを食べに行きませんか?」

利吉はそのまま土井の手を引き、外へと連れ出した。土井の顔にはきらきらと笑顔の花が咲いた。





またある日、忍ヒーロー、利吉は合戦場にて兵力を調べていた。

「「「利吉さ〜ん!!!」」」

そこへ覚えがありすぎる3人の声がだんだんと近づく。その声は…と利吉が振り返ると、声の主の3人の頭上に矢の群が今まさに降り注ごうとしていた。

利吉は一目散に飛び上がった。空を跳ぶ利吉の、後ろに映える真っ白な雲はさながら翼のようで、3人は思わずその姿を目で追った。すぐ目の前に降り立った広い背中は3人を庇い、降りかかる全ての矢を苦無で弾いた。

「乱太郎きり丸しんべヱ!危ないから合戦場には来るなとあれほど言っただろ!」

「だって山田先生が利吉さんに洗濯物を届けろって」

「またか💢」

「食券3枚ももう貰ってるんで…」

カリスマ忍の憂いごと、それは野となれ山となれ

「だから食券3枚の問題じゃないと言っているだろう!!💢今すぐに持って帰れ!!💢じゃないと本当に合戦場に叩き出すぞ!!💢💢💢」

「はい…今すぐ持って帰ります…」

利吉の剣幕に3人はとぼとぼ去っていく。

「はあ…」

と息を吐いたのも束の間

「「「利吉さぁ〜ん!!!」」」

「今度はなんだ…」

今し方去ったはずの声がまた聞こえて、物憂げに振り向けば、目の前にたった数分前のデジャブが広がる。

「危ない!」

もう一度飛び上がり、またもや降り注ぐ矢群から3人を庇う。だが今回は振り向くのが遅れたせいか苦無を振る手が間に合わず、矢が利吉の肩を掠めた。

「っ…」

「利吉さん?!」

「大丈夫っスか?!」

「肩から血が出てる!?」

「私は大丈夫だ…君たち怪我は?」

「僕たちはありませんけど…」

「ならいいんだ。まったく、何で戻ってきたんだ?」

「迷子になっちゃって…」

「はあ、しょうがない。じゃあ途中まで送っていくから」

利吉は深く息を吐き出すと、とぼとぼと街の外れまで3人を連れて行った。

「ここをまっすぐ行ったら街だから」

「利吉さん、まだ肩から血が出てます。せめて手当を…」

「ありがとう。だが大丈夫だ、君たちは早く帰りなさい」

そのとき利吉の頭にキュルルリィンと閃きが走った。その瞬間走り出した利吉は、3人をその場に残したまま矢の速さで去っていった。


一方その頃忍術学園では

1年は組の以下略、土井が胃を抑えて蹲っていた。

「土井先生!!」

耳馴染みの声が聞こえて、土井が驚き顔をあげると、目の前に忍ヒーロー、利吉が立っていた。

「利吉くん?!」

「大丈夫ですか?また胃痛ですか?」

利吉は土井の側に寄り、痛みに震えるその肩を抱いた。

「ゆっくり医務室まで行きましょう」

土井を医務室まで連れてきたがそこには誰もいない。利吉は勝手知ったるなんとやら、床を延べて薬と水を用意する。

「薬とお水です」

「ありがとう」

土井はそれらを飲み干したが、尚も胃を抑えた。

「いたたっ…」

「薬が効くまでの間、私がさすりましょう」

利吉はゆっくりと土井の体を横たえると、日々酷使され続けるその胃を労るように撫でた。

「痛いの痛いの飛んでいけーっ」

「それ懐かしい!」

「はい。まだ幼い頃、お腹を壊した私に、お兄ちゃんがそう言いながらさすって下さいましたよね」

「そうだったね!」

「私はあの時、すっかり痛いのが飛んでいって元気になりましたが、どうです?少しは楽になりそうですか?」

「うん!利吉くんのおかげで痛みが飛んでいって、いつもよりも早く良くなりそうだよ」

「それは良かった」

「利吉くんが側にいてくれてとても心強いよ」

その言葉に利吉は伏し目がちに柔らかく微笑むと、土井はふと利吉の肩に気がついて目を見開いた。

「利吉くん?!肩を怪我してるじゃないか?!」

「ああ、ただの擦り傷ですよ」

「結構血が出てるけど?!利吉くんこそ早く手当をしないと!!」

利吉は起きあがろうとする土井を優しく制す。

「私も、貴方が側にいて下さるだけでとても心強いです。貴方に笑顔が戻る頃、この傷もきっと癒えるでしょう」

「利吉くん…✨」

「後できちんと処置をしますから、心配なさらないで下さい」

「だめだよ、利吉くん!今すぐに手当てして!君の体が心配で私の胃が余計に痛くなってしまうよ」

「それは大変ですね、では今すぐ処置をします」

土井の真剣な表情に利吉はハの字眉で引き下がった。土井に布団を掛け直すと、処置をするべく服を脱いだ。

「まったく、それのどこが擦り傷なんだい?」

肩が露わになると、思っていたより深い傷に土井が心配顔を向けた。

「すみません。貴方にそんな顔をさせてしまって…貴方の前では格好をつけていたかったんですけど…私もまだまだですね」

「利吉くんは格好なんてつけなくても充分にかっこいいよ」

包帯を巻き終えると、布団の中から手当ての様子を見守っていた土井が手招きをした。

「利吉くん、おいで!」

「なんです?」

利吉が側へ寄ると、土井は手を伸ばして包帯が巻かれた利吉の肩を撫でた。

「痛いの痛いのとんでいけーっ」

それは2人の秘密の癒しの呪文。

「ふふっ、飛んでいった?」

変わらぬ温かな愛がいつだって利吉を守る。利吉は肩の力を抜くと、土井の隣に寄り添った。

「はい」

2人微笑みあうと、互いに痛みを撫でてその翼を休めた。





その日、利吉は1人空を見上げていた。

月が赤い…

今日は、ある城に頼まれてとある忍務に行く予定だったが、どうやらそれどころではなさそうだ。忍務はもちろん大事だが、それより大事なものが利吉にはある。

宵の明星に手を翳し、煌めき纏って忍装束に早替わり。

忍へ変身した利吉は瞳に星を宿して、行手を一睨すると疾風の如く駆け出した。


その頃すすき畑では、
土井と尊奈門がいつもの果たし合いをしていた。

「本当に懲りないね君も」

「うるさい!土井半助!今日こそは決着をつけてやる!」

「だからそこには鳥の巣があるから、気をつけてと前にも言ったでしょう」

尊奈門が振り上げた苦無が鳥の巣を掠め、土井は命芽吹く卵たちを守るためにあえて尊奈門の手を抑えた。

「やあ!」

土井は、体が宙を舞ったところで、ふと先の一件がフラッシュバックした。今度こそ周りを良く見て着水しなければ、だけどまた、あの日のように記憶を無くしたら…
土井は思わずギュッと瞼を閉じた。
それが死につながることを承知して。
また自分が鬼と化してしまうくらいなら、いっそ…

そのとき土井の体をふわりと温かい腕が包み込んだ。

え!?と思い土井が瞼を開くと目の前に忍ヒーロー、利吉の顔があった。利吉は土井を腕にしっかり抱えると、くるりと宙返りをして地面に着地した。

「間に合って良かった」

「利吉くん?!」

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫…だけどなぜここに?!」

「もう貴方をどこにも行かせたくなかった、ただそれだけですよ」

「利吉くん…✨」

自分は助けられたのだと利吉の笑顔にホッとして、土井はその場から降りようとした。だが利吉はそれを拒んだ。

「あの…利吉くん?もう下ろしてくれて大丈夫だよ?」

「嫌です」

「嫌って、重いだろう?」

「いいえ、羽のように軽いですよ」

もう決して渡しはしない。 
あの日に強く誓ったのだ

"己の命にかえても、必ず貴方をお守りする" と
      
利吉は土井を腕に抱えたまま、月に背を向けて歩き始めた。


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