:D,Gray-man
:黒の教団


バチバチバチバチ

バレンタインデーたる今日この日、食堂にいた団員達の記憶には、それぞれひとつの小包を手に対峙し黒い火花を散らし合う3人の少年の姿が印象深く残った事だろう。とは言えある意味日常と化したその光景に、誰ひとりとして止める者などいなかった。下手に仲介役などしようものなら、自殺行為に等しくその人物も無事では済まないだろう。

「これだけはユウにもアレンにも譲らねぇさ!」

ようやく重い口を開いたのは赤毛の青年……ラビである。普段は温厚な彼も、この時ばかりは憤然と立ち向かっていた。

「ふざけてんなバカ兎」
「ふざけてるのは神田もですよ」
「なんだと白髪モヤシが!」
「アレンだって言ってんでしょうパッツン」
「ちょ……っ二人とも話それてるって!」

訂正しよう。悪の帝王並の腹黒さを垣間見せる神田とアレンの前には、やはりストッパー役は必要だったらしい。
そもそもの原因は、その手の包み……もといチョコレートを彼等に渡した少女にあった。

「実はなアレン……俺さっき依泉にチョコもらっちゃったんさ」

アレンがチョコレートを手にし上機嫌で向かえば、食堂で一足先にラビと神田がモメていた。普段一番神田と喧嘩するのはアレンだが、己を棚に上げる精神で二人に呆れ原因を探らんと話し掛ければ、真面目な表情でラビはそう言ったのだった。

「はぁ!?」
「な……っ何さ、イキナリ大声だして!」

フンッとそっぽを向いた神田なんて背景と同化させたアレンは、その言葉に大袈裟過ぎる程大袈裟に驚いた。そして、一言。

「僕ももらいました!」

それはある意味爆弾発言だった。実はユウもらしいんさ!と叫んだラビによって、アレンと神田の間に不穏な空気が流れる。それはまるでカァンとゴングの鳴らされた直後に冷戦状態で対峙し合う、プロレスラーの如く。勿論それの勝者は噂である少女の本命を意味する。

「僕のチョコレートは特別なんですから!」

より自分が高みに立とうと、それぞれが自分の持つチョコレートへのエピソードを語り始めんとする。が、結果は同じ。誰もが個人の好みに合ったチョコレートをもらい、直後誰もが優越感を得ていた。



口頭での争いは結局微塵の優劣などつける事もできずに終わり、きりがないと判断した三人の前をタイミングが良いのか悪いのか、想いを馳せる少女が通りかかってしまった。もはや残された道はひとつ。最もポピュラーかつ的確な、

「こうなったら、依泉に直接聞くさ」

ラビの提案を拒否する者はなく、三人が静かに頷く。周りの団員達はこの時、今日一番だろう大きな溜め息を吐き出していたが、幸いにもひとつの事に思考を占拠されていた彼らが気付く事はなかった。

「依泉!」
「ん?どうしたの?」
「依泉、俺らにチョコくれただろ」
「うん?」
「僕達の事、どう思ってるんですか?」
「え?どうって……」
「正直に答えろ」
「わ……分かった」

意外にも簡単に口説けた依泉に三人の顔が引き締まる。泣けど笑えど、次の瞬間答えは判明する。

「皆の事は……大好きだよ?」
「誰が一番!?」

答えに満足いかない男共は詰め寄るかのように先程より一歩進む。驚きながらも依泉は何事もないように、サラリと素直な台詞を吐いた。

「え、同じくらい」
「……は?」

三人が三人同時に間抜けな声を発した。周囲でひっそりと聞き耳をたてていた団員達も声に出さずとも似たようなものだろう。
……同じくらい?

呆気にとられる彼らに気付きもせず、依泉は一人にこりと満面の笑みで笑う。
言った台詞は「今ね、友チョコっていうのが流行ってて……大切な友達にあげるものなの!」と律儀な説明だったが、抜け殻もしくは屍のように周囲は止まって動かない。

「だから3人共、ずっと友達でいてね!」

この年の2月14日、笑顔は凶器だと悟った団員は後を絶たない。


いつまでも!

精神の発達が未熟な依泉には、まだ恋愛の二文字は早かったのか。
「友達として」団員を愛する少女に、面と向かって地雷を投げられた気分の少年青年達。彼らの脳内では暫くの間、ずっと友達という言葉がリピートされ続けたとか。


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19世紀ですが友チョコの存在は男共に知れ渡っておらず、女子が発明し出した感じな設定で。外国だけど日本式!←

執筆2007.10.22.mon
加筆2009.01.25.sun

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