:家庭教師ヒットマンREBORN!
:山本武
春特有の陽気な陽射しが地表まで降り注ぐ。日曜日にわざわざ学校のグラウンドへと足を運んだのは他でもない、野球部の試合を観戦する為である。勿論我らが並中…いや、幼馴染みの山本武に声援を送る私達。獄寺君はいないけれど最近すっかりお馴染みである私とツナの2人が並んでいた。
試合結果は武の活躍で並中の勝ち。周りの歓声に混じって凄い凄いと騒いでいた私達に負けず劣らず、少し離れた場所でも女子の大群が声を揃えて盛り上がっていた。
「山本君すごーい!」
「カッコイイー」
「武君こっち向いてーっ」
殆どがそんな感じの、校内にも存在するらしいファンクラブのノリだった。その黄色い声が全て武に向けられている事に気付いたのは今更ながらこの時だった。彼女達の視線の先には、それに応えて観客に笑顔を向けたり手を振ったりする武の姿。そんな中一気に下がるのは案の定私のテンションだけだ。心臓近くが突然重みを主張し始める。
試合を見に行くと女子が多いのは気付いていたけど、まさかほとんどが武狙いだったなんて…!
そして私が出した結論は
「武ってさ……タラシだよね。しかも天然の」
「……うん」
隣で私の呟くような声をいつものように拾ってくれるのは苦い笑みを浮かべるツナだ。天然タラシって、一番質が悪いと思う。見れば未だ手を振り続けている武。何だか無性に腹が立ってきた。
「あー……っもう!」
だからと言って私に文句を言う資格なんてある筈もなく。武だってただの幼馴染みである私に嫉妬なんかされた所で、困るだけな事は明白。だからと言って告白する勇気なんて私には皆無だった。ふられるのが怖い。関係が壊れるのが怖くて仕方ない。
どうしろって言うのさ。私に!
「元気出して依泉ちゃん。オレは応援するから!」
「ありがとツナ……私も応援してる」
私の溜め息の意図に気付いたのか、またしてもいつものように励ましてくれるツナ。あはは…と頬を少しだけ染めながら渇いた笑いを溢した。
彼は私の想いを知っている。応援もしてくれる。そして私はツナの京子ちゃんへの想いを応援してる。2人して手の届きそうもない相手に恋をして。馬鹿だなんて、何度自分を呪った事か。
「はぁ……」
盛り上がるグラウンドで小さな溜め息が空気に溶けた。結局、答えなど出る筈もないのである。
鴉が空で鳴き日も暮れ始めた頃、必然的に家が隣の私は武と共に帰路を辿っていた。
「試合、来てくれてサンキューな!」
「まぁ……幼馴染みだし、ね?」
「すっげー楽しかった!ホームランも決まったし」
試合の帰りにはいつも変わらない、満面の笑みを浮かべた武の野球話。それすら心地良い。この時間だけは誰より私が隣にいる事を許されるのだ。
「また試合あったら観に来てくれよ!勿論ツナと……次は獄寺も誘ってなっ」
「ん。あ、それでさ、」
残念ながら獄寺が来る事は実現しない気がするけれど、そんな考えを微塵も持たない武は何事もないように「ん?」と小首を傾げた。
「武はその……今日の観客の態度っていうか……」
「なんだ?」
「女の子達が騒いでたでしょ?」
カッコいいとか、名前を呼んだり、とか。ボソボソと呟く様に言った例えにようやく理解できたらしく、武はポンと何か閃いたように手を叩いた。
「あぁ!そう言えば呼ばれたな」
「嫌だって言ったらどうする?」
「何がだ?」
「……いっぱいの女子が武を応援してるのも、それに笑顔で応える武を見るのも」
言ってから少し後悔した。紛れもなくこれは本心なのだけれど、私はなんて独占欲の強い女だろうか。なんて嫌な幼馴染みだろう。
「ん〜……よく分かんねぇけど」
駄目だ。幾ら武でも彼女でもない奴にこんな事言われたら、きっと気分を害する。──嫌われる。
「それは俺の事が好きって事か?」
「うん」
今更気付いたかな?でももう……って、うん?
「そっか〜!実は俺も依泉の事好きだぜ!」
てっきり依泉はツナが好きなんだと思ってたけどなー。武は陽気過ぎる程陽気に笑う。
んんん?待て待て待て待て。何か私さっき重大な秘密を軽く暴露してしまったような……っていうかこの会話の内容が可笑しいような……!
「俺達両想いだったのな!」
にっこにっこ。いつもの爽やかな笑顔が貼り付いている、その口元から出る言葉ひとつひとつに私は混乱させられていた。冷静になれ、私。考えろ。私の事がスキ?両想い?
…………
「っ!本当にっ!?」
掴みかかる勢いで振り向いた私に、武は相変わらずの笑顔を絶やす事なく頷いた。
「依泉、オレと付き合ってくれるか?」
YESかNOか。答えは言う迄もなく決まっている。
橙の影、ふたつ
共に歩いてゆこう。
執筆2007.12.13.thu
加筆2009.03.06.fri
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