:家庭教師ヒットマンREBORN!
:獄寺隼人
「お待たせー」
コンクリートの階段を登り屋上へ繋がる重い扉を開ける。すると先程までの薄暗さは微塵も感じられない強い日射しが待ち受けていた。生温い風に乗せてつぅんと煙草の匂いが漂う。床に捨てられたそれを先程まで葺かしていたであろう不良少年、もとい獄寺はベンチにどっかり座っていて、私の呼び掛けに振り向き憎たらしくも「遅い」と不満を漏らした。
そう言いながら自分は持参した焼そばパンを既に頬張っているとはどういう事か。
「ごめんごめん。購買が混んでて」
片手に弁当を、もう片手にいちご牛乳を手に、気のない謝罪を漏らして獄寺の隣へと腰を下ろす。
時折グラウンドから届く笑い声以外、この空間を遮断するものは何もなかった。それもその筈で普段屋上には鍵が掛かっているのが当然であり、それを覆しそれこそ当然の様に昼食を取っている二人が此処にいる所以は、彼女が職権濫用をものともしない女子学級委員長であるからだ。
「お前購買好きだな」
「私が用あるのは自販機だけどね」
いちご牛乳の小さなパックに付属のストローを差し込む。獄寺は毎日見るその動作を馬鹿にしたように「よく毎日飽きねえよな」と言った。これを買う為自販機のある、人だかりの異常な購買横まで行くのがどれ程大変な事か奴には分かるまい。
「美味しいんだもん。飲む?」
「ん。サンキュ」
飲みかけのそれを、珍しく乗り気の獄寺に手渡す。飲めば理解するだろう。このいちごと牛乳の絶妙な黄金比の素晴らしさを!
いつの間にか睨むように獄寺の反応を見守っていたらしい私に、視線が向けられた本人は嫌そう……でなく少し飲み辛そうな表情をしながら、ようやくストローに口をつけた。
「ねっ!美味しいでしょ?……獄寺?」
にっこーと肯定の言葉が帰ってくると何の疑問も持たない私に帰って来たのは、虚しくもただの静寂だった。
「ちょ……え、無視?」
二度目の呼び掛けにも反応を示さない獄寺を前に呆然と固まりついた私は、べこっと何かが鈍く唸る音で復活した。
「うん。美味かった」
「……ああぁあっ!」
やっと口を開いた獄寺は、凹んだ紙パックをビニール袋に放り込んだ。美味かったって……こいつ、全部飲みやがった!
「私まだちょっとしか飲んでないのに……!」
午後の動力源を返せと主張するが、手遅れなものは手遅れらしい。いちご牛乳なくして私はあと二時間を乗り越えられるだろうか。あ、6限目体育じゃん。
がっくり肩を落とした私を慰めるでもなく謝るでもなく、隣からは深く息の吐かれる音が聞こえた。
「何さ何さ!大体獄寺が全部……ッむ」
呆れたような獄寺の声が聞こえて、抗議してやろうと俯かせていた顔をその標的に向けたと同時、やむを得ず言葉が途切れたのは、唇が何かで塞がれてしまったから。
「ちょっ……獄!?」
それは獄寺の唇で、普段は苦い煙草味であろうそれも今は甘ったるいいちご牛乳の味が占拠していた(ど……ドアップですよー)。
どぎまぎと心臓が早鐘を打つ。恋人同士という関係であっても普段ふざけあってばかりの仲なので、実の所こういうシチュエーションには不慣れだったりする。少しして離れた獄寺に、真っ先に飛び出すのはやはり抗議の声だ。
「ななな何して……っ!」
「しただろ、いちご牛乳の味」
呂律が回らず焦る私と逆に、獄寺は勝ち誇ったように笑んだ。悔しくもこの瞬間自分の身体が熱を持った事に気付いた私の表情は、正に敗者のそれだった。
「……ッ獄寺のばーか!」
いつからそんなませた事が出来る様になったんだ!とこっ恥ずかしい台詞を私が言い終えるのと、学校中に響き渡る盛大な予鈴が聞こえたのはほとんど同時だった。
いちご牛乳
鐘の音を耳にすっと冷静さを取り戻した私がまだ開かれてもいない弁当箱の存在を思い出したのと、獄寺が午後の授業をサボると言い出したのとが同時刻だったのは言うまでもない。
end.
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1000打リク。しろへ捧げます。
執筆2008.01.29.tue
加筆2009.03.07.sat
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