:家庭教師ヒットマンREBORN!
:獄寺隼人


ぱしんっ!
小気味良い音が朝の住宅街に響いた。挨拶も何もかも差し置いて彼氏の獄寺隼人をその手でぶっ叩いた私の行動には、勿論の事深い深い理由があった。

「獄寺の馬鹿!」
「はぁ?」

隣を歩く沢田君と山本君が全く意味が分からないと言う様に驚くのは仕方がない。けれど言われた張本人である獄寺までも同様の反応をして、素っ頓狂な声を上げた事は私に大きなイラつきをもたらした。

「とぼけたって無駄よ……私見ちゃったんだから。昨日獄寺が綺麗な外人と二人でいる、浮気現場を!」
「な……っ!浮気!?」

目を見開いて明らかに焦っている獄寺と、浮気なんてしたのという表情のツナと山本。
やっぱり。その反応はそうなんだ!私の言葉を否定しようとした獄寺の台詞を遮って、私は目一杯「獄寺の馬鹿!」と叫んだ。

「他に好きな人が出来たなら言ってくれれば良いのに、浮気するなんてサイテー!」
「だから、」
「よく見てないけど、ゴーグル外したらすっごく綺麗な人だったし!大体何よ!甘えてるつもりか知らないけど、女の人に肩組んで引っ張ってもらうなんて、それでも男なの!?」
「「「え?」」」

私の言葉に三人の声が綺麗にハモる。何なのと訝しげに見ていると、意外にも口を開いたのは沢田君だった。

「あの、依泉ちゃん。もしかしてそれって……」
「良いの沢田君、同情しないで。私にだってダメツナに同情なんてされたくないってプライドがあるの」
「違うっつーか酷っ!」

沢田君がショックを受けた様に肩を落とす。違うって、何が違うのだろうか。

「とにかく私達はもう終わりなのっ!さよなら獄寺!」
「あ!おい依泉!」



馬鹿馬鹿馬鹿、獄寺のばかーっ!

完全にキレた私は時折通り過ぎる人達のぎょっとしたような目など気にせず幼稚園児のようにわんわん泣きながら道を進んでいた。もう授業が始まる頃。けれど私は学校に行く気も、まして家に帰る気にもなれず双方とは全く違う場所に来ていた。

「何よ、浮気って。別れるみたいな事言っても何も言って来ないし!」

結局私とは遊びだったって事なんだ。どうでも良かったんだ。そりゃあ、昨日の人みたいに色気も何もないけど……さぁ。

「追い掛けてきてくれたって良いじゃん」

あぁあ、駄目だ。怒りを通り越してまた悲しくなってきた。だってさ、まるでずっと私一人好きだったみたいじゃない?考えたら今まで獄寺に好きって言われた事、ないかも。

「……ん?」

てっきり気分は落ちる所まで落ちてしまったと思っていたけれど、まだ下はあったらしい。ふと顔を上げた先にはあろう事か昨日の女の人が立っていて、思わず足が止まってしまった。しかもそこは正に獄寺の住む家の前。幾らなんでも近所迷惑を考えろと言いたくなる程インターホンを執拗に押し続けるその女性に、気付けば私は話し掛けていた。

「あのっ!」

ゆっくりと振り向いた女性に、今更ながら少し後悔した。圧倒された私は先ず第一に、事実どうでも良い筈の近所迷惑を説いてしまった。留守ではないかと知らない風を装いながら注意を促せば、その人は「そうかもしれないわね」と今気付いた様に呟く。
いる訳がない。こんな時間帯に学校外を彷徨く人なんて、私みたいにサボりでないならそれこそおかしい。

「あの子ったら照れ屋だから。いつもは私がノブを溶かして……」

目の前の人は私に言う訳でもなくブツブツと、多分獄寺の事を言っているであろう話題を口ずさんでいた。のだけれど何か有り得ない台詞が混じって聞こえた様な気がして私は、ん?と頭を悩ませてしまった。
ロングヘアーの女の人は小さく溜め息を吐いて、その場を後にしようと私に背を向けた。我に返った私は、ようやく昨日から気になっていた事を口にする事ができた。

「ま……待って!あの……獄寺、隼人君とは、どういう関係ですか?」

その質問の中にあった名前に反応したのか、隼人?と呟きながら女の人がもう一度私の方を見た。
「隼人を知ってるの?」と聞き返すその言葉に胸の奥がチクリと痛んむ。私だって名前で呼んだ事なんて無いのに…!

「嫌です……獄寺は、私の彼氏なんです。取らないで下さい!」

さっきの自分からさよならしたのが嘘のように、私はその目に涙を溜めながら必死に訴えていた。獄寺にとってただの迷惑にしかならないかもしれないのに。
私、かっこわるい。

「そう、貴女……」

何かを悟ったように呟いたその人は私の肩に柔らかく手を置いて、取ったりしないとさっきの言葉を否定した。驚き反射的に顔を上げた私を見て、目の前の表情は一層和らいだ。

「私はビアンキ」
「ビアンキさん?えっと……依泉です」

どうしてこのタイミングで自己紹介なんてするのか。動揺する私をたしなめる様にビアンキと名乗る女性はゆっくりと口を開いた。

「安心して依泉。私は隼人の……」
「依泉!」

ビアンキさんの言葉を遮って私の名前を呼ぶのは、いつもと変わらない。獄寺の声。

「依泉!やっと見つけた……」
「獄寺!?なんで……」

言葉から察するにどうやら獄寺はずっと私を探していたようだ。ビアンキさんでなく、私を。それを自覚した途端目の奥がじぃんと熱くなり、今にも泣いてしまいそうになる。

「悪かった!昨日の奴の事はちゃんと説明…………姉貴!?」

……姉貴?

「え……姉貴ってどういう……」
「ゲフッ!な、なんで姉貴が依泉と……」

バターンッ
私の言葉を遮ったかと思うと、当の本人獄寺は顔を真っ青にして、びたんと地面に勢い良く倒れ込んだ。

「ちょ……っ獄寺!大丈夫?」
「まただわ……昔はこんな身体の弱い子じゃなかったのに」

獄寺って身体弱かったっけ……?と言葉の節々に疑問を抱く私は、魘される獄寺を運ばんとするビアンキさんの姿に、昨日目の当たりにした光景を重ねる事で頭上のクエスチョンマークを一層増やしたのだった。


カンチガイ

彼らが共通の日本人にはない顔立ちをしている事や、獄寺を担ぐビアンキさんの姿に感じたデジャ・ヴ。はたまた姉貴発言。
その全てが繋がり依泉の誤解が解けるまで、あと少し。


執筆2008.02.01.fri
加筆2009.03.10.tue

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