:家庭教師ヒットマンREBORN!
:雲雀恭弥


年明けから1月と14日。
学校中がひとつの匂いに占拠され、大抵の女子生徒が校則違反物を持ち込む。彼からすればそれはバレンタインデーと呼ばれる反風紀組織の日だった。

「冗談じゃない」

後ろに置かれた校内全ての空気清浄器達がフルで稼働する中、ギシと皮張りのオフィスチェアが小さな悲鳴を上げた。そこに我が物顔で座るのは、この学校を陰で支配する風紀委員長の雲雀恭弥だった。彼は応接室にまで入り込んだカカオ臭に鋭く反応し、先刻の言葉を表現するようにしかめっ面をした。
ただでさえ僕はあの甘ったるい匂いが嫌いだと云うのに。

例年の雲雀ならば副委員長が職務を見つけない限り、この日だけはなるべくの事屋上へ行き仕事を放棄していた。それほどにこの匂いを毛嫌いしているのだ。
では、今年は何故この応接室でむくれているのか?

「雲雀君っハッピーバレンタイン!」

バタンッと扉が無遠慮に開かれた。入ってきたのは例の匂いと何とも楽しそうに笑みを浮かべる女子生徒で、彼女は並盛最強不良集団の長である雲雀に対して何の恐れも抱く事なく話し掛ける、一言で言えば奇抜な少女だった。

「……おはよう」

にこにこと笑顔の絶えない、彼女こそ風紀委員の弱味だった。不覚にも最強の不良雲雀は、この能天気な平凡少女を恋愛対象として見てしまっている。

「何の用だい?」
「あぁ!んーと……」

自覚すればどうあっても気になるのは、彼女も持ってきているであろうチョコレートの行く末だった。誰か他の奴が受け取るのを見つけた暁には、僕の出しうる限りの力でぐちゃぐちゃに咬み殺してやろう。
一人の女を想ってそう考えるなんて事は、生まれて初めてな程に新鮮な気持ちだった。柄にもない。

「はい。私からバレンタイン!」
「……なにこれ」

ガサゴソと鞄を探る少女は目当ての物を見つけ、引きずり出したその手を雲雀へ向ける。可愛らしくラッピングされたそれを、雲雀は少しだけ目を見開いて見つめた。

「なにって、勿論チョコレートだよ?」
「そんな事分かってるよ」
「あ!甘いチョコは苦手って聞いたから味はビターだよ」

天の邪鬼で素っ気ない雲雀の言葉の意図は、一般人には中々掴めない。
違う。そうじゃないよ。僕が知りたいのは、

「義理チョコって奴かい?」

これが本命か、そうじゃないのかって事だ。

「え……それ聞くの?直球で?」
「当然でしょ」

先程までの笑顔が一変。突然そわそわしだした少女は、ラッピングのリボンをくるんくるんと弄り出す。どうやら好きな奴は確実にいるようだ。

「ほ…………本命です」

どもりながらの告白に少しだけ頬の筋肉が緩むのを感じながら、僕はありがとうと言ってその包みを受け取る。

「……って!義理だったらもらってくれなかったの!?」
「当然でしょ」
「また……!」

顔を林檎のように赤く染めた少女に少し意地悪をしたくなる。持っていた箱を机の隅にやって、少し低めの視線と目をあわせる。

「ねぇ、君が好きな奴は誰?」


St.Valentine's Day

本当はひとつ間違っていた。

甘いチョコレートが苦手と君は言ったけれど、本来僕は味に関係なくチョコレートと云うもの自体が嫌いだった。
それを言わなかったのは、彼女が僕を気遣って作ってくれたと言ったから。

それでも彼女のくれたものなら、どれほど甘いチョコレートだろうとひとつ残らず食べてみせよう。
そう思う僕は、どれ程君に溺れていただろうか。


執筆2008.02.14.thu
加筆2009.03.11.wed

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