:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)


「綱吉、私を殺してよ」

依泉のその言葉は決してお願いなんて生易しいものでなく、命令と云う名の強制だった。
嗚呼、どうして。
相手を狙い、引き金を引けばいとも簡単に命を奪えてしまう黒い塊。今この瞬間オレの手には此方を見据える@@漆瀬に向けて、その残酷な凶器が握られている。彼女の手中にも同一のものがあるというのに、それは撃たれる気配など無く銃口は地面を狙っていた。

「どうして……っ!」

オレの手も、声も、頭の天辺から爪先まで身体全体が情けない程恐怖で震えている。依泉は澄ました顔で「駄目じゃない」とオレの名前を呼ぶ。

「ファミリーに裏切り者がいたら、始末もしっかりしなきゃ。ボスの勤めでしょ?」
「依泉……!」

背筋に嫌な汗が伝い、たった今知ってしまった事実が理解される事なくオレの思考をぐるぐると徘徊して回る。依泉がミルフィオーレのスパイ?敵だった?本当に?………どうして?
一向に撃つ気配の無いオレを見て、依泉は機嫌を損ねたように顔をしかめた。

「この為にわざわざボンゴレに入り込んだのに……ねえ、殺す気無いの?」
「……ないよ。裏切り者でも、君はオレの仲間だから」

ごくりと口内に溜まった唾液を飲み込む。仲間を殺すなんてできない、そう言えば依泉はまるで興味がないように「あっそ」と適当な言葉を返した。

「じゃあ、」

カツン、カツン。ヒールが床を踏みつける数回の音と聞き慣れた銃の弾丸補充の微かな音が重なる。
ガチャッと怪しい音が響き銃はスタンバイOKの意味を示した。

「代わりに死んでもらえる?」

中学の頃からリボーンによく向けられていたのと同じように、重い銃口が向けられる。けれどそれは全く別の緊張感を漂わせていて、撃たれようものならそれこそ重態は免れない。

「いや……だ」

その時幸か不幸か気付いたのは、震えているのは自分だけじゃないって事。余裕ぶってた筈の依泉の足が、震えてる。

「……あのさぁ綱吉、いつまでもそんな甘い考えじゃ」
「ボンゴレにおいでよ!」
「……え?」

この際形振り構ってられない。不要な銃から手を離し、目を見開く依泉の顔を見つめる。

「戻っておいで。また皆で笑おうよ?」

ゆっくり、ゆっくりと重い足を前へ進ませ、少しずつ遠い依泉に近付いていく。

「そしたら誰も死なないで済むし、オレは君と友達でいたい!」
「!……綱吉」

手ぶらになった手のひらを彼女に向けて、懇願する。どうかこの手を取って。
―――戻ってきて。

「馬鹿だな……そしたら友達じゃなくて私は部下でしょ?」

オレは少し安堵した。彼女が微笑んだから。さっきまでの冷たいものじゃなくて、暖かく優しい笑顔。

「でも……」
「それにどっち側に付こうが、私に裏切り者のレッテルは外れない。けどね……」


カチャ


「なに、して……」

短く鉛の様な、鈍い音がした。依泉はその手の銃で頭を狙う。向けた先はオレじゃなく、自分の頭。
混乱した思考を放って、オレの足は依泉との距離を急速に縮めようとしていた。ただただ彼女の握る銃を取ろうと手を伸ばす。

「ごめんね綱吉。私にとって、白蘭の言葉は絶対なんだよ」

そう言った彼女は、オレの言葉に耳を傾けてはくれない。止めに入るオレを横目に、その手に力が篭るのが分かった。

「やめ……っ」

ドンッッ

もう少し。あともう少しという所で、トリガーは引かれてしまった。
衝撃で依泉の手を離れた銃は宙を舞い、依泉の身体も飛ぶようにして地面へと向かう。
そんな中オレが出来たのは、倒れていく彼女の身体を受け止める事だけだった。


最期に残すは呪縛の呪い


執筆2008.05.02.fri
加筆2009.03.28.sat

1 / 39 | |

|


OOPARTS