:家庭教師ヒットマンREBORN!
:山本武
昼休み。それは校内にいる人間の一番の休息時間であり、私だっていつもは友達とのんびり昼食をとっている時間なのだ。それなのに何故か私は一人、重い重いストーブを片付けるハメになっていた。
確かにバレー部で期待の1年と呼ばれる私は体力やらに自信はあるが、流石にこれはキツ過ぎる。
すると現れたのはクラスメイトの山本君。彼は笑顔で私が頼まれた筈の作業を代わってくれて、ああこれが山本君の好かれる理由なんだろうなぁ。…………って私いつの間にか手ぶらじゃん!
「これ、どこに持ってくんだ?」
「1階の倉庫」
「え!雨澪だけで運ぶ気だったのか?」
「うん?」
山本君が大袈裟に目を見開く。ちなみにと言うとおかしいかもしれないが、現在地は4階の階段前だ。1階までの長い階段を降り続ける中「あんまり無理すんなよ?」と心配してくれる山本君に、不覚にも心臓がどきりとその心拍数を上げる。そんな時だった。
「女子に力仕事はキツイだろ?」
「……」
彼にとっては何気なく……いや、寧ろ善意で言っただろう言葉は、普通女子ならその扱いを喜ぶものかもしれない。けれどお門違いも良いところで、私の脳はそれを全く別の意味に変換した。
その証拠にプツン、と私の中で何かが切れる。多分それはバレー部としてのプライドみたいなものだ。そして一言。
「勝負よ、山本君!」
私が馬鹿な台詞を吐いて5分後。用事を済ませた私と山本君は運動場に移動していた。周りには何故か沢山の野次馬。
「山本君。運動部員、そして女子代表として、この侮辱は晴らさせて頂くから!」
手伝ってくれた事は感謝するけど、それとこれとは別物で。グラウンドの真ん中で私はビシッと山本君を指さした。今こそ『女子=か弱い』というレッテルを私自らが撤回する時なのだ!
山本君はというと困ったように眉をつり下げ、貶した訳じゃなかったんだけどなー。と苦笑した。
「まぁとりあえず、何すんだ?」
「そうだなぁ……」
私はバレーボール部で、山本君は野球部員だ。共通点は球技という事。どっちかのスポーツじゃ不公平だし、使っているボールのサイズもそれぞれ違う。
そうなると公平な勝負が出来るのは……決めた。
「勝負方法は100m走。先にゴールした方が勝ちね」
適当に指名した野次馬Aの「よーい、ドン!」で勝負は始まり、そして一瞬にして勝敗は決まったのだった。
「はぁ、はぁ……っ」
ゴールの白線の上に立つ私は、膝に置いた手で身体を支え、荒くなった息を整えていた。
勝敗は、誰が見ても明らかだった。
スタートを切った瞬間、同時に走り出した山本君は全速力の私を飄々と抜かして大差を付けてゴールラインを抜けた。
山本君が速い事くらい知っていた。けれど私だって足には自信があったのだ。山本君相手だろうと対等に戦えると思ってた。なのに、走り終わっても涼しげな表情でいる山本君に、私は対等どころかボロ負けしてしまった。
これが男女の差と云う事なのか?
「やっぱ雨澪って速ぇのな」
「山本君余裕だったじゃん。謙遜しないで良いよ」
「はは!拗ねてんのか?」
本当に速いと思ってるぜ?と言って笑顔でタオルを渡してくれた山本君に、私はぼそりとお礼を言う。その姿は正に敗戦に悔しがる聞き分けない子供のよう。山本君の言った台詞の何処かに「女子にしては」なんてワードが隠されている気がして怖い。悔しい。
「それに雨澪の頑張り屋なとこ、俺は結構好きだぜ?」
歯を食い縛る私は一つの結論に辿り着く。呼吸も整っている事を確認し、俯けていた顔を上げた。
余談だが、私は何かに熱中すると周りが見えなくなる悪癖があるらしい。そう、ちょうど今のように。
「俺は雨澪の事……」
「決めた!私バレー部やめる!」
「………は?」
私の言葉が聞こえたのか、勝負後教室に帰ろうとしていた見物人達がピタリと歩を止めた。山本君も驚いている様子。
退部宣言は不味かったかもしれない。そう思ったものの引く訳にはいかない。これも目標の為なんだから!そう、私はバレー部を退部して……
「陸上部に入る!」
そしてもっと速くなって、山本君を絶対抜いてみせる。それがたった今からの私の目標だ。
今度こそ勝ってみせる!そう意気込んだ私の前で珍しく山本君が苦笑いをした理由を、私はずっと後に知る事となる。
「待っていなさい山本武!」
直線少女!
「山本ー。あの子また来てたぞ」
そう言って比較的山本と仲の良い野球部員Bが持ってきたのはここ最近よく見る手紙。雨澪の書いた果たし状だった。
「ん。サンキュー」
受け取った山本は今しがた準備運動を終えたらしく、鼻歌混じりにボールを取りに行く最中だった。
練習中のようだからと他の部員を通して山本にそれを渡す考慮は素晴らしいが、出来る事なら他の部員の迷惑も考えて欲しいものだ。只でさえこの1月で既に3度は果たし合いが繰り返されているというのに。
そう考えて部員Bは「しつこい」という言葉を交えて彼女の事を話題にしてみるが、ボールを手にした山本はニカッと爽やかスマイルを繰り出した。
「そうか?面白いじゃねーか!」
約1ヵ月後の野球部での事だ。
end.
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告白のタイミングが可笑しい山本氏。
執筆2008.05.10.sat
加筆2009.03.28.sat
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