:家庭教師ヒットマンREBORN!
:雲雀→夢主→綱吉


「聞いてよ依泉!オレ、京子ちゃんと付き合う事になったんだ!」

息を切らして走ってきたツナの言葉に私の頭の中は真っ白になって、一瞬その意味を理解する事すらも儘ならなかった。
ようやく弾き出した答えに、へぇ、京子もツナを好きになったんだ。なんて他人事のように考えが浮かぶ。

幼馴染みであるツナとは幼い頃からいつも一緒にいて、よく彼をいじめっ子から守った記憶がある。
けれどそれは遠い過去の思い出と云うやつで、私の感情は幼馴染みなんて線を越えて、ツナを好きになってしまっていた。中学生になった彼が自分の親友に想いを馳せていても、それは変わる事などなく。

「依泉?」

誰よりその恋を応援していた私がノーリアクションな事を心配したのか、ツナがさっきまでと一変した不安そうな声で私の名前を呼ぶ。いけない、笑わなきゃ。
それにしたって私は京子と違って、ツナを不安にさせる事しかできないのかなぁ。さっきまでツナが駆け寄って来てくれただけで舞い上がってた私が甚だ可笑しくて仕方ない。

「良かったじゃない、ツナ!」

流石、私がキューピッド役しただけの事はあるね!と多少無理を踏まえてふざけてみる。ツナの肩を叩いた手に、渾身の力を込めたのは虚しい私の抵抗だった。

「いてっ!何、どうしたの依泉?」

何が?とさも何も無かったように振る舞う私に呆然とした表情のツナ。平均より遥かに弱い私の力じゃ、この靄がかった気持ちを晴らす手助けにすらならない。か弱い、なんて嬉しくもなんともない。
好きな人に守ってもらえないならば。

「でも本当、依泉のお陰だよ。ありがとう!」

ツナは照れたように、でも幸せそうに、再び屈託のない笑顔を向けてくる。そんなお礼なんて聞きたくなかった。
どうしてツナは私を選んでくれなかったのか。どうしてその相手は私の親友なのか。そんな女々しい考えばかりが浮かんでは消え、私に総攻撃を仕掛けんとする。頭のズキズキ。胸もキリキリ。私ってば醜いなぁ。
私と京子を競べられて勝てるものが無いなんて分かってる。けどだからこそ、この気持ちだけは強く在りたかったのに。
どうしてかツナは私の気持ちに気付く事すらなく京子を選んだ。理由が分からない訳じゃない。ずっと彼を応援してきたのだから。ツナは私を“幼馴染み”としての認識しかしてくれていなかった。そんな私が結ばれるなんて最初から有り得ない事だったのだ。

「……っ」

目頭が熱くなってきて、反射的に私は下を向く。そして見せる訳にいかない涙が流れだす前に精一杯の笑顔でツナを見た。

「おめでとう、ツナ!」

そう言って私はツナが呼ぶ声を背中に受けながら、一度も振り返る事なく走った。後から後から堪えてた涙が一気に溢れ出る。
もしも私がもう少し可愛ければ、もしもツナの幼馴染みが私じゃなく京子だったなら、何か結果は変わったろうか?どっちにしろ、私に勝ち目なんてないんだろうけど。私が不幸なんじゃなく、ツナにとっての京子が特別だったのであって。

(枯れる程まで泣いてしまおう。)

せっかく久々に流れた涙だ。案外忘れられるかも知れないじゃない。



なんて、長年の恋心は、そんな都合良く人を忘れさせてはくれなかった。

「はぁ……明日からどうしようかなぁ」
「ねぇ、君」

ようやく涙が止まった頃にはあれから大分時間が経っていたらしく、空はもう陽が暮れ始めていた。

「下校時刻はとっくに過ぎてるよ」

涙を拭って教室に置き忘れた鞄を取りに廊下をとぼとぼと歩いていると、不運な事に人に出会ってしまった。それも普通の生徒じゃない。

「雲雀……さん」
「君は、」

雲雀さんは私の顔を見ると、一瞬驚いたように少しだけ目を開いた。

「……泣いてるの?」

き、気付かれた!放課後一人で泣いてたなんて、私どれだけ情けないの!今日は絶対、厄日だ。

「な、に言ってるんですか。どうして私が泣くなんて事……っひ!」

見苦しい言い訳を頭の中で必死に考えていると、突然雲雀さんの右手が伸びてきた。恐怖から思わずキツく目を閉じれば次の瞬間殴られる訳でもなく、触れた大きな指はスッと目元に溜まった涙を拐っていった。
思わぬ出来事に目を開くと、そこには此方をじっと見つめる雲雀さんの姿。

「え……?雲雀さ、」
「僕の元においでよ」

噂に聞く風紀委員長としての彼はそこになくて、私を想って出された声が妙に心地良い。差し出された手のひらにもう恐怖なんて微塵もない。ふと覗いた雲雀さんの表情は真剣そのものだったから。

「僕なら、君を泣かせたりなんてしない」

あぁ……どうしてだろう?雲雀さんは何でもお見通しだ。

「……ほんと、に?」

微かに震える声でそう言うと、彼は普段からは想像も付かないような柔らかな微笑を見せた。その優しさに私の涙腺はもう一度崩れてしまった。

「雲雀……さん。私は、」


縋ったその手は……

ごめんなさい。
ごめんなさい雲雀さん。

私は今、貴方の優しさを利用しました。


執筆2008.05.25.sun
加筆2009.05.24.sun

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