:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)


「ねぇ、綱吉」

仕事が忙しいのはいつもの事、それはボスなんだから仕方ない。しかし普段なら私が来た時位は手を止めてくれる。心配しても大丈夫だよと笑って迎えて、ちょうど今休憩しようと思ってたなんて嘘ばっかりだ。机に山積みにされた多くの書類が手をつけられていない事くらい、一目見れば誰にだって分かる。けどその優しさが綱吉らしくて良いだなんて、どうして私は浮かれてしまっていたのか。
近頃の綱吉は様子がおかしい。
私の来訪時も仕事に追われていて、仕方ないなぁと眺めていた背中は最近じゃ当たり前。話し掛けても上の空。少しくらい顔を上げて、会話をしてくれても良いのになんて、所詮高望みでしかなかったのだ。彼は最近、私に目を向ける事すらしてくれない。

「……ねぇ、どうして?」

もう暫くその声を聞いてない。
暫く笑顔を見てない。
暫く横顔や後ろ姿しか見てない。
暫く顔も見てない。

さみしい……なぁ。

そんな日を繰り返す内、遂に私は自分から会いにいく事をやめた。こんな事になる前にちゃんと山本さんにでも聞いておけば良かったなんて、後に残るは後悔ばかり。ランボ君また泣いてないかな?イーピンちゃんはバイト中かな?綱吉体調崩したりしないかな?
あの大きな邸も暫く見ないけれど、一人でいたら彼らの事が気になって仕方ない。それほど大切だなんてとっくに分かりきっていた事だ。何かが切れたように、次の日私は少し振りにきちんと化粧や身形を気にして外に出た。
会いに行こう。皆に。もしかしたら綱吉の仕事も大分落ち着いてるかもしれない。

久々に足を踏み入れたボンゴレ邸は変わらず綺麗で、しかしどこか活気が戻っているようにも見えた。それならきっと綱吉も……なんて甘い考えかもしれないけれど。

「依泉!?」

門前で一人考えていれば、突然名前を呼ばれ見れば大層驚いた様子の獄寺さんの姿が目に映った。

「あ、お久し振りです獄寺さん」
「お久し振り、じゃねぇよ!」

何でここにいるんだ。なんて随分と今更な事を聞くんですね。私が来ちゃいけませんか?
ハッとしたように顔を青くさせた獄寺さんは、今日はやけに余裕がない。まさか何も聞いてないのか?なんて要領を得ない質問に疑問符を飛ばしていれば、突然私は進行方向を逆転させられ、外へ出るようにグイグイと押し出された。

「ちょ、押さないで下さいよ!何なんですか?」
「良いから早く出て行きやがれ!良いか、お前は今日ここに来なかったんだ」
「は?」

またもよく分からない言葉に頭を悩ませる。何をそんなに焦っているんですか。私は綱吉に用があるのに!

「良いから、もう来んな!」
「どうしてですか、私は綱吉の……」


「あははっ」


あれ、今綱吉の声が聞こえたような?どうやら私の耳は正確に彼の声を記憶しているらしい。ぎゃあぎゃあと騒いでいた私達のやり取りの中では、そんな些細な笑い声など聞こえる方が奇跡的だったのに。

「…………うそ」

振り向いた私の視線は一点に釘付けにされてしまう。身体が機能を停止したように動かない。隣では居心地の悪そうに獄寺さんが舌打ちを漏らした。
信じられなかった。綱吉が楽しそうに話している女性を、私は知らない。彼の隣にいるのは京子さんやハルさんでも、当然ながら私でもない。

「あの方は同盟ファミリーの令嬢で、10代目の婚約者だ」

混乱している私にそれを教えてくれたのは獄寺さん。しかし私の頭に入ってきたのは「綱吉の婚約者」という信じ難いワードだけ。何それ、どうして、いつから婚約者なんて。そんなの聞いてないよ。

「……あ、そっか」

そういう事だったんだ。婚約者がいるなんて、そんなの言う訳ないじゃない。他より少し皆とも仲が良かっただけで、本来の私の位置を忘れた訳ではあるまい。綱吉の行動は全く当然だったんだ。飽きられれば終わり。そう、私は捨てられたんだ。それなら最近の事にだって全部説明がつく。
だって所詮私も、ただの愛人の一人に過ぎなかったんだから。

「あはは……馬鹿みたい。いつの間に私は綱吉の恋人になった気でいたの」
「…………」

ただのボス様の遊び相手だった筈でしょう、私は。深入りなんて本気になるなんて馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい。

「ありがとうございます、獄寺さん」

きっとこの人は私にこれを見せない為に追い出そうとしたんだろう。許可もしてないのに涙腺は弱まり、私の瞳からはぽろぽろと涙が零れ地面に染みを作る。
あぁ、だからほら、馬鹿みたいじゃない。元から叶わない相手だったなんて知っていたのに、どうして私はその優しさに魅入ってしまったの?

「……っ綱吉、」



「依泉?」

今依泉の声に呼ばれたような…なんて気のせいだろうか。
どうかしましたか?と突然辺りを見渡したオレを「婚約者」が不思議そうに見つめる。こんなにもオレを慕ってくれている女性に、政略といえどどうしてオレは心を向けようとしないのか。でも慕ってくれるのはリボーンの連れてきた愛人達だってそうだったし、皆美人だったけど一番気兼ねなく話せてオレの好みにあっていたのは依泉……って何考えてんだオレ!
とにかく、依泉の事は間違いなく気のせいだ。だって彼女がここいる筈なんてない。

(オレってこんな執着心強かったんだ。)

自分で突き放しておいて不甲斐ない。
何でもないと自分に言い聞かせるようにして、オレは再び笑顔を貼り付ける。そうするしかないのだ。そうする事でしか今のオレには大切な人達を守る事ができないんだから。オレはなんて無力なボスだろう。


いつか本気の恋をして

なぁ依泉。複数人いる愛人の中でお前だけにはどうしても、最後まで10代目が婚約者の事を言い出せなかったのはどうしてだと思う?
隣で嗚咽を漏らす依泉を盗み見て、ボンゴレの右腕は気まずそうに顔を歪めた。


執筆2008.07.10.thu
加筆2009.05.24.sun

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