:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー


「Merry christmas,Allen!」


任務から帰還した次の日。ふらりと黒の教団内にある自室を出るが、朝というのに此処は相変わらず薄暗い。しかし人の空気は温かいから、さして苦痛など感じない。
廊下を歩いていると背中が呼び声を拾い、振り向けば満面の笑みと共に駆け寄ってきた依泉は僕にそう言った。彼女の母語は英語でないと言うのに、その発音の美しいこと。

「お早う依泉。Merry christmas.」

ああ、今日はクリスマスかと頭の片隅で考えてから、挨拶と共に言葉を返す。
依泉はそれで満足したらしく、これ以上が無いというくらいだった笑顔が一層磨きを増した。そしてそのままの笑顔で手に持っていた小さな箱を僕の目の前に差し出す。

「はいっ私からクリスマスプレゼント!」

受け取ろうとした右手は途中で静止し不自然なポージングが出来上がる。依泉は不思議そうに首を傾げて、焦る僕の顔色を伺っている。無言でいたのが悪かったのか、目の前の少女の顔からはみるみる笑顔が消えていき、見事勘違いをされてしまった。

「もしかして……要らない?ショートケーキ好きじゃなかった?」
「そうじゃなくて!その、僕クリスマスの事知らなくてお返しが……」

語尾を濁らせて言う僕に、依泉は一瞬呆けた表情を見せてなんだ、そっかと繰り返していた。

「いいの。私が好きで皆に配ってるだけだから、ねっ?」

そう言われてしまえば申し訳なくとも、受け取らない訳にはいくまい。ありがとうと言ったら依泉は嬉しそうにまた笑って、それでねと付け加えた。

「これも、受け取ってくれるかなぁ?」

随分と遠慮がちに差し出されたのは、さっきより小さな小箱だった。

「これは?」
「……リングネックレス」
「……へ?」
「たっ、誕生日プレゼント!」

叫ぶ様に言われた返事に驚く僕に、依泉は真面目な顔つきで話し出した。

「あのね、リングの内側に“hope”って文字を彫ってもらったの。アレンの健康とか任務の無事とか世界平和とか、此処にいる間少しでも良い思い出になれば良いなって思っての希望なの!」

ちょっと物騒な気もするけど、と苦笑した依泉は、なかなか状況についていけない頭をフル活動させる僕の無反応さに、再び有りもしない勘違いをする。センス悪かった?などと不安気に聞いてくるのは依泉の悪い癖だ。
僕は安心させる様にその手中から小箱を受け取って、もう一度丁寧にお礼を言った。

「誕生日おめでとう!」

ようやく笑顔を取り戻した依泉の言葉に、僕は込み上げてくる気持ちに自然と頬が緩む。
何時ぶりだろうか。誕生日を祝う言葉をもらったのは。確か去年までは師匠と2人だったから誕生日の事なんて忘れていて、父親には拾われた日を誕生日代わりに祝ってもらっていたんだったか。

「……ありがとう」
「うん?」
「覚えていてくれて」
「そんなの、」

当然だよ?と言った依泉に、久々の言葉だったからと伝えれば、彼女は驚いた様に目を丸くした。

「じゃ、来年も再来年も何年先も、ずーっと私がお祝いするね」
「……プロポーズですか?」
「違う!」

即答しなくても良いのに。嬉しさ混じりのただの冗談のつもりだったのに、どういう訳か、次出た残念という言葉が意外にも心に響く。

「からかわなくて宜しい!」
「あははっ」
「やっぱり……!」

少しだけ顔を赤らめた依泉の必死さのおかしい事。自然と出た笑いは決して嫌味なんかじゃない。
それこそ依泉の言ったように、“これから毎年、こんな楽しい日が待っててくれる”。そんな希望が身体中を満たしては小さな幸せを感じさせてくれる。

「楽しみにしてますね、来年も」


お気持ち届けに参ります。

お任せ下さいな!なんて頼りになるのかならないのか、よく分からない返事が帰ってくる。今から楽しみで楽しみで仕方ない。
来年はちゃんとクリスマスプレゼントを用意しておこう、プレゼントは何が良いか、なんて頭の隅で考える僕は我ながら気が早すぎる。それから忘れちゃならないのが依泉の誕生日だ。彼女の誕生日は、あとで科学班の誰かにでも聞いておこう。


執筆2008.12.21.sun
加筆2009.05.16.sat

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