:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


明日は恋人の日、もといバレンタインデー。大好きな綱吉に手作りのチョコレートを渡すんだ!と作り始める時は張り切っていたというのに、暫くすれば私のテンションは急斜面も良いところ、スカイダイビングの如くガタ落ちした。それからも気分は降下を続けて、今に至る。
依泉は今しがた完成したぷすぷすとショートしたように黒い煙を立ち上らせる試作品8号を見て、大きく息を吐き出した。

「また失敗!」

頭を抱えるのは今日だけでもう何度目か。はっきり言って普段から料理をしない依泉だが、それにしても黒煙が出たり、鋼のように固かったり、奇妙な色をしていたりと作ったもの全てが食べ物かどうかも疑わしい何かしらの問題を持っていると云うのも可笑しな話。少なくとも依泉に根本的な家事能力が無い事は明確である。
その上更に悲劇は重なった。材料が底を尽きたのだ。元々このバレンタインの為にかなりのお小遣いを注ぎ込んでいた依泉には、もう買い足すお金すらも残ってはいない。もう作れない。
嗚呼、付き合って初めてのバレンタインなのに……!



「はあ……」

甘い香りが学校中を飛ぶバレンタインデー当日。恋人がいるというのにこの日が来る事に此処まで落ち込んだ時はない。
綱吉とクラスが別な事に初めて感謝しながらも放課後が来てしまった以上、むしろ問題はこれからだ。

「依泉っ帰ろ?」

(来た……!)
扉に一番近い席に座ってゆっくりと帰り支度を始める。そろそろかなと時計を覗いたそのタイミングで、廊下からひょっこり顔を覗かせた綱吉はいつもと変わらず少しだけ罪悪感を抱く。帰り道でもそれは変わらず、いつものように他愛ない会話が繰り広げられた。

「でさ、休み時間の度に山本と獄寺君のまわりにチョコ持った女子が集まってきて、凄いのなんのって!」
「う……うん」

ただし、勿論話題はバレンタインに重点が置かれている。
やっぱり綱吉、期待してるのかなぁ。してるだろうなぁ。友達がモテる二人なんだから、余計に彼女からもらえなかったりしたら焦るよね。思わず一番マシなの持って来ちゃったけど、失敗作なのに渡せる訳ない。どうしよう。
さっきから会話にチョコというワードが出る度に思考は同じところをぐるぐると回り、何も解決しない「どうしよう」と云う言葉が出ては消える。キリがない。

「ま、オレは依泉から貰えればそれで良いんだけどっ!」
「っ!」

言われてしまった。やんわりと微妙に遠回しにだけど、今の発言はチョコの催促と取るべきで。どうしよう。こんなの渡せない。どうしよう!

焦る私の気を察したのか、綱吉が歩調を緩めていった。

「依泉?」
「あ、あのね……」


綱吉の期待の眼差しに堪えきれず、遂に私は恐る恐るだが失敗の事を暴露してしまった。何て言われるだろうかと肩を縮こまらせていた私に、なんと綱吉は何事もないような表情で言うのだ。

「それ……だよね?もらって良い?」

綱吉に気付かれませんように!と念を送りながら隠すように持っていた紙袋に、ぴったりと視線を合わせる綱吉。ああ、気付かれてる。

「え……駄目だめだめ!お腹壊すよ!」

見た目からして失敗していたせいで一つ目以降の試食はしていないけれど、美味しい訳は無いと思う。少なくとも、焦げたような味がしそうな気がする。けれど綱吉は全く信じてないらしく、聞き入れてもらえない。持ってきてしまった事を深く後悔した。

「何で?依泉が作ってくれたものでお腹なんて壊す訳ないだろ」
「!……なっ、」

そんな風に言われてしまえば、必死に隠していたこのチョコレートを渡さない訳にはいかない。美味しくないよと忠告しながらも、おずおずと不器用にラッピングされたそれを手渡す。一目見れば諦めてくれるかも知れないと小さな希望を持って。

「ありがとう!」

ふにゃり。綱吉の表情が綻ぶ。あまりにも嬉しそうに受け取ってくれるものだから、やってしまった。綱吉の「今食べてもいい?」という発言に、二つ返事で了承してしまった。目の前でいそいそとラッピングが解かれていき、本日の悩みの種が匂いだけは立派に甘い香りを放ちながらその姿を現した。
ああでもやっぱり……と止めに入ろうかとした時には遅かった。ぱくっと効果音がつきそうな勢いで幾つかあるうちの一つ、小さな危険物は綱吉の口の中に収まってしまっていた。

「あぁーっ!」

思わず叫んでしまうが、綱吉が失敗作を口にしてしまったこの状況はもう変わりようがない。きっと今に表情が曇って、苦笑しながら無理矢理美味しいって言うんだ。そんなの嫌だ。絶対、いやだ。

「だだ大丈夫?ごめんねっ次はもっと上手く……」
「ん?おいしーよ」

へっと間抜けな声を出して、あっけからんと驚く私。その正面にはぱくぱくとチョコを放り込む勢いで平らげていく綱吉。彼の表情に苦は見えず、本当に美味しいのか笑顔で食べてくれている。
本当に?と聞くと満面の笑みを浮かべて、しっかりと彼は頷いてくれたのだ。
(ああ……だから綱吉大好きっ!)
多少嘘偽りがあったとしても、私としてはこの笑顔が見れただけで天にも昇れてしまいそう。そう思った私はすっかり綱吉に依存してしまっている。


耐えよ!我が愛の試練を

この事が関連しているかどうかは定かではないが、翌日彼は腹痛を訴え学校を欠席したとか。


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10000打フリリク:菜葉様へ!

執筆2009.02.14.sat
加筆2009.05.16.sat

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