:D,Gray-man
:神田ユウ
ほくほくほくほく。両手に数えきれない程たくさんの箱や袋を抱えて、廊下をスキップの要領で軽やかに歩く依泉はすっかりご満悦。
ああ、ホワイトデーって素晴らしい!
そこに彼女にとってはグッドタイミング。彼にとってはバッドタイミングで鉢合わせしてしまったのは珍しく休暇を過ごしていた神田である。
「かっんだ!」
歌うように駆け寄った依泉を、神田はふいと無反応で返す。そんな事も気にせず荷物を落とさぬよう最善の注意を払う少女は、「何か神田は私に用事ある気がするなぁ」と笑顔を絶やさず隣についた。じろり。神田は一瞥して、冷たくあしらう。
「……何がだ」
「……」
「……」
灯りが点々と存在するだけの長い廊下で、人までもが動きを止めてしまってはその瞬間音を発するものはひとつとして消えてしまった。一拍置いてすっかり笑顔の消えてしまった依泉は、今度はむすっと頬を膨らませた。
「あーあっラビとアレンはちゃんと返してくれたのにな!」
可愛いマグカップとクッキー!とホワイトデーを忘れているらしい神田を攻めるように大きく言い触れる。他にもコムイやリーバーも、ジェリーなんていっぱいお菓子作ってくれたのに!
「うるせーよ」
キャンキャン非難をされるのに嫌気がさしたのか、神田は遂に重い口を開いた。
分かっているのだ。今日がホワイトデーと云う可笑しな風習を持つ日な事も。だからと言って自分が律儀にそれに習うなんて、面目など関係なくとも柄じゃないと云う事も。
「ふーんだ。来年のチョコは神田のだけ辛子たっぷりにしてやる!」
分かっていないのは、寧ろその表情を忙しなくころころと変える依泉の方だと神田は内心で毒をついた。正直このテンションは面倒だ。……どうしたものか。
「……ほらよ」
器用にプレゼントの数々を落とす事も無く、言い逃げするようにさっさと踵を返した依泉にシンプルな包装のされた小箱を投げる。街で買ってきたチョコレートだ。
綺麗な放物線を描いて振り向いた依泉の荷物山の頂点に納まったそれを、奴は無駄な瞬きを繰り返しながら唖然と見つめる。いつまでも続くノーリアクションに苛立ちを覚えるのは、短気な神田の方である。
「いらねーなら返せ」
「……有り難く頂戴させて頂きマス」
話はそれだけという事でさっさと食事でも取りに行こうと神田は歩き始めたのだが、
「まま待った神田!」
ストップをかけられてやむを得ず止まる。するとバランスをなんとか保っていた依泉はよたよたと近寄って、へにゃりと無邪気な笑顔をつくった。
「ありがとう!」
ひとつきごのおかえししましょ!
‐‐‐‐‐‐
補足:チョコのお返しにチョコを渡すのは失礼らしいですよ。神田さんはしてらっしゃいましたが。←
執筆2009.02.14.sat
加筆2009.05.16.sat
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