:D,Gray-man
:クロス・マリアン


寒い。あの日も確かこんな曇天の日で、しんしんと雪が降り続いていたのを今でも鮮明に覚えてる。

石造りの大きな墓前には昨日からずっと降り続いた雪が辺りを白一色に染め上げる程に降り積もっていた。適当にそれを払い退けて、代わりに粗末な仏花を置く。右手には大きな建物……黒の教団本部だったものが、見る影もない程に大破してそこにあった。終戦を期に創られたこの記念碑には、多くの人々の名前が格調高く彫られていた。
幾つか懐かしい名前を見つけた後、体温を吸って温まった手袋をゆっくりと外して両の手のひらを併せる。

早い事に終戦から今日で5年が経った。人類は千年伯爵に打ち勝ち、黒の教団員達は使徒の役目から解放された。その中で生きてその日を迎える事のできたエクソシストはほんの一握りだった。

“殉職”

その栄光の下に沢山の人が死んでしまった。団員……その中でも科学班は酷くその事を落ち込んだ。勿論、私も。


「まだやってたのか」

死者に祈りを捧げる事はあちらの世界とコンタクトをとっているようで、私に時が経つ事を忘れさせた。背後の気配にすら気付きはしなかった。
いたの。閉じていた目を開いて、純白の息と共に冷めた言葉をクロスに投げ掛ける。此処まで一緒に来たというのに、この男は私が戻るまで車で煙草を葺かしていると言い出したのだ。そして墓前に関わらず、今も奴はもくもくと立ち上る煙をその細い筒から立ち上らせている。罰当たりな馬鹿は肺癌にでも掛かって苦しめば良い。
あぁでも、罰当たりはクロス一人じゃないか。

「ねー」

何だと落ち着いた声が帰ってくる。ゆっくりとした動作で立ち上がって、似非紳士の方までおよそ180度身体を捻る。

「千年伯爵はもういないんだからさぁ、」
「駄目だ」
「ちょ、まだ何も言ってない」

気に食わないのはクロスの態度なのだが、何となく外跳ねの赤毛に小さな怒りの矛先を向けてみた。そんな馬鹿な事をしていれば「どうせ世間に伯爵との戦争の事を訴えたいとか言い出すんだろ」と実に図星な言葉が帰ってきた。何コイツ。何で分かるの気持ち悪い。
というより、そこまで分かるのにどうして反対されなきゃいけないの。アンタだって憎んでるんでしょ?
仲間も弟子も何もかも奪ったあの戦争の日々を。

「信じてもらえるか?」

同じトーンで言われたたった一言で、私は金槌で頭を殴られたような気分になった。
信じてもらえるだろうか?一般人にあの戦いを、アクマの存在や神の使徒の事を。信じてもらえるのだろうか?

「なーなーの覚悟で出来る真似じゃねぇからな」
「……ごめん」

失言だった。世界に教団と伯爵の戦いを。
それは決して私ひとりの願いなんかでなく、口に出さないだけで内心では誰もが望んでいる事だった。

世界にはびこる多くの人間達は、5年前の今日を知らない。数千年という人類史上最大の戦が無事二度目の勝利の下、永久の終戦を迎えたというのに、世間はこの日を何事も無いかのように過ごし終える。そして当然のように今も人類間の戦は絶えない。何処からも悲歌は聴こえない。
何も知らないまま一生を終えるなんて、なんて彼らは愚かで滑稽だろうか。

「クロスは変わらないよね」

何も、と付け加え皮肉を混ぜた筈の台詞は、クロスの「光栄だな」という言葉に打ち負かされた。

「嘘だよ。ちょっとだけ老けた」

無言のクロスに本当に金槌で頭をかち割られそうだったので、謝ったところ踵を返しさっさと歩き始めた奴の後ろ姿を黙って見つめていた私の表情は、きっと死人のようだったろう。

知っている。クロスが度々教団を抜け出す様な人でも、仲間に信頼され、彼自身もしていた事を。
知っている。車で待っていた筈のクロスの肩に、小さく雪が降り積もっている理由を。
知っている。終戦に歓びながらも、皆亡くなった仲間を想って泣いた事を。
知っている。皆それでも前を向いて生きている事を。

「ばか」

何年経っても変わらないのは私の方だった。昔の仲間に固執し、前を見て歩かない。私はいつまでも泣いてばかりで立ち上がる気すら無かったのだ。

「ねえ……どうすれば過去を忘れる事ができるんだろう」

こんな私を見たら、皆はどうするだろう。やっぱり怒られるかなあ、と呟けば例年の如く頬には温かいものが伝った。
リナリーはいつもみたいにコーヒーでも淹れて励ましてくれるんだろうな。
立ち止まるな、歩き続けろ。アレンなんてよく口ずさんでたもんね。

エクソシストは皆強い強い心を持ってた。私には遠く及ばない、鋼の精神。

「やっぱり強いなぁ」

立ち止まってしまった私は、どうすれば前に進む為の一歩を踏み締める事が出来るだろう?


錆び付いたそれは鍍金の薇

一陣の冷たい風が吹き、少しだけ私の涙を拐っていった。

本日は終戦記念日。
栄光の日。
沢山の悲劇が終わり幾多の歓喜を味わい、とこしえの悲愴感を涙に変える日。


end.
‐‐‐‐‐‐

サびついたそれはメッキのゼンマイ。読み辛い割に題名自体は全くもって大した事がないという最悪のパターン……!←

終戦後の情景が書きたかっただけなんです。
なのに何故か初のマリアン夢が出来てしまった…いやだってこの人図太く生き残ってそう。うん。


執筆2009.02.08.sun
掲載2009.03.04.wed

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