:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


「おい、お前。ツナのファミリーに入れ」

校舎が夕日色に染まる頃、部活を終えて慣れた通学路をいつもより少し遅れて歩いていく。すると前方から来たスーツ姿の赤ん坊は私の前で立ち止まり、ちゃおっスと可愛らしく挨拶した後はっきりとそう言ったのだった。

「マグロの家族?」

見る限りまだとても話のできる年頃には見えないのだけど、彼は生意気な程に落ち着いた台詞で、私との会話を成立させていた。

「違うぞ。ボンゴレファミリーだ」
「今度はアサリ?あのね僕、」

さっきからツナだのボンゴレだの、突然過ぎて何が言いたいのか分からない。元々子供は好きなので、もう少し様子を見ようかとしゃがんで目線を近付ける。ゆっくりと話しかければ途端それを遮って、赤ん坊は「リボーン」と名乗った。不思議な子だなあ。

「リボーン君。私は海で生きれないから、マグロもアサリもなれないんだよ」
「そういう意味じゃないぞ」

あまり噛み合わなくなってきた会話に、自然と目尻が下がる。話が出来てもやはりまだ小さな赤ん坊なのかもしれない。それなら家族の人はどこだろう?とようやく赤ん坊がひとり道を歩いていたのを疑問に思い始めた私は、そのままの質問をリボーン君にする。

「お母さんは?ひとり?」
「話をそらすな。ファミリーに……」
「おいリボーン!何やってんだよ!」

どうしても私に魚介類の仲間入りをしてほしいのか、もう一度ファミリーという言葉を口にしたリボーン君の声は、突然現れた介入者によって綺麗に遮られてしまった。

「やっと見つけた!何してんだよお前」

走ってきた男の子は、到着とともにリボーン君を叱りつける。どうやら勝手に歩き回っていたようだ。
それにしてもこの小さな後ろ姿、見覚えがあるような…

「あ。沢田君だ!」
「え……あ」

私の声でリボーン君へのお叱りを中断し、振り向いた沢田君とぴったり目が合う。そこで初めて私の存在に気付いたのか、彼は驚いたように目を丸くして私の名前を呼んだ。うん。ちょっとだけ悲しい。
その人物はクラスメイトの沢田綱吉君だった。クラスが同じでもあまり接点のない私達は、正直言ってほとんど話す事もない。

「沢田君の弟だったんだね!」
「えっと……まぁ」

お兄ちゃん見つかってよかったねー。とリボーン君に話しかけた私は、隣で沢田君が困ったように眉を下げているなんて気付きもしない。

「それよりどうしてリボーンと?」
「うーん……さっき会ったばかりなんだけど、」
「俺が話しかけたんだぞ」

なんて説明しようかと思考を巡らせていたら、てっきり怒られて落ち込んでるかと思っていたリボーン君が自信満々な表情をして口を挟んだ。

「そうそう。ボンゴレとかツナとか……あ!ツナってもしかして沢田君の事?」
「そうだぞ」
「……ってリボーン!どういう事だよ!」

ん?でもそれなら沢田君のファミリー?家族?

「……あのねリボーン君。私は沢田君の家族にはなれないんだよ」
「な……っ!」

正に赤ん坊にものを教える様に私はリボーン君に語りかける。するとどうしてか反応したのは沢田君で、彼は真っ赤なタコの様に頬をその色に染めて「何言ったんだよ!」とリボーン君を責め立てた。私は何か癇に障る事を言ってしまったろうか。

「さ……沢田君、そんなに怒っちゃ可哀想だよ?」

沢田君が本気で怒ったりする所は、少なくとも私は見た事がなかった。小さな赤ん坊を叱りつける彼に怖ず怖ずと話しかける。しゅん……と縮んだ沢田君には悪い事をしたかもしれないけれど、リボーン君だってまだ善し悪しの区別が付かなくても不思議じゃないのだ。
ホッと息をつく私はちょうど沢田君の影となって見えない位置にいたリボーン君の、意味深な「ニッ」と口端を吊り上げた笑みに微塵も気付きはしなかった。


午後5時55分55秒

イタリア時代、マフィア界で思うままに名を広めたヒットマンリボーンは、実に任務遂行に忠実だった。

全ては未来のボンゴレボスを立派に成長させ、強くする為。その為にはリボーンだけでなく、張本人である沢田綱吉にその気になってもらう必要がある。だからわざわざ何もかも平凡レベルの、ただの一般人をその世界に引き込もうとしたというのに、ツナの馬鹿は最悪のバッドタイミングで邪魔しやがった。
まあ良い。奴にはどちらにしろ将来的に裏社会に慣れてもらう必要がある。好都合な事に相手はまだ俺をプリチーな赤ん坊としか思っちゃいない。話す機会なら幾らでもあるのだ。

(好きな奴がファミリーにいれば、少しはやる気も出るだろ)

某探偵漫画の名言がぴったり当てはまる、リボーンは見た目は子供中身は大人なヒットマンなのだった。


執筆2009.03.10.tue

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