:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10) ※ツナの性格捏造
飲み込まれる。
飲み込まれる。
飲み込まれる。
(誰か、)
私も、あの中の一人へ……
「いっ、」
ジリリリリリリリリリリ
「……や………って」
勢いつけて起き上がった先の広い空間は見慣れないもので、思わず首を傾げてしまった。先程まで寝ていた横で目覚まし時計が私を起こすべく忙しなく働いていて、一先ずそれを止めたところで、ようやく思い出す。
昨日から此処に、私は住み込みで働く事になったのだった。
現実に気付いた途端己の寝付きの悪い事。夏でも無いのに身に纏う寝間着は汗でぐっしょり濡れてしまっていた。
「あぁ……夢か」
「何が?」
「それがさ、酷い悪夢で……」
ん?当たり前のように話し掛ける“奴”にも、普通に言葉を返そうとした自分にも吃驚して思わず身を硬直させてしまう。
屋敷の中の一室と云っても昨日から此処は私の部屋で、鍵だってちゃんと掛けた筈なのに。なのに、
「なん……っ何で綱吉……いるの!?」
噛みまくってしまった。のだが、長年の付き合いから慣れてしまっているのだろう綱吉は、そこにノータッチで話を進める。ちょっとだけ悲しい。
「ん。依泉を起こしに?」
「だって鍵は……」
「やだなぁ。ボスが合鍵持ってない訳ないだろ?」
「…………」
当然のように私の持つものと同じ鍵を見せる綱吉には悪いが、此方としては笑顔で言われても困るしかない。というか何時から居たんだろう。幼馴染みという関係上今まで長い間行動を共にしていた綱吉だったけど、高校を出ると共に中学時代の仲間を引き連れボンゴレファミリーだのマフィアだのの関係で家を出た。
一方の私は4年制の大学を出たのだが、運の悪い事に世の中はちょうど大不況の最中、つまり就職氷河期だった。何時までも見つからない就職口。
何ヵ月振りかに連絡を取り合った綱吉に愚痴を溢していると、意外や意外。綱吉の「じゃあオレんとこ来る?」という何とも簡易な誘いでマフィアの頂点ボンゴレ10代目こと綱吉と、そのファミリーの居住地とする(聞いた時は半信半疑だったが)ボンゴレ邸への就職があっさり決まった訳であるが。
勿論お給料や仕事の内容、気になる事は事細かに聞いた訳だが、承諾の後の言い忘れていたらしい「あ、住み込みで働いてもらう事になるから最低限の荷物は纏めておいてね」という言葉には面食らった。
翌朝迎えを寄越すと言って切れた電話に、先行き不安になったのはほんの2日前の事。
次の日来たのは中学の頃人気者だった山本君で、車で人里離れた道を行く事十数分。家からでも通えなくはない気もするが、そこには立派なお屋敷が佇んでいた。
中の案内やら懐かしい人達との再会やら見慣れぬ人達との挨拶やらの後、最後に通された部屋でようやく幼馴染みと顔を合わせた私は、実に4年振りの顔と豪華な部屋とを見比べて仮にも雇い主相手に「不釣り合い」だと言ってしまった。後になって相手が苦笑するだけの綱吉で本当に良かったと思ってしまうのは、不況のせいだと思いたい。
「それで?」
ここに来た経緯を思い出すべく数日間の記憶を遡らせていた私は、綱吉の言葉で現実に帰る。悪夢ってどんなだったの?とさっきの続きを促す綱吉は何処か楽しそうだ。
「あぁ……うん。それがね。私は海の中に居て、魚の群れから逃げてるの」
何でまた、と苦笑いを溢した綱吉は、当然まだその先の展開など知りもしない。
「で、その魚がマグロの家族でさ。必死に私を一家の一員にしようとするんだよね」
「うん……ん?」
流石夢と言うのか、現実では色々と有り得ないのに綱吉は微妙な顔でリアクションを取る。いや夢だから。
「それでマグロ達を見ると爆弾とか真剣とか槍とかをヒレで持ってて。あ、黒いグローブ着けてるのもいたかな。とにかく必死に私は逃げ……」
「いやいやいや!おかしいって!」
あ、久々のツッコミ。それに今更ながらようやく綱吉に再会した実感を得た私と裏腹に、目の前の彼は顔を蒼白とさせていた。それがどうしてかなんて分かる訳も無く、ふと見た時計の指し示す時刻に目を見開く。
「え……っちょ、遅刻……!?」
確か起きたら先ず朝食の仕度をする様言われていた筈だ。人数も結構いるから時間的にもう簡単なものしか作る猶予はない。最初の印象ほど長く根付くものはないというのに!
「かっ家政婦1日目から何て事を……!」
「あ、此処屋敷だからメイドの方がしっくり来るかな」
そんな事どうだって良い。着替えるから出ていけと扉を指差せば綱吉は何か思い出した様に手を叩いた。
お手伝いさんには専用の服があるとかで、今までのものが可愛くないと批判した女性陣達のデザインが今日から採用されたらしい。ご丁寧にも箱に入ったそれを渡され、恐る恐る開けば再び私は固まりついた。デザインを知らなかったらしい綱吉が横から覗き込み、小さく驚きの声を漏らす。
「こっ、これ……着るの!?私が!」
中に入っていたのは正に家政婦よりお手伝いさんより『メイド』という言葉がしっくりくるメイド服。
こんなの着れる訳がない!あぁでも早く朝食作らないと!
綱吉に抗議するが、決定しちゃったしね、と少し申し訳なさそうに言われれば言い返す言葉もなくなる。
「ほら、オレも作るの手伝うから!」
早く着替えておいでよ!とさっさと厨房へ駆けて行った綱吉とメイド服一式を見比べて私は唖然とする他ない。
此れを着てしまえばコスプレたるものをしてしまう様な気分になりながらも、雇い主に下っ端の仕事をさせておいて急がない訳はない。
一つ一つを確かめながらブラウスに腕を通し、フリフリした短いスカートを履き……箱の中身を身に纏っていく。他にも附属のものが頭の先から天辺まで不自由なく揃えられ、そのそれぞれにはVONGOLAと云う文字がご丁寧にも目立たない形で印されていて身に付けない訳にいかないだろう。
それにしても色々と総合して考えた結果、改めて思うが本当に綱吉は此処のボスなのだろうか。
始まりの合図はいつも君から
早く厨房へ行かなければ!昨日山本君が食事にうるさい人がいると言ってたし!
12時を目前に控えたシンデレラと自分を重ねるのは失礼かもしれないが、それくらいに私は余裕がなかったと言えば伝わるだろうか。
「ごごごめん綱吉!次からはちゃんとします……っ!」
部屋を飛び出した私が10分以上道に迷った末ようやく辿り着いた先では、綱吉が手際よく食事をお皿に盛り付けていた。学生時代ダメツナと呼ばれた彼は母親の遺伝か料理だけはずば抜けて得意だった。 血の気の引いた顔で謝る私に、綱吉はのほほんとした笑顔で「結構可愛いねー」と恥であるこの格好の感想を言った。
その笑顔に初めて彼を格好良く思ってしまったのは、私だけの秘密だ。
‐‐‐‐‐‐
10年後綱吉は周りの影響で思考がちょっと並から外れちゃって、少しの事では動じない代わりに天然タラシみたくなってれば良い。←
2009.03.27.fri
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