:D,Gray-man
:神田ユウ
*夢主トリップ設定
「What is your name,please?」
「Where are you from?」
語尾にクエスチョンマークのついた質問らしい言葉の数々。そこまでは何となく分かる私は、逆を言えばそれ以上のことは何も分からなくて、ただただ首を横に振る事しかできない。
日本育ちで母国語以外ろくに勉強しなかった私は、今耳に入ってくる異国語達の意味が全く理解できない。それなのに私に向けられる言葉は止む事はない。余程混乱していたのか、それが日本にも一番浸透している英語だと云うことすら気付きはしなかった。
「も……やだ」
私はただ、学校からいつも通りに帰ってきただけの筈なのに。気付けば沢山の外人に囲まれていたのだ。
知らない場所。
知らない人達。
知らない言葉。
じわりじわりと終いには目の奥に熱いものが込み上げてくる。泣いたところで状況は変わらない。けれど恐怖心から来るであろう涙は止まるどころか遂に溢れ出空気に触れてしまった。
ちょうどその時だった。耳に馴染んだ日本語が聞こえてきたのは。
「ったく、何だって俺が……」
ブツブツと愚痴らしい台詞が耳に入るが、男性らしいその声は確かに母国の言葉を口にしていた。私を取り囲んでいた人混みが通路を作る。
そこを通って現れた同年代くらいの青年は、私を一瞥すると舌打ちを洩らす。その顔立ちの美しい事。下手すると女の私なんかより美人なんじゃないか。先程出ていた筈の涙はぴたりと引っ込んでしまっていた。
「お前、名前は?」
「え……と、貴方こそ」
暗めの室内でも分かるしかめっ面を披露した青年に、自然と出してしまった発言を呪う。せっかく話の通じる人がいたというのに、何て可愛くない切り返しだろうか!焦りを覚えた私の涙腺は再び目元に熱さを持たせる。おかしいな、私はこんなに泣き虫だった?
少しの沈黙を挟んだ後、青年は顔に張りつけた仏頂面が思わせるよりも素直なのか「神田だ」と名乗ってくれた。
「……雨澪依泉です」
おずおずとこちらも名を明かすと、周囲からざわめきが起こる。そんなに会話が成り立った事が意外か。
しかしそれを悠長に眺めている暇は無く、次々と神田さんから質問をされる。多分先程まで外国語でされていたのと同じものだろうそれに、一つ一つゆっくりと答えていく。アクマとか教団とか、よく分からない言葉も出てきたが。
「じゃあ、あんたはどうやって此処に来た?」
分からない。そう答えればまたしかめっ面をされるだろうか。私に視線をあわせる為か単に立っているのが面倒なのか、床に座り込んで質問をする神田さんは結構優しい人なのだ(多分)。
あまり嫌われるような事、したくないしなぁ。
悩んだ結果自分でもよく分からないものは仕方ないので、素直に自分の身にあった事を説明する事にした。……と言っても学校帰りにちょっと買い食いをして、普通に帰宅して玄関扉を開けて……気付けば瞬間移動して此処にいました。としか言えない。
「……ふざけてんのか?」
「滅相もない」
自分の事ながら意味が分からない成り行きはやはり他人からしても信じられないらしい。チャキリと腰にしつらえていた刀に手を掛けた神田さんからは少し苛立ちを感じ取れる。というか刀って、本物なら銃刀法違反……!
面倒臭そうに私から目を離した神田さんは、白いコートを羽織った人達と会話をし出した。質問攻めからようやく解放された私は、周囲の言葉が英語だったという事に今更ながら気付く。
(何を話してるんだろう)
先程までしっかりと日本語を話していた神田さんの口からは、現在英語が話されている。時折私の名前やらが聞き取れるものの、内容までを理解する事は私には不可能だった。
そうして暫く、私には長く長く感じた間を真剣な表情で話し合う彼らを尻目に、未だ状況が理解出来ていない私は手持ちぶさたとなる。キョロキョロと辺りを見回せば言葉と同様に部屋の内装はとても日本とは思えない。いや、事実違うのだろうけど。
高い天井。大理石の床。デザインは勿論機能性も高いと見える家具。そしてそこにいる人達の顔立ち。本当、どうして私はこんな所にいるのか。
「お前の処分が決まった」
ぼうっと質問疲れした頭を休ませてやっていると、話がついたようで神田さんが此方に戻り見下ろされる。カツ、と室内では靴を脱ぐ習慣のある日本では聞く事のない音が小さくもなく大きくもなく響き渡った。
処分と言うからには何かお偉い方が決定でもしたのか。思わず構えてしまうのは小心だからとは思いたくないものだ。
「お前には本日付で黒の教団のサポーターをしてもらう」
「……え?」
話が突飛し過ぎていて頭が追いついてくれない。「料理は得意か?」という問いに能天気にYESと答えている余裕は無かったというに。半ば強制的に明日から食堂で料理長の手伝いをしろと言われた私は理解し得ない状況でも頷くしか道はない。保護監視といった名目なのだろうけど。
居場所が無いであろう今、断れば殺すという文字通りの殺し文句は効果抜群だ。
「宜しく……お願いします?」
とりあえず鞄の中に眠っていた、使った気配皆無の和英辞書の存在に初めて感謝した事を此処に記しておく。
有償享楽
あくまで“恐らく”の域だが、平々凡々と生きていた私が俗に言うトリップなるものを経験し、この世界に来てしまったのではないか。そんな空想的理論の説明を私が聞けるのはもう少し後の事となる。
2009.04.22.wed
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