:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー
ざわざわざわざわ
明るい世間話や商談話が飛び交い御上品な笑声がホールに響く。見上げれば無駄に高い天井に、たったひとつ大きなシャンデリアがぶら下がっている。それはまるでダイヤモンドを埋め込んだ様な光で私達を照らし、その存在を主張していた。
私は今、金持ち達の社交会に来ている。決して見せびらかす様な綺麗なボディライン等持ち合わせていないというのに、ぴったりと身体に張り付くきらびやかなドレスを身に纏って。履き慣れない高いヒールなんかは、既に足の痛みの元となっていた。
「……まだかな」
素性を隠し、教団からの任務で来たこの場所に、少しの楽しさも何もなかった。それどころか酷く己が場違いに感じるこの空間で、気だるさも通り越して気持ち悪いとすら思えてくる。
パーティーが始まってもうどれ程経ったろうか。共に任務を受けた筈のパートナーは一度私の前から姿を消して、未だ戻る気配はない。待ち呆けを食らっている気分だ。
「そこの美人のお嬢さん」
突然聞こえた男の声に、自分が話しかけられている事に気付いたのは二声目が発せられた時だった。
見ると周りのおじさんおばさんと違い、まだ20代も前半だろう青年がグラスを2つ持って此方に人当たりの良さそうな笑顔を向けていた。「飲む?」と少し離れた豪華な食事の乗ったテーブルから取ってきたであろう飲み物を渡された私は、素っ気なく礼を言い受け取る。
「一人?女の子がどうしたの?」
この人もどっかの金持ちのボンボンだろうか。そんなどうでも良い事を考えながら、私はワイングラスに口をつける。さっきから私より美しく着飾ったお嬢様方の視線が痛い。やはり顔の良いらしいこの男はモテるだろうに、どうして仏頂面で隅っこにいた私に態々声をかけてきたのだ。
余談だが、私はイケメンだろうと何だろうとすこぶる他人に興味を示さない。何故ならそれは…………
「……っう!?」
突然ぐらりと視界が霞んだ。口の中に広がるこの感じ。これ……お酒じゃないの?何てこった。どギツイ香水やらにやられて嫌いなアルコールの匂いに気付きもしないなんて……。
にこにこにこ
キッと睨むような私の視線に分かっているのかいないのか、男は笑顔を崩さない。……こいつ、
「……っ」
「大丈夫かい?気分が悪いなら外まで連れていこうか?」
「うるさ……い」
ショックと拒否反応に一気に吐き気が襲ってくる。身体が熱い。一滴も飲めやしないのにジュースと思って結構豪快に飲んでしまった。
……やばい。くらくらしてきた。
元を辿ればこうなったのも全部奴のせいだ。奴が私一人置いていかなければ、アルコールなんて飲む事も、ましてこんな男に話し掛けられる事も無かったのだ。畜生何時になったら戻ってくる気だあの馬鹿は。
「すみません、オジサン」
余裕の無い割に心中酷く愚痴っていると、雑音だらけの中聞き慣れた声がはっきりと届いた。今までどこ行ってたんだ。
「彼女は僕が先約なんで消えてくれません?」
ぼんやりとする頭を上げれば、少し遠くに見えたとびきりの笑顔を浮かべてこちらを見つめる(正しくは男を睨んでいるに等しい)それは、今回のパートナーの白髪頭。真っ白く見えなくもないその笑顔は、しかし実際は真っ黒そのものだ。言葉の節々にだって棘がある。
おい似非紳士、仮にも紳士の名を使っといてその台詞は如何なもんだ。
「君は?」
アレンの登場に男が見せた表情は怪訝の色だった。とりあえずこの状況下、使えるものは使ってやろう。この事態の仕返しも兼ねて、だ。
「遅い。アレン!」
へっと男が間の抜けた声を出す。その表情は声に劣らぬ間抜け顔だ。あまり動く気分では無いのだがいつまでもこの男の近くにいるのは是非とも遠慮したいところである。最後の力を振り絞らん気持ちで立ち上がりアレンの方へ逃げ寄った。
「すみませんでした。ちょっと野暮用と言いますか」
未だ爽やかな笑顔を張り付けるアレン。台詞は見事、私の猿芝居に便乗してくれそうだ。呆ける男に見せつける様にしてぴたりとくっつき、「淋しかった」と一言。我に返った男は私が男付きと判断するや否やそそくさと退散していった。
棒読みの台詞でも何とかなるものだ。……さて、
「私を待たせるとは良い度胸ねアレン・ウォーカー」
今度の標的はこの馬鹿だ。助けてもらったお礼?いやいや今回ばかりはそれより説教を優先させて頂きたい。
「うわ、鬼が憑依したように人が変わりましたね」
「黙れ馬鹿」
あんたの来るのが遅かったせいで私は大大大ッ嫌いなお酒を……!握り拳で訴える私の責めの言葉は続かなかった。
「まあまあ落ち着いて」
にこにこと全く動じない笑顔をいつまでも張り付けたままのアレンが、軽やかな口調で遮った事によってだ。
彼は任務の一つはさっき済ませてきた所ですから。と言ってそんな事さもどうでも良いという様に手を胸にやり恭しくお辞儀をした。ついでに言うと今回の任務は黒の教団のサポーターでありこのパーティーの主催者である人物とのコンタクトと、この会場内に潜んでいるやも知れぬAKUMAへの警戒だった。アレンが言ったのは前者の話だろう。
「僕と一曲踊って頂けますか?」
全くどうしてコムイも私達ふたりをこの任務に就かせたのか。普段はあまり私情を出さないと言っても、こんな緩い任務を恋人二人で任された暁には息抜きだってする事は目に見えていただろうに。もしかするとそれがその人なりの気遣いなのかも知れないけれど、実際の所そんなのはどうだって良い。
まだまだ成長過程のアレンを子供扱いする事はよくあるものの、その度彼はムスッと口を尖らせる。自称紳士を名乗るだけあってスーツを着こなすアレンは様になっている。今日だけはからかう事をやめておくから、紳士らしくちゃんとリードをして頂戴よ。
比翼の鳥はスケルツォの中で
差し出された手をとった直後。見事にすっ転んだのは酔いが回ってきたせいという事にしておこう。
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一癖も二癖もありそうなカップルが書きたかった!
2009.05.31.sun
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